麦藁帽

 五月を迎えていた。私の屋敷は、静かな賑わいに満ちていた。鮮やかさを取り戻した緑が、時期を迎えて庭中に一斉に咲いた躑躅つつじの色を、一層際立たせていた。少しばかり気の早い麦藁帽が、花に紛れて見え隠れしていた。見事な快晴であった。

 この日も帝都へおもむく用があった。車が到着し、呼鈴が鳴った。私はポオチに出て、庭を覗いた。支度は良いかと、帽子の主の名を呼んだ。


                                ―了―






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キイホルダ 黒猫 @chot_soyer

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