第4話 仕事

 村へ滞在して一週間が過ぎた頃、

「おじさん、これって何ですか?」

「それは……」

 いつのまにか太郎が肩掛け鞄を持っていた。それはおじさんのものだった。いや、見覚えがある、と言った方が正しいのかも知れない。

「あれ?」

 鞄の中をひっくり返す太郎。鞄から出てきたものをまじまじと見つめている。中身は少なかった。ボロボロの手帳、使い古された万年筆、数枚の名刺だ。名刺は何故か名前のところがかすれており、読めなかった。

「もしかして……おじさん、記者なんですか?」

 手帳をパラパラと捲っていた太郎がふと口に出す。記者……ってなんだっけ……。おじさんの胸に何かが引っかかっている。だがその正体はわからなかった。太郎は何かを察したのか、それ以上は追及してこなかった。手帳をパラパラと捲り、目を通すも記憶は戻らない。そんなことはわかり切っていたが捲らずにはいられなかった。

「おじさんって人間なんですよね?先生がここに人間が来ると記憶を失うって言ってました。帰る時も記憶を失うみたいですよ。だからその手帳に書いてはどうですか?忘れないように」

 太郎の提案におじさんは同意した。

 次の日からおじさんは手帳を使い、記録していくことにした。

 まずはこの子、太郎から始めよう。

 そう決心し、太郎にいろいろ話を聞いては書き込んで行く。

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とある森の、とある村の、とある物語。 岸辺海夢 @kaimuyoshioka20030802

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