非座真救等 〜膝枕〜

明日波ヴェールヌイ

叡智の塊の大宇宙

 あと一分。あと一分で俺の、影水秀太郎かげみず しゅうたろうの用意してきた計画を話す時が来る。この計画はASMRに堕ちた俺がさらにこれを発展させるために立てたものだ。それはまだ誰も知らない。知っているのは俺だけだ。

 ピロリン!

 通知がスマホの画面に浮かぶグループ通話開始のお知らせだ。イヤホンをスマホに付けるそして通話への参加ボタンをタップ、少しのロード時間の後通話画面へと入った。


「よお!影水!」


 通話を開いたのはこいつ、七条星斗しちじょう せいとだ。こいつがASMRを勧め、俺を落とした張本人である。そしてこの計画を最も話したい人物の一人だ。


「元気だな七条。俺は結構疲れたよ。」


「まぁ、学校は省エネモードでやってるし。で、計画って何よ?」


「まぁ待て、小夜がきてから話す。」

 小夜、小夜文弥さよ ふみやとは自分達の界隈でもそこそこのレベルのオタクだ。確か前髪フェチだったはずである。ちなみにこの通話グループの中で俺は一番のオタク認定されている。三番目が七条、次に小夜だ。

 ちなみに二番目は俺の中では俺以上にやばいやつと思っている。なかなか通話に入ってこないから多分今回もこないので説明する必要はないだろう。つまりこの会話にはオタクしか居ない。そして全員男子だ。少し雑談をしていると、少し雑音が入って新しい声が聞こえた。


「ごめん、少し遅れた。」


「おっ!やつが来た!」


 ここで小夜が参戦。そしてこの通話は本編へと入る。


「じゃあ、話すか。今回の計画について。」


 まず最初にそこに至るまでの説明をする。


「七条によって俺はASMRを聴くようになったが、それによってある問題が起きた。」


「問題とは?」


 小夜が聞く。俺の中でこの問題はとても大きく皆にも共有すべき問題である。


「では、その前に七条と小夜に聞くがASMRにおいて多い体位とは?」


 この質問がこの通話の主題に関わってくる。


「僕はASMRそこまで詳しくないんだよ……」


 と、小夜。


「多分だけど、膝枕じゃない?健全なやつだと。」

 さすが七条。俺を堕としただけあってよくわかっている。


「そうだ。膝枕だ。」


「それがどうしたんだい?」


 七条はまだ分かっていなようだ。小夜は置いていかれているかもしれない。


「お前らならASMRを聴くときはどうやって聴く?」


「そりゃ、椅子に座ってか、寝て聞いて……っっ!?まさか!?」


「そう、俺らは音声では膝枕されているが、実際にはその感覚には包まれていない!そこで俺は膝枕クッションのクオリティ高いやつを作ろうと思う!」


 普通の人はこんなことを考えないだろう。むしろバカらしく思える人もいるはずだ。しかしリアリティを求める者にとってはこれは由々しき問題である。


「まじか!え、求めるクオリティは?」


「俺は骨感、足の可動、後最も重要なのは温感だと思う。」


 今実際にある膝枕クッション、あれは単純に足の形をしただけのクッション。レベルが低すぎる。


「自分は着替えとか履き替え、肌のリアルな感触が欲しい。」


 七条の言っていることもごもっともだ。人によって好みの衣装も違うし、ストーリーによって服の感じも違うだろう。そこにも対応させるのが本当に好きと言うことではないのか。


「あのさ、君たちは何?ドール作りたいの?ラブの?」


 小夜が困惑している。無理もないだろう。とてもレベルの高い上級者向けの会話だ。


「ドールに近いが、膝枕に特化させたい。」


「なる……ほど???」


 では、どんな素材で作ればいいのだろう。俺が考えていたのは骨組を金属で、温感はホットカーペットのような機構を内部に入れ、外はシリコンなどで作るというものだ。それを二人に伝える。


「骨組みはいいと思う。重さを考えれればなお良き。シリコンは手入れ大変だからそこだけかなぁ。」


 と七条。


「そもそも、温感も湯たんぽ方式じゃダメなの?」


「確かに!それだ!」


 小夜が冴えたアイデアを言う。確かに機構ではそれが一番楽かもしれない。なぜ思いつかなかったのだろう。しかし、少し重さの面も考える必要があるかもしれない。


「まぁ……少しドールも研究しなきゃな……」


 俺がそう呟くと、


「影水と小夜はどんな衣装を着させたいん?」


 七条が触れたら絶対長くなるであろう話を持ち出した。


「それって着るものと履くものによって変わるよな。」


 この場合、着るものと言うのはスカートなどの服。履くものはタイツなどのものを指す。もはやこれはフェチの域だ。


「確かに。ちなみに自分は好きなASMRが、活発系幼馴染に癒してもらう話。なんで、ショートパンツにニーソかな。」


 ニーソといえばフェチの巨塔の一つである。あのソックスに何人の人間がやられたことか。七条はその被害者だった。


「なるほどね。それで言うと俺は、家庭教師のお姉さんに耳掻きされてからその後もヤっちゃうやつ。が好きだから、タイトの少し短いスカートに60デニールのタイツだな。」


 俺も俺でタイツという一大勢力にやられていた。


「60デニールって細かっ!でもなんでよ?」


「まず、デニールってタイツの厚みなんだよ。でな、20デニール以下は一般的にストッキングって言われていて、あの透け感が良いんだ!40デニールは程よい透け感と立体感が女らしさを演出する!60デニールはよく使われていて日常感が凄いいいんだ!ちなみに80デニールはカジュアルさがあってファッションとして良くて、100デニール以上はあの厚みがたまらないんだ!その中で日常系が好きな俺は特によく使われる60デニールが好きでたまら……」


 ここまで一気に話すと七条に遮られた


「ストップ。ストップ!影水のタイツ愛は分かったから!自分らの頭パンクするから!で。小夜は?」


「一つ言わせてくれないか?僕の意見としてファッションは全身を見ることでそのバランスを愛でるんだ。つまり下半身を語るのは少し間違っている。それに僕たちは日本人だろう?タイツやニーソではなく和服、すなわち着物を愛でるべきじゃないのか!そして、」


 なんと説得力のあるセリフだ。小夜が和を好むことを忘れていた。確かに和服も悪くない。しかも、


「まさか!タイツ足でもなく、ニーソでもなく……」


 俺は唾を飲むこむ。そして小夜はとてつもなく尊いものを出してきた。


「そう!生足こそ至高のファッションだろう!」


「やられた!履かない美か!」


 なんていう会話だ。しかし、こんな会話はこれが初めてではない。むしろ日常である。


「俺は言いたい。それでも!ニーソも!タイツも!ガーターも!網タイツだっていいんだ!」


 フェチの応酬、ギャルゲー・美少女ゲーに欠かせない要素、オタクのロマン。これを語れるのがどんなに幸せな事か。


「それぞれに合う衣装があると自分は思う!ニーソならショートスカートやチャイナドレス。タイツならタイトスカートやメイド服。ガーターなら制服に!網タイツならバニースーツなど!もちろん生足は着物!」


 七条言ったこのセリフには共感しかない。もはや共通認識だ。


「相性は大事だよな…その点で袴×タイツ、裸エプロンなんかは特異だよなぁ。」


そして七条は左右非対称の美、そして色をを持ち出した


「後、片足ニーソもいいと思う。今までは黒の話がメインだけど、白ニーソ、白タイツ、カラー系も捨て難い!」


 だんだん深夜テンションが極まっていく。こんなのを他の人が見たら変態と蔑むだろう。しかしそんなことは関係ない。俺たちが好きであるならそれでいいのだ。

エッチな話というのは今まで苦労した先人たちの探究と開発、並ならぬ努力によって形作られた人類の叡智。すなわちエッチは人間の人類のこの世の中の叡智の塊なのだ。その上この世の知識、知性、知恵というものは人間がエッチを繰り返すことによって紡がれてきた。もしそれがなければ人類など滅んでいるのだ。それを嘘だとは言わせない。言わせてなるものか。

 こんな話も極めていけば芸術となる。古くはギリシャ・ローマ、それ以前から始まり、話、彫刻、絵画、音楽、その他もろもろの芸術にも多大なる影響を与えてきた。恋愛だって元を辿れはこの話へと行き着く。

 ただただ卑猥とだけしか言えない無能には用はない。これは人類の叡智の話なのだ。

 話が盛り上がっていく中で新たな雑音が少し入った。


「何話してんの?」


 この声はこの中で二番目とされているオタク、大神 利樹おおがみ としきだ。俺たちは彼に今までの話の経緯を話す。


「へー、いいじゃん高く売れそう。膝枕クッション絶対需要あるだろ。」


 大神はこういうグッズは結構好きなようで、かなり調べているようなやつだ。


「だろ!でさ!大神はどんな衣装が一番いいと思う!?」


 俺がそう聞くと大神は少し悩んだ。彼の回答を俺たちは固唾を飲んで見守る。


「それさ。俺が思うに、お前ら妄想の中でどうせ脱がすから

 どうでも良くね?」


「はぁぁぁっっっっっ!!!!?????」


 同時に三人は絶叫、この通話は日付が変更しても終わることはなかった。

 膝枕とは、ただ座っている女子にしてもらうだけではない。リアルから逃れられる救済なのだ。そして叡智の塊の大宇宙なのだ。

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