第2話

 田園都市線に乗っていると、電車の名前はいつの間にか新玉川線になっていた。

 『何でだよ?』と言われても僕にはわからない。

 敢えて言うなら『都会だから』。

 都会ってスゲー。

 三軒茶屋で下車する。

 田舎じゃないが都会ではない。

 『学生街』という呼び方がしっくりくる。

 僕は駅前の専門学校が入っているビルを探した。

 僕は専門学校の建物というのは高校の建屋のような物を想像していた。

 だが、専門学校は賃貸ビルの9階と10階。

 いくら何でも小さすぎやしないか?。

 どっかのファッション専門学校は一軒ビル持ってるんじゃねーの?。

 そんなビルが、東京、大阪、名古屋・・・って大都市毎にあるんじゃねーの?。

 ビルを何本も持ってるとは思ってなかったよ。

 テレビコマーシャルやってなかったしな。

 でもビル二階だけ借りてるって・・・。

 会議室がいくつかあって、事務所もそこそこの広さがあって・・・それだけで丸々一階潰れるだけのスペースあるだろ。

 これは思った以上の狭さだ。


 専門学校は9階と10階というのがポイントだ。

 ビルに入る前なら「こりゃヤバい!」と回れ右して帰れる。

 9階までエレベーターで登ってきて、エレベーターを降りてすぐ専門学校の入口だ。

 逃げて帰れない。

 逃げてかえろうにもエレベーターは他の階に行ってしまっていて、ビルを降りるには非常階段を降りるしかない。

 だが、非常階段に行くには一旦、専門学校の中に入らなくてはならないらしい。

 つまりは『もう逃げられない』という訳だ。

 別に説明会に来た訳じゃない。

 『どんなところか?』見学に来ただけだ。

 気に入らなければ入らなければ良い。

 僕は受付の女の人に声をかけた。

 「すいません。専門学校の見学に来たんですけど。」

 受付の女の人は少し驚いたような顔をして、僕をしばらく見た。

 僕は受付の女の人にジーっと見られている。

 何でこんなに見られているんだろう?。

 僕に惚れたかな?。

 「貴方が選ばれたの?。」と受付の女の人。

 僕は誰にも選ばれちゃいない。

 ネットのバナー広告をクリックして、説明を聞きに来てるだけだ。

 失礼な物言いだとは思ったけれど、確かに僕は専門学校の入学試験を受けてないし、クリアが難しいとしたらその入学試験をクリアしてもいない。

 ここに来たのも何かの間違いかも知れない。


 「僕は見学に来ただけだよ。

 一応、来月まではまだ高校生だからね。」

 そうだ、あと1ヶ月は肩書きがあるんだ。

 逆に言うと、3月の内に進路を決めておかないと4月からは無職になってしまう。


 折角両親が「専門学校に入学するなら学費、食費、水道光熱費、その他諸々の生活費だけは出す」と言っているのに、専門学校に行かず路頭に迷いたくはない。


 因みに、家は高校生のうちに出ていかなくてはならないのだ。

 つまり、専門学校に入ればその諸々の費用だけは親が面倒見ると言ってくれている。

 逆に専門学校に入らなくては、浮浪者確定だ。

 住所不定、無職。

 近親者からは絶縁されている。

 父親から親戚一同へ『アイツにかまうな、死んだと思え』とラインで連絡がいったらしい。

 僕の『絶縁』は全会一致、大絶賛で可決された、との事だ。

 親戚一同から僕は『縁を切りたい』と思われていたらしい。


 とにかく、専門学校に入らなくてはならない。

 テレビでコマーシャルやっているようなところは一年中募集しているが、調べると70%以上の人が専門学校をやめるらしい。

 普通の人でも70%辞めるなら、僕は700%の確率で辞めるだろう。

 簿記会計専門学校も一年中募集している。

 でもその理由は就職が決まらなかった女性向けだろう。

 男性で簿記会計専門学校卒業はいないことはないだろうが、かなり少ないだろう。

 それ以上に僕は勉強がしたくない。

 『複式簿記』や『簿記理論』を勉強するくらいなら死んだ方がマシ・・・とすら思う。

 

 とにかく今から入学出来る専門学校を探さなくてはならないが、今入学受付をしている専門学校はどこもハードだ。

 ハードな専門学校に入学したら、おそらく僕は即日退学するだろう。

 退学したら僕は即日、住所不定、無職になる。


 そうならない為にも僕はこの専門学校を見学に来たのだ。

 正直、僕に専門学校を選んでいるような余裕は既にない。

 遅らせていけば、遅らせていくほど真綿で自分の首を絞めるように、ゆっくりと自滅していっている。

 ここらでもう『東京異世界学院』に決めてしまおうと思っている。

 どうせ『異世界モノのラノベを書く専門学校』みたいなニッチな存在なんだろうと思う。


 僕は会議室に案内される。

 会議室は結構広い。

 EVAでゲンドウとゼーレのメンバーが会議している部屋、あれくらいある。

 これからどんな面接が行われるんだろうか?

 もしかして圧迫面接か?

 

 僕の席の向かいにはおばちゃんが座っている。

 街の中華料理屋で働いている割烹着を着てそうなおばちゃんだ。


 そのおばちゃんが『餃子二個オマケね』というような気軽な感じで僕に言った。

 女性「私は異世界の女神です」

 僕「ご飯は食べてきたんで、オマケの餃子はいらないよ」

 女性「いや、聞こえなかったんですか?。

 私は女神です。」

 僕「言いたくはないけど・・・アンタおばちゃんじゃん。

 女神ってもう少し、若くて美しいんじゃない?。」と僕。

 女性「無礼な物言いですが、その通りです。

 私は若い頃、天界でも評判の美しい女神でした。」

 僕「盛者必衰だな。

 今じゃ見るに耐えない醜女(しこめ)だが『美しい』と呼ばれていた時もあった・・・という訳だな。」

 女性「言い方・・・。

 まぁ良いでしょう。

 私は女神を定年退職した後、この専門学校で嘱託の女神を時給930円でしています。」

 僕「『手に職があると定年後も働ける』と言うべきなのか『女神は定年後も働かなきゃいけないほどの安月給』と言うべきなのかわからんな。」

 女性「私は希望者を異世界に転移させる事が出来ます。」

 僕「へー。

 参考までに聞かせてもらえるか?。

 どんな方法で異世界に転移させるんだよ?。」

 女性「このビルの地下駐車場にトラックが停まっています。

 そのトラックに『プチッ』とひかれれば。」

 僕「却下だ!。

 もっとスマートに転移する方法ないのかよ!?。」

 女性「このビル、9階の給湯室の窓のロックが壊れていて、消防法上本当はダメなんですが、身体が外に出せるくらい大きく窓が開きます。

 その窓から飛び降りれば『プチッ』と・・・。」

 僕「『プチッ』以外に転移方法ないのかよ!?。」

 女性「女神によって転移方法は違いますが、私の出来る転移方法は『プチッ』と『グチャッ』と『グサッ』の三つだけですね。」

 僕「この中じゃ『グサッ』がマシなのかな?。」

 女性「いや、『プチッ』と『グチャッ』は痛みを感じる間もなく、即転移・・・って感じですけど、『グサッ』は転移するまで地獄みたいな苦しみを味わいますよ?。」

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東京異世界学院 @yokuwakaran

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