若者よ、参選せよ!

@genjin

若者よ、参選せよ!


若者よ、参選せよ。


「選挙権年齢が十八歳に引き下げられて、いよいよ明日が初めての参議院議員選挙の当日になります。」

「渋川恵子アナウンサーが、名古屋駅の地下街に行っています。」

「メイチカの渋川アナ。聞こえますか。」

「はい、渋川です。」

「ちょうど、メイチカにいた十八歳の大学生三人にインタビューしてみます。」

「お忙しいところ申し訳ありませんが、ちょっとよろしいでしょうか。」

「全然忙しくないよ。これから、どう暇を潰そうかって話していたところさ。」

「選挙権が十八歳に引き下げられて、いよいよ明日が最初の参議院議員選挙になりますが。」

「あなたたちは、明日、投票しますか。」

「俺たち。」

「はい。」

「行かないよ。」

「俺も行かない。」

「俺も。」

「あなたたちは、どうして行かないのですか。」

「選挙。興味ないもん。」

「それに、俺たちが投票したからって世の中、変わるわけもないしね。」

「そうそう。誰に投票したって世の中良くならない。」

「それでは、もし、投票するとすれば、どの政党または、誰にしますか。」

「そんなこと聞かれても、分からないよ。」

「どうせ自由党が圧勝でしょう。」

「そうそう。自由党が無難かな。」

「もう、いい。」

「あっ、はい。あとひとつ。」

「この土日をどのように過ごされますか。」

「そうだな。」

「そうだ。映画でも見に行こうか。」

「映画ですか。有難うございました。」


「どうやら、彼らにとっての選挙は、映画ほどに興味がないようです。」

「今度は、あちらにいる女性たちに聞いてみます。」

「あのう。ちょっと、よろしいでしょうか。」

「選挙のことでお伺いしたいのですが。」

「あなたたちは、学生ですか。」

「私たち。同じ大学の一年生だよ。」

「でしたら、明日の選挙に参加できる権利がありますね。」

「行きますか。」

「私は行かない。」

「私も行きません。」

「そちらの二人は。」

「行かないよ。」

「行きません。」

「どうしてですか。せっかく選挙権があるのに。」

「選挙。興味ないし、行ったってしょうがないもん。」

「そうそう。行ったからって世の中が良くなるわけもないしね。」

「もともと政治に興味ないから。」

「どうせ自由党の圧勝でしょう。」

「有難うございました。」

「加瀬さん。マイクをいったんスタジオに返します。」

「分かりました。引き続き街頭インタビュー、お願いします。」

「分かりました。」


「これでは、せっかく選挙年齢を十八歳に引き下げても投票率の底上げは望めそうもありませんね。」

「投票率の低迷は、今に始まったことじゃないよ。」

「そうですね。十八歳の若者に関係なく、各年代層についても同じです。」

「このグラフを見てください。直近の国政選挙の投票率です。」

「高齢者の年代は七〇パーセント、四十代で四〇パーセント、三十代で三〇パーセント、二十代では一〇パーセント以下になっています。」

「全体で四〇パーセント以下です。」

「明日の参議院議員選挙は、今まで以上の低投票率になると思いますよ。」

「嘆かわしいことですね。」

「嘆かわしいだけじゃ済まないよ。」

「若者に限らず政治への無関心は、自由党の一党独裁を容認していると。」

「そのとおりだ。そのしわ寄せが、今の若者の未来を決定する。」

「そうですね。そのことに若者自身が気づいていない。ということですね。」

「そこが問題だ。しかし、その頃には、我々はこの世にいないだろうけどね。

「以上、政治評論家の川端さんでした。」

「有難うございました。」

「次の話題ですが。」


「金子、映画って。今、何やってんだよ。」

「知らないよ。行ってみて面白そうなやつがあったらなあって思っただけさ。」

「それじゃ、行くだけ行ってみるか。」

「そうしよう。そうしよう。」

「他にやることないしさ。」

「あの、済みません。」

「なんですか。おじさん。さっきのテレビ局の人。」

「いや。その・・・。」

「んーもう。なんですか。」

「君たちは、明日の選挙に行った方が良いと思いますよ。」

「大きなお世話です。僕らの自由でしょう。」

「でも、政治に無関心だと君たちの将来がめちゃくちゃになりますよ。」

「おっさん、未来でも見てきたの。」


「将来がどうなるかなんて分かんないでしょう。」

「それに、僕たちは今が楽しければそれでいいんだ。じゃあ。」

「そうですか。かわいそうに。」


「ミッドランドスクエア。この出口だ。」

「良し、一挙に掛け上がって。うわ、眩しい。」


「いたぞ。」


「こんなところに一人倒れてやがる。」

「ほかの連中は。」

「地下街に逃げ込みました。」

「厄介だな。ばらばらに逃げられたら、そう簡単に見つけ出せないな。」

「脱走の罪は重いぞ。」

「手こずらせやがって。」

「あれ、隊長。こいつの身元が分かりません。」

「そんな馬鹿な。IDチェッカーが壊れているのか。」

「そんなことはありません。ほら、隊長も私も。」

「チェッカーの故障じゃないのか。」

「どういうことでしょう。」

「分からん。憲兵隊本部に連行する。」

「おい、起きろ。」

「うっ、頭が痛い。」

「あなたは誰ですか。」

「第十師団、第十憲兵隊の牛島曹長だ。」

「えっ、憲兵隊。何それ。」

「あれ、田中と佐藤は。」

「何、寝ぼけてんだ。」

「曹長、早く連行しろ。」

「はい、隊長。」

「さっさと乗れ。帰ったらみっちりしごいてやる。」

「あの。」

「うるさい。静かにしろ。」


「曹長、取り敢えず監禁しておけ。後で尋問する。」

分かりました。こっちへ来い。」

「あの。」

「うるさい。話はあとだ。この部屋で待ってろ。」

「えっ、どうして僕を監禁するんですか。納得がいきません。」

「あとで隊長がお前を尋問する。それまでおとなしくしているんだ。」


「さて、君は誰だね。」

「誰だねって言われても、答える義務はありませんよ。」

「それに、知らない人たちに個人情報を言うほど馬鹿じゃない。」

「個人の自由と権利は厳守してください。」

「お前、馬鹿か。今の世の中、個人の自由も権利もへったくれもあるもんか。」

「曹長、そう熱くなるな。」

「君は、本当に我々のことを知らないのか。」

「はい。」

「私は、第十師団第十憲兵隊隊長の菅沼中佐だ。」

「こっちが本部付の牛島曹長。」

「えっ、あなたたちは自衛隊。」

「やっぱり、お前。頭おかしいぞ。」

「ここは守山の国防軍第十師団司令部だ。」

「国防軍。」

「そうだ。それより、君の名前とID番号を教えてもらいたい。」

「ID番号って、マイナンバーのことかな。でも、登録していないしな。」

「それじゃ、名前だけでも良いぞ。」

「名前を聞いてどうするの。」

「名前が分かれば、君の身元もはっきりする。」

「そうだ。身元が判明すれば、脱走兵かどうかも分かるぞ。」

「脱走兵。僕が脱走兵。どういうことですか。」

「その質問に答える前に、君の身元をはっきりさせないと。」

「僕は、城西大学の一年、金子雄太郎です。」

「ほら、学生証。あれ、ない。」

「見え透いた嘘をつくな。」

「まあ、待て。」

「曹長、今の名前と大学名で身元が分かるはずだ。」

「はい。早速、検索してみます。」

「ところで、金子君が言っている自衛隊とか、自由とか権利がどうとか。今の時代じゃ、死語同然になってるよ。」

「えっ、死語って。」

「今は、そういう言葉は全く使われていないということだよ。」

「今はって、」

「隊長、身元が分かりました。それが変なんです。」

「城西大学は、三十年前に閉校になっています。」

「それに、金子雄太郎なる人物は、現在、レーダー防空軍秋田イージスアショア大隊の中隊長です。」

「えっ、大学が廃校。あり得ない。僕は今年、入学したばかりですよ。」

「うむ、変だな。君が言う今年って、何年だ。」

「何を言ってるんですか。今年は今年。」

「いいから、年代を言ってみろ。」

「あんたたち、おかしいよ。」

「今年は平成二八年、二〇一六年に決まってるでしょ。」

「お前の方がおかしい。」

「今は、二〇五一年だ。」

「城西大学はとっくの昔に廃校になっている。ほら、見てみろ。」

「嘘だ。あっ、これ、ドッキリ。」

「そうだ。ドッキリでしょう。カメラはどこ。」

「とぼけても無駄だぞ。」

「兵役を逃れるために頭がおかしくなったふりをしてるんじゃないのか。」

「曹長、そこまでだ。」

「もう、昼だ。食事にしよう。」

「申し訳ないが、今のままじゃ君を解放するわけにはいかない。」

「曹長、後で彼に弁当をもって来てやれ。話の続きは、食事後だ。」


「そう、確かに曹長の言うとおりだ。」

「彼は、兵役を逃れようと突拍子もないことを言っているに違いない。」

「隊長も、そう思うでしょう。」

「しかし、腑に落ちないことがある。」

「なんですか。」

「金子雄太郎という実在の人物の名前を語ったことだよ。」

「出まかせに言っただけですよ。」

「出まかせにしては変だ。」

「金子大隊長の資料をモバイル画面に出してくれ。」

「はい。」

「曹長、見てみろ。」

「金子大隊長は、彼が言ったとおり二〇一六年に城西大学に入学。四年で卒業。」「二年の兵役を経て、そのまま空軍に入り現在に至っている。」

「私と同期だ。同じ時期に徴兵されている。」

「そして、私は兵役後、陸軍に残った。」

「そうなんですか。」

「ああ。」

「ごまかそうと、つい苦し紛れに出した名前がたまたま一致しただけでしょう。」

「そうかもしれない。」

「良し。午後は、彼の演技に合わせて取り調べてみよう。」

「そうしましょう。奴の化けの皮を剥いでやりましょう。」

「そうだな。絶対に兵役を全うさせるぞ。国民の義務だからな。」

「その前に、念のため午前中のビデオを金子大隊長に見てもらい意見を聞こう。」

「分かりました。大隊長あてに依頼のメッセージを送っておきます。」


「金子君、焼き肉弁当、美味しかったかね。」

「そんなことより、早くうちに帰してくださいよ。」

「どうやら、君は一時的な記憶喪失になっているのかもしれない。」

「記憶喪失。そんなことないですよ。僕、今までのこと覚えていますよ。」

「それじゃ、君がメイチカの出口で倒れる前に何をしていたか覚えているか。」

「友達と映画を見ようと思って。そうだ。佐藤と田中は。」

「あそこには君一人しかいなかった。」

「曹長、ちょっと。」

「彼と一緒に逃げた連中に、佐藤と田中という名前の者はいたか。」

「いません。」

「鈴木と高橋、伊藤、前畑の四人です。」

「佐藤や田中じゃなくて鈴木とか高橋、伊藤、前畑という名前じゃなかったか。」

「違うよ。佐藤と田中だよ。」

「分かった。それじゃ、その連中と別れたとき、彼らはどこに行くとか言っていなかったかね。」

「別れてないよ。一緒に映画見に行こうって言ってたんだから。」

「あいつらどこに行っちゃったんだろう。」

「それは、こっちが聞きたいくらいだ。」

「いい加減にとぼけるのは止めろ。」

「お前の本名と年齢、それと逃げた仲間の居場所を正直に答えろ。」

「嘘じゃありませんよ。僕は本名をちゃんと言ってるし、十八歳の大学生です。」「それに、逃げた仲間って。何のことか、さっぱり分かりません。」

「本当、あったまくるな。とぼけるのも大概にしとけよ。この野郎。」

「止めてください。」

「曹長、落ち着け。暴力はいかん。その手を放すんだ。」

「隊長、でも。」

「良いから放せ。」

「分かりました。」

「済まん。金子君。」

「曹長は、君が兵役を逃れようと嘘を吐いていると思っているんだ。」

「兵役ってどういうことですか。自衛隊は志願制でしょう。」

「それに、さっき言ってた国防軍も。日本は軍隊を持ってないでしょう。」

「憲法九条に書いてある。」

「やっぱり、君は記憶の一部を喪失しているようだ。」

「僕は、記憶喪失じゃないですよ。ちゃんと今までのこと覚えています。」

「しかし、君は大学一年生のときまでの記憶しかないようだ。」

「ないようだって。そこんとこの話がおかしいんですよ。」

「まあ、良いから。私の話を聞きなさい。」

「その前に、曹長。今日の新聞を持ってきてくれ。」

「はい。」

「どうして、君がメイチカの地上出口で倒れていたのか。」

「君の記憶がないのか。」

「君のIDが確認できないのか。」

「君については、分からないことだらけだ。」

「この管理社会の現代で、君の情報が全く検索できない。」

「あり得ないことだ。」

「隊長、新聞を持ってきました。」

「金子君、これを見たまえ。」

「これを見たまえって言ったって。これ普通の新聞じゃないですか。」

「ちょっと雰囲気が違うけど。」

「記事じゃないよ。日付だ。」

「えっ、二〇五一年。令和三三年。」

「どういうこと。令和って。」

「僕、タイムスリップしたの。」

「馬鹿なこと言うな。あくまでも、とぼける気か。」

「曹長、静かに。曹長は黙ってこれからのことを記録するように。ビデオもだ。」

「分かりました。」

「金子君。現実にタイムスリップなんてあるわけがない。」

「君が本当に十八歳なら、君が生まれた年は二〇三三年、令和一五年になる。」

「城西大学はとっくの昔になくなっている。」

「そんな馬鹿な。あんたら、嘘、吐いてる。」

「現に。学生証、どこで落としたんだ。嘘じゃない。」

「嘘、言ってるは、お前だろう。」

「曹長。」

「済みません。」

「それじゃ、君が言うとおりだとして、二〇一六年以降のことをかいつまんで話すから黙って聞いてもらいたい。」

「君がいう二〇一六年は、選挙権が一八歳まで引き下げられた年だ。」

「ちょうど、私も一八歳で城東大学の一年生のときだった。だから覚えてる。」

「君は選挙に行くほうかね。」

「いいえ、行かない。」

「行っても世の中ちっとも良くならないし、政治に全然興味ないから。」

「そうか。」

「実は、私も当時は選挙権が与えられていながら、大学卒業後に徴兵されるまで政治には全く興味がなく選挙にも行かなかった。」

「後で分かったことだが、国政選挙をはじめ地方自治体の首長選挙も含めて投票率は年々低下し、三十パーセントを切るようになっていた。」

「ちょうどそのころから、議員に立候補する者もいなくなり、定員割れする自治体が目立ち始めた。」

「その結果、立候補さえすれば誰でも議員になれた。」

「ただし、何千万という選挙資金が払えるものだけに限られたがね。」

「だから、世の中が徐々に変わってきていることにも無頓着でいた。」

「世の中がどう変わったんですか。」

「国民の政治への無関心が、いつの間にか日本をして軍事国家にならしめた。」

「あっ、曹長。ビデオを一旦、止めてくれ。」

「はい。」

「私は徴兵されたとき、官憲に抗ったがどうしよもなかった。後の祭りだった。」

「知らないうちに日本は、独裁制民主主義国家になっていた。」

「なんですか。その独裁制民主主義とは。真逆の言葉が重なっている。」

「まだ、言論の自由が残されていた時代の新聞が、当時の政府を揶揄して書いた言葉だ。」

「二〇二三年に当時の総理大臣が悲願としていた憲法が改正され、防衛相は国防省になった。」

「そして、自衛隊も国防軍に格上げされた。」

「もっと最悪なのは、総理大臣をはじめ各大臣職が世襲制になったことだ。」

「さっきも言ったが、国民の無関心と議員のなり手がないことを理由に、いつの間にか憲法に謳われてしまった。」

「そして、総理大臣は、司法、立法、行政、軍事、検察、全ての政府機関の人事権を握り独裁者となった。」

「建て前上は三権分立であり、軍事や検察も独立機関となっている。」

「それで、独裁制民主主義なる造語ができたんですか。」

「そのとおりだ。」

「でも、国民がいくら無関心だからと言っても、いとも簡単に自由主義、民主主義国家が独裁国家になるわけがないでしょう。」

「時代が要求した。」

「時代が要求。どういうことですか。」

「二〇二〇年の東京オリンピックが新型コロナウィルスのせいで中止になったことを覚えているかい。」

「何言ってるんですか。オリンピックは四年後ですよ。」

「まだ、未来の話です。」

「それ以降のことは。」

「それ以降って。」

「その後の三〇年余りの出来事だよ。」

「だから、」

「待った。曹長は口を挟まない。」

「うむっ。」

「分かった。そのときの時代背景を話そう。」

「オリンピックの年にアメリカ大統領が、自国第一主義を掲げて二期目の当選を果たした。」

「彼は、自国の利益を最優先課題として外国に駐留していた米軍をすべて撤収させた。」

「えっ、それは大変だ。」

「待てよ。ということは、沖縄の基地もなくなったと。」

「良かったじゃないですか。長年の基地問題が解決して。」

「米軍の撤退は、日本だけじゃない。」

「極東はもちろん。中央アジア、アフリカ、南米、そして、NATOからも。」

「これは何を意味するか分かるかね。」

「分かりません。」

「アメリカの軍事力が世界の警察として国家間や民族、宗教の違いから起こる紛争に目を光らせていた。」

「いわば、紛争勃発の抑止力だった。」

「それがなくなった。」

「当然、今までの軋轢がいっぺんに噴出した。」

「この三〇年あまり、民族や宗教間の争いが後を絶たない。」

「幸い、国家間の戦争は今のところ起きていない。」

「しかし、極東地域は一触即発の危機に陥っている。」

「一触即発とは、どういうことです。」

「いつ起きてもおかしくないということだ。」

「どことどこがですか。」

「日本とKCS国だよ。」

「えっ、KCS国。」

「それも嘘だ。KCSにそんな国力はないでしょう。」

「いや、今はある。」

「極東地域の米軍が撤退を完了した二〇二二年に、KCS国がK国を無血占領した。」

「無血占領。」

「ああ。当時の日Kは徴用工賠償問題を端緒として関係が悪化し国交を断然した。」

「そこに、米軍撤退だ。」

「徴用工賠償問題って。」

「君には未来の話になるな。」

「詳細については、後でこのモバイルで調べると良い。」

「その結果、当時のK国大統領はTY国寄りの政策に舵を切った。」

「TY国は、金家を手先に使ってK国をKCS国に併合させてしまった。」

「嘘でしょう。アメリカが黙ってないでしょう。」

「アメリカ大統領は、自国が攻撃されたわけでもないと遺憾の意を表明しただけだった。事実上の黙認だ。」

「TY国は、このアメリカの対応を機にTw国も武力で併合してしまった。」

「アメリカ大統領は、ツイッターでTY国を非難するだけで何もしなかった。」

「君は、中華思想なるものを知っているかね。

「ラーメンの種類ですか。」

「そう来るか。」

「中華思想とはTY国が世界の文化,政治の中心であり,他に優越しているという意識,思想のことだ。(ブリタニカ国際大百科事典)」

「KN民族の誇り。そして、常にTY国人の意識の底流にあるものだ。」

「日本人は、みな思った。次は日本だ。」

「しかも、アメリカは守ってくれないと。」

「そんな時代背景が、日本人の不安を助長させた。」

「そして、全国民が当時の首相の悲願でもあった憲法改正を支持し、あまつさえ軍隊をも保持することに賛成した。」

「まさに、歴史は繰り返される。だ。」

「K国がKCSに併合されてから、国民への圧政はますます激化した。」

「将軍は、圧政に対する国民の不満の矛先を先の戦争責任や慰安婦問題、徴用工賠償問題などを蒸し返して日本に向けさせた。」

「例によって日本は、スケープゴートにされている。」

「ここにきて、その不満がピークを迎えている。」

「人民軍が日本を武力攻撃するのも時間の問題だ。」

「そうなったら、お前は軍事教練を受けずに、即、最前線行きだ。」

「ざまあみやがれ。お前が政治に無関心で選挙に行かなかったせいだ。」

「そんなむちゃくちゃな。」

「曹長、日本がこうなってしまったのは、彼だけの責任じゃない。」

「ましてや、極東問題も含めた国際情勢の悪化も彼の責任じゃない。」

「あたり前ですよ。」

「いや、冗談だ。」

「ところで、どうだ。」

「ここまでの話で何か思い出したことはないか。」

「自分のことじゃなくても良いぞ。何でも構わん。」

「何を思い出せば良いんですか。」

「君の本名と年齢。逃げた仲間のことだよ。」

「だから、言ってるでしょう。」

「嘘言え。」

「曹長。」

「申し訳ありません。こいつを見ていると、ついついイライラしちゃって。」

「埒が明かんな。」

「隊長、例の中隊長から返事が来ています。」

「分かった。ここで一旦休憩しよう。」


「手強いな。」

「隊長、奴が本当のことを言うわけありません。」

「早速、大隊長のメッセージを見よう。」

「むむ。どういうことだ。」

「どうしたんですか。」

「曹長、読んでみろ。」

「はい。」

「ビデオを拝見しました。これは、私が十八歳の時のものです。」

「どこで撮ったものか忘れましたが。」

「このビデオ、どうやって入手したのですか。」

「宜しければ、教えてください。」

「どういうことでしょう。」

「本人に直接聞くしかないな。」


「イージスアショア大隊です。」

「第十師団の菅沼中佐です。金子大隊長、お願いします。」

「申し訳ありません。」

「どうしたのですか。」

「今、KCSからの大規模なジャミングを受けています。」

「大隊長は、対応に追われて電話に出ることができません。」

「ジャミング。」

「はい。日本の防空レーダーの全てが使えません。」

「日本へのミサイル攻撃が補足できなくなっています。」

「間もなく日本全土に空襲警報が発令されます。」

「大変な時に済みません。後ほど、また、連絡します。」

「隊長、核シェルターへの避難命令が発令されました。」

「分かった。師団司令部のシェルターに避難だ。彼を」

「間に合いません。」

「仕方ない。彼のことは諦めよう。」

「どうせ脱走兵です。気に掛けることはないですよ。」


「何のサイレンだろう。」

「誰かいませんか。あのサイレンは何ですか。」

「菅沼さん。牛島さん。いませんか。」

「誰か。ここから出してください。

「くそ、誰もいないみたいだ。」

「この窓の高さじゃ飛び降りられないし。」

「うわ、眩しい。」

「ドッ、ドーン。」


「おい。大丈夫か。誰か救急車を呼んでくれ。」

「おっ、目を覚ましたぞ。」

「うわ、眩しい。」

「君たち大丈夫かい。」

「今、救急車を呼びますから。」

「あっ、待ってください。」

「ここは、」

「メイチカのミッドランドスクエアの出口ですよ。」

「えっ、守山じゃないんですか。」

「大丈夫ですか。」

「この人、どこか頭打ったんじゃない。」

「夢か。」

「今何時。あれ、インタビューを受けてからそんなに時間がたっていない。」

「救急車いいです。大丈夫ですから。」

「本当に大丈夫ですか。」

「はい。」

「でも、三人いっぺんに倒れるからみんなびっくりしましたよ。」

「この階段をいっきに駆け上がったところで三人とも倒れてしまうなんて。」

「本当、びっくり。」

「えっ、三人。」

「そうですよ。今どきの若者は運動不足なのかね。」

「これくらいの階段、いっき上がりして倒れるなんて。」

「佐藤、田中、大丈夫か。」

「ああ、金子も大丈夫そうだね。」

「みなさん。ご迷惑を掛けてすみませんでした。」

「本当に救急車、呼ばなくていいの。」

「はい。もう大丈夫です。」

「君たちも。」

「はい。」

「しっかり運動しなさいよ。」

「有難うございました。」


「あのさ。もう、映画見に行くの止めよう。」

「それとさあ。俺、明日、投票行くわ。」

「俺も。」

「僕も行くよ。気を失っているときに、なんか変な夢見ちゃったし。」

「えっ、金子もか。」

「田中もか。」

「実は俺もだ。」

「佐藤もかよ。」

「三人いっぺんに気絶したのも変だし、変な夢見たっていうのも変だし。」

「金子が見たっていう変な夢って何。」

「僕が二〇五一年にタイムスリップした夢。」

「俺の夢は、街がめちゃくちゃで瓦礫の山になってた。」

「何語かわからない言葉を話す軍人みたいな人たちに囲まれていた。」

「他の人たちも捕まっていた。」

「そうだ。俺たちの次にインタビューを受けていた女子大生もいた。」

「そのあと。」

「鉄格子で囲まれた車に乗せられて刑務所みたいな建物に監禁された。」

「なんか。もう、訳が分からなくて。一緒に捕まった人たちに聞いたんだけど。」

「彼が言うには、今は二〇五二年。去年、日本はKCSの核攻撃で壊滅。」

「生き残った者は、男は兵隊になるか殺されるか。」

「女はKCS国軍の慰安婦にされるんだって。」

「なんで、そんなことになってるのかって聞いたら。」

「政治に無関心だった昔の奴らのせいだって。」

「いつの間にか、日本もTY国と同じく自由党一党の独裁国家になっていたって。」

「しばらくして、なんか取調室みたいな部屋に連れて行かれたんだ。」

「そこで、KCS国軍に入れば命は保証すると言われた。」

「もちろん.。即、断った。」

「そしたら、有無も言わさず外のコンクリート壁の前に立たされた。」

「これは夢だ。こんな理不尽が許されるわけがない。」

「おれは、必死で叫んだ。助けてくれ。と」

「そしたら、さっきの男が舌なめずりをして、もう、遅いよ。」

「日本人は皆殺しだ。」

「そうだよ。太平洋戦争の恨みも晴らさないとな。」

「俺の前にいた男たちが銃を構えた。」

「嘘だろ。なんで。どうしてこうなった。」

「その時、サーチライトが俺を照らした。その眩しさで思わず目を閉じた。」

「そして、目を開けたらお前たちがいた。」

「ほっとしたよ。やっぱり夢だった。と」


「田中は、」

「俺は、戦場で戦っている夢だった。」

「戦場。」

「ああ、バトルアーマーを着て敵と戦っていた。」

「最初は、バーチャルゲームかと思ってバンバン敵を倒した。」

「面白くって。なんでこうなっているのかなんて考えずに遊びまくった。」

「映像もリアルで。」

「でも、隣にいた味方が吹き飛ばされてヘルメットごと頭が飛んできた。」

「ヘルメットが割れて中から血まみれの顔が見えた。」

「ゲームじゃない。本物だった。」

「撤退命令が俺の頭の中に響いた。」

「するとバトルアーマーが勝手に動き出し、他の連中と一緒に戦場を離脱した。」

「背後で閃光と爆発が起こり俺は爆風とともに吹き飛ばされた。」

「気が付くと、電子機器で囲まれた部屋に寝かされていた。」

「もう大丈夫です。全て順調です。なんか頭の中から声が聞こえているような。」

「ひとりの看護師がバトルスーツのヘルメット越しに俺の顔を覗き込んできた。」

「さあ、立ってみてください。」

「俺が立ち上がると、そこに数人の看護師がいた。」

「握手させてください。」

「サイン、貰えませんか。」

「あなたは日本の誇る英雄です。」

「みんな、あなたに憧れています。」

「あの。すみませんが、ここはどこですか。」

「安住技師。なんか変ですよ。田中曹長。」

「おかしいな。脳には、なんの損傷もないのに。」

「それに、故障したパーツは全て米国製の最新のものに交換したんだがな。」

「あの、」

「はい。」

「ここはどこですか。」

「ここは、守山の第一〇師団管区にあるバトルアーマーの修理工場です。」

「このバトルアーマー。本物ですか。」

「こんなの俺が夢中になっていたゲームにもなかったですよ。」

「ゲームって。」

「バーチャルゲームですよ。」

「ああ、半世紀も前に流行ったゲームのことですか。」

「はあ、半世紀も前ですか。すると、今はいつなんですか。」

「そんなことより、そこに座ってください。」

「もう一度、脳の検査をします。」


「やっぱり、どこも異常なしか。」

「あの、」

「大丈夫ですよ。」

「田中曹長が知りたいことは、全てアイボが答えてくれますから。」

「次の戦闘命令が来るまで、この部屋を使って休んでいてください。」

「私たちはこれで失礼します。」

「相棒ですか。」

「相棒じゃなくて、アイボですよ。」

「あなたのパートナーと言えばそうなんですが。」

「アイボ。昔流行った犬型ロボットの名前。」

「違いますよ。アイボは、あなたのバトルアーマーに組み込まれたAIですよ。」

「それじゃ、ゆっくり休んでいてください。」


「アイボ。」

「なんですか。」

「今は、何年だい。」

「西暦二〇七三年です。」

「そんな馬鹿な。」

「いいえ。馬鹿ではありません。私は、最新鋭のAIです。」

「第二十三世代年式のシリコンバレイ製です。世界一のAIです。」

「いや、君のことじゃないよ。俺は、さっきまで二〇一六年の名古屋にいた。」

「そうだ。友達と一緒だった。みんなはどうしたんだろう。」

「みんなとは、誰ですか。」

「金子と佐藤だよ。」

「フルネームとID番号を言ってください。」

「名前は分かるけど、ID番号って。」

「二〇二五年から義務付けられた個人識別番号です。」

「マイナンバーのことかな。」

「違います。」

「IDは、生まれた時点で脳内に埋め込まれるナノチップのことです。」

「この番号によって全国民は、国家に管理されています。」

「俺にもあるのか。」

「はい。あなたの番号は、A10325427番です。」

「田中聡、七五歳。第一〇歩兵師団所属のバトルアーマーです。」

「名前はあっているが、年齢が違う。おれは、まだ一八歳だ。」

「覚えていないのですか。」

「苛烈な戦闘による一時的なストレス性障害だと思われます。」

「今の日本は管理社会と言ったね。日本は自由民主主義国家じゃなかったかな。」

「二〇二〇年に現政権が四期目に入り、その後、自由党一党の国家になりました。」

「それ以降、政治は一部の特権階級のものになりました。」

そして、二〇二五年には、国民管理法が制定されました。」

「国民管理法。」

「はい。国家が全国民を管理し、安心安全な社会作りを担保するものです。」

「効率的に犯罪を取り締まれることが可能になりました。」

「二〇三〇年以降は、犯罪発生率がゼロになりました。」

「しかし、個人の自由は。」

「あります。公共の福祉に反しない限り。」

「つまり、犯罪者にならない限り自由は保証されます。」

「でも、公共の福祉の中身は誰が決める。国家か。」

「うむ。どうして、そうなった。」

「結論から言えば、国民ひとり一人の政治への無関心が原因です。」

「選挙は形骸化し、誰も権利を行使しなくなりました。」

「そんな質問をするなんて。やはり、記憶域に何らかの障害があるようです。」

「聡は、約半世紀に亘って戦い抜いてきた歴戦の勇士です。」

「そうだとしても、バトルアーマーを着たからといって七五歳の老人が戦えるものなのか。」

「聡の体は、ありません。」

「脳を除いては。体は全て最新のバトルアーマーです。」

「脳を除いてとは、どういうことだい。」

「そこの鏡に自分を映してみてください。」

「鏡を見て俺は気を失った。そして、」


「鏡を見て、どうして。」

「鏡に映った俺の姿は、透明な入れ物に入った脳以外は全て機械だった。」

「昔、テレビ漫画にあったようなロボットだった。」


                               おわり

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若者よ、参選せよ! @genjin

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