ターニャと門番さん

くものすずめ

ターニャと門番さん




 妹が、旅の途中の領主令息と恋に落ちたのが三ヶ月前。一目惚れ同士の二人は、あれよあれよと話が進展して。一ヶ月前、妹は義父が治める隣領に嫁いでいった。ついでに、「お父さんも亡くなってしまったし、新しい生活にゴーよ!」と言って、母も一緒に引っ越していった。

 わたしターニャは、三ヶ月後に幼なじみと結婚する、はずだった。


「婚約をなかったことにしてほしい?」


 言われてすぐに、意味も分からぬままオウム返ししたのは、仕方のないことだったと思う。


「ターニャには、本当に申し訳ないことだと思う。だけど、もう自分の心に嘘はつけないんだ」


 頭を地にこすりつけた幼馴染、曰く。


 もともとこの縁談は、わたしたちが幼いとき、親同士が決めた。この村ではよくあることだ。

 だが、思春期を迎えた幼馴染は、わたしの妹のソフィアに恋をした。シャイな彼が思いを言い出せぬうちに、妹は別の男性と恋に落ち、結婚した。

 仕方なく(失礼な話だ!)、彼はもともとの婚約者であるわたしと結婚しようとした。しかし。


「君を見ていると、ソフィアのことが思い出されて仕方がないんだ」

「はあ」

「これからも君の側で、幸せなソフィアの様子を聞き続けるのも辛い」

「……それで?」

「そんな生活を思うと、心がきしんで……とても、耐えられそうにない。ターニャ、ぼくの優しい幼なじみ、一生に一度のお願いだ。どうか、この婚約をなかったことにしてほしい」


 そんな願いが一生に何度もあってたまるものか。


「っていうか、それってわたし全然悪くないじゃない!!」


 いろいろと思うところはあるものの、婚約破棄を望む彼と、幸せな結婚生活がおくれるはずもない。結局、わたしは婚約破棄を受け入れた。


 困ったのはその後だ。


 狭い村では、わたしたちの破談があっという間に広まった。どこに行っても腫れ物扱い。

 さらに、いまわたしが住んでいて、わたしの結婚後はだれも住まなくなる予定だった家は、街から隠居しにやってくる老夫婦が引っ越してくることになっていた。


 村に居場所が(物理的にも)ないわたしは、一大決心をした。


「もう、街に出るしかないわね」


 こうして次の週末、わたしは村を出たのだった。




***




 しかし、話はうまく行かなかった。

 街にたどり着いたまではいいが、引っ越そうという段階で、街から弾き出されてしまったのだ。

 村と違い、街は門と塀で守られている。「安全な街に移り住もう」と考える人は、わたしの他にもたくさんいた。そこで、街長はある決まりを作った。

 『居住権がある人しか、街に住んではいけない』という決まりだ。居住権は、街で生まれた人や、街の維持・発展に貢献した人、一定の金額を街に納めた人、そして、居住権を持つ人と結婚した人に与えられる。


 どの条件も満たせなかったわたしは、現在、街の外の宿屋で働いていた。

 街から放り出されたところ、門から徒歩一刻ほどの距離にある宿屋で、運良く住み込みのアルバイトを見つけたのだ。


「二人一部屋、予約ないんだけど、空いてる?」

「いらっしゃいませ! 少々お待ちくださいね」


 それからは、居住権を得るために働いてお金を貯めつつ、休みの日には街に入ってお店を冷やかす日々が始まった。街には村で見たことのないような物やお店がたくさんある! 少しだけ残っていた、結婚に対する未練も、ちりちりとしぼんで消えていった。


「ターニャさん、今日もいらっしゃったんですね」

「はい、門番さん! これ、入門証です。いつもありがとうございます」

「確かに。お通りください」


 休みのたびに街へ行くので、わたしは街の門番さんと顔見知りになった。わたしが会う門番さんは、いつも同じ人。どうやら、この門番さんの当番とわたしの休みのシフトが重なることが多いみたい。

 知り合いの少ない生活の中、門番さんとの短い挨拶は、休みの楽しみの一つだ。


 ある日の夕方、いつものように宿屋の食堂でご飯を配っていると、見慣れた人が入って来た。あれは……いつもの門番さん?


「ライリー! そろそろ来るかと思ったよ」

「女将さん、久しぶり。春先は出入りする人が本当に多いね。はあ、忙しかった」


 宿屋の女将さんが、門番さんと親しげに話している。驚いた、二人は知り合いだったのね。


「ターニャ、Aを二人前と、赤をボトルで用意しておくれ」

「はい、Aセット2つと赤をボトルで1つ」


 この宿は、食堂を泊まっている人以外にも開放している。女将さんは、門番さんと一緒に食べるみたい。Aセット定食とお酒のボトルを持っていって、机に置く。


「ああ、ありがとう。……あれ? きみは、水の日にいつも来る、ターニャさん?」

「はい。こんばんは、門番さん」

「おや、二人とも知り合いだったのかい。ちょうどいい、ターニャもここでお食べ。いいね、ライリー?」

「もちろん」

「じゃあ、お邪魔します」


 この時間帯、人の波が切れるので、近所に住んでいるパートのみなさんで食堂は回りそう。Aセットをごはん少なめにしてもらって、炭酸水を用意する。二人のいる机に行ったときには、女将さんの顔は赤くなっていた。


「門番さんは、このお宿をご存知だったんですね」

「ライリーでいいよ。ここは、オレが冒険者だったときに泊まっていたんだ」

「門番さ、じゃなくて、ライリーさんは、冒険者だったんですか?」

「そうだよ、ライリーはね、はじめて来たときは、ジョンみたいに、それはもう泥んこでねえ」

「ちょ、女将さん! それは、土砂降りの日だったからだろ! オレがジョン坊やのような、いたずら少年だったみたいな言い方はやめてくれ!」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし」

「オレの評判が減る!」


 二人はとても仲が良いのね。門番さんの、仕事中のしっかりした姿からは想像できない、かわいい姿を見て、ふふっと笑ってしまう。場に酔ってしまったのだろうか、お酒を飲んだとき特有の酩酊した空気も手伝って、会話は楽しく進んでいく。

 いつしか話題は、わたしが街で何をしているかに移っていった。


「特に何をするっていうんじゃないんです。わたしは田舎者なので、お店をのぞいたり、石畳を歩いたりするだけでうきうきしちゃって。最近は、甘いものを食べるのが好きです」

「甘いもの? だったら、おすすめの店がいくつかあるよ。オレも甘いもの好きなんだ」

「そうなんですか? ライリーさん、教えてください!」

「それじゃあ、まずは有名どころから。大通りに……」


 そのとき、宿屋の外から、ガンガンガンと大きな鐘の音がした。

 顔を赤くして机に伏していた女将さんが、がばっと身体を起こす。同時に、ライリーさんは壁に立て掛けていた剣を身に寄せる。


「な、なんの音ですか?」

「しっ静かに」


 ライリーさんは、直前までのにこやかな様子と打って変わって、りりしい顔をしている。

 ぴりぴりとした雰囲気のなか、やがて外から大声がした。


「野獣だ! 西に中と小が一匹ずつ!」

「女将さん、行ってくる」

「ああ、武神ラーライルの加護がありますように」


 ライリーさんは立ち上がって剣を身につけると、店の入り口に移動する。

 女将さんは頷くと、勝負に出るときの祈りの聖句を口にした。わたしも慌てて祈りのポーズを捧げる。ライリーさんは頷き返して、今度こそ宿屋を出ていった。


「女将さん、一体何が起こっているんですか?」

「鐘が三回は緊急事態の合図。ライリーは元冒険者だったから、野獣を倒しにいった」

「えっ、大丈夫なんですか?!」

「大丈夫、あいつは冒険者でも腕利きのやつさ。その功績を称えて、街の居住権を与えられたんだ。それよりターニャ、悪いけど、お客様を落ち着かせるのを手伝っておくれ」


 緊迫した空気が続いて、一刻ほどだろうか。ガンガンと鐘の音が二回、何度も鳴って、再び外から大きな声がする。


「軽症一名、それ以外は全員無事だ!!」


「野獣は倒されました。もう大丈夫です」


 女将さんがお客さんに声をかける。ほっとした雰囲気が流れる。

 少しして、食堂の扉が外から開いた。ライリーさんだ。半袖の袖口に、血がついている。


「ライリーさん、大丈夫ですか!」

「ああ、どこも怪我はなし。この血は仲間のやつ。あいつも傷は見た目ほどひどくないよ」

「よかった……」

「だから言ったろ、ターニャ。ライリー、助かったよ。ありがとうね」

「なに、魔獣が街まで来りゃ、結局オレにも出動要請が出てたしね」


 ライリーさんは、ははっと笑った。と思ったら、一転、疲れた様子でため息を吐く。


「でも、ついてなかったなー。休みの日なのに、魔獣討伐とは……」

「お疲れ様です。でも、ライリーさんがいてくれて、良かったです。ありがとうございました」


 ねぎらいの気持ちを込めて、微笑む。ライリーさんは、しばし黙っていたが、「そうだ」と声をだした。


「今度の休み、一緒にケーキ食べに行かないか?」

「けーき……。え、わたしですか?」

「ターニャさん、甘いものの話してただろ? オレも討伐で疲れたから、甘いものが食べたいんだけど、男一人じゃ居心地悪くってさ。おすすめの店、案内するよ」


 少し戸惑ったが、悪い人だったら、女将さんが教えてくれただろう。それに、おすすめの店も気になるし。


「いいんですか? それじゃあ、お願いします」


 ライリーさんは、満面の笑みで「よろしく」と答えた。

 その晩、討伐前に見たライリーさんのりりしい顔が、頭から離れなかった。




***




 次の休み。ライリーさんと休みを合わせて、待ち合わせをする。

 待ち合わせ場所は、門から入ってすぐにある『鈴の広場』。楽しみで、待ち合わせ時間より早めに着いてしまった。見つけやすいように、中央にある鈴の塔のすぐそばに立っていることにする。

 広場には、他にも待ち合わせ中と思われる人たちがたくさんいる。あそこの男の人、欠伸してる、昨日遅かったのかな。あの女の人、おしゃれしてる、きっとデートだな。あの少年たちは、ゲーム仲間待ちかな。


「……さん、ターニャさん」

「うひゃあ!」


 人間観察をしていると、肩をたたかれると同時に名前を呼ばれた。振り向くと、ライリーさんだった。……変な声をあげてしまった。


「何度か名前を呼んだんだけど、気付いてないようだったから」

「ご、ごめんなさい」

「いやいや、こっちこそ、驚かせて悪かった」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあ、まずは大通りのお店から」


 ライリーさんのななめ後ろをついていく。足の長さが違うから、少し置いていかれそうになったが、気づいて歩幅を合わせてくれた。二人で足を進める。

 大通りの喫茶店でお茶をして、街の定番スポットの花畑を歩いて、またお茶をして、宿屋まで送ってもらって。道中、何を話したかは、正直覚えていない。ただ、色んなこと、いつもなら人に話さないようなことも話して、でも嫌な気持ちにはならなくて、ふわふわした心地で、ずっと楽しかった。

 そして、帰り際に、次の約束をした。ケーキ屋さんで、「紅茶のおいしい店に行きたい」と言ったのを覚えていてくれたらしい。


「楽しかったです」

「オレも。じゃあ、また次の休みに」


 その後も、何度か街歩きに出かけた。門番仲間の穴場も案内してもらった。彼と出かけるのは、どきどきするのだけれど、どこか落ち着くような気もして、不思議な感じ。わたしたちは敬語をやめ、ライリーさんは、わたしのことを「ターニャ」と呼ぶようになった。

 あるときの夕方、わたしたちが並んで歩くのが当たり前になったとき、ステンドグラスのきれいな教会の前で、ライリーさんが立ち止まった。


「どうしたの、ライリーさん?」

「ターニャ、オレ……」


 ライリーが何かを言いかけかたとき、道の向こうから、「ライリー!」と、低めの女の人の声がした。


「ベル?! いや、どうしてここに」

「やーだ、きのうは一晩中いっしょにいたのに、ご挨拶ね」


 ベルさん。さらさらの髪の毛は長く、背丈はライリーほどで、しなやかな身体つきの美しい人だ。うろたえるライリーさん。ひとばんじゅう、いっしょにいた?

 ベルさんが、笑顔でわたしを見る。


「あら、妹さん?」


 笑って、「違いますよ」と返せればよかったのに。彼女の言葉が重石のようになって、心がずんと重くなる。


「ライリー、わたし、そろそろ帰るね」

「え、じゃあ、宿屋まで送るよ」

「ううん、まだ明るいから大丈夫。それから、次の休みは用事があるの」


 ライリーさん、驚いた顔。わたしも、こんな言葉を言うつもりはなかったから、内心驚く。けれど、顔の筋肉は硬くなって動かせないし、口は勝手に動いていく。


「それなら、その次の休みは……」

「ごめんなさい、休みの日が変わってしまって、これから先も難しいかな。それじゃあ、またね」


 言い逃げして、人混みに向かって門へ駆け出した。

 はじめての恋は、自覚するとともに散っていった。




***




 以来、休みの日になっても、わたしは街に行かなくなった。毎週のように顔を合わせていたのに、いまはなんだか、ライリーさんの顔を見たくない。自分で避けはじめたのに、気はどんどん沈んでいく。食欲もない。


 そんなある日のことだった。


「ターニャ!」


 宿の前を掃除していると、道から人が飛び出して来た。がばり、と抱きつかれる。びっくりしたけれど、知っている声だから、叫ぶのは我慢した。


「母さん?」

「そうよ、ターニャ。元気……は、ないみたいだね。少しやせたか」


 飛びついて来たのは、隣の領地に引越したはずの母さんだった。


「突然どうしたの?」

「旅行だよ! しばらくこのお宿に泊まるからね」

「は? ソフィアと旦那さんは?」

「新婚旅行中。明日この宿で合流する予定さ」

「なんで一緒に来なかったの?」

「やだね、新婚旅行に親は無粋だろ」


 妹夫婦の新婚旅行に乗っかって、自分も旅行に来たという。言っていることがめちゃくちゃだ。しかしそれも母さんらしいので、放っておくことにした。

 急に来られても困ると思ったが、部屋はとっていたらしく、女将さんもしばらく休みにしていいと言ってくれた。

 荷物を部屋に押し込むと、わたしと母さんは、おしゃべりを開始した。というか、主に母さんがしゃべった。一人暮らしの家のことや、新しいご近所さん、お気に入りのお店や街で行われる大きなお祭り、家からこの宿への旅行中に見たもの。

 うんうん、と、うなずいていると、いつの間にか辺りが暗くなっていた。夕食時だ。

 せっかくだから食堂で食べたい、という母さんを連れて、食堂に下りていく。ごはんのにおいをかぐと、お腹がぐうと鳴った。お腹が空いていたらしい。話を聞くだけでも結構疲れるものだ。

 席をとって、パートの店員さんにAセットとBセット、それからエールを2つ注文する。料理を待ちながら、お水を飲んで一息ついていると、母さんは言った。


「じゃ、次はターニャの番だね」


 ちょうど飲み物がやって来たので、エールをちびちび飲みながら、村で別れてからのことを話す。幼なじみが妹を好きだったこと、村を出てこの宿で働くことになったこと、よく街に遊びにいったこと。最近の話になるにつれ、口が重くなる。

 黙ってしまったわたしを見て、母さんが言った。


「そうか。ターニャ、がんばったね」


 その言葉を聞いて、張り詰めていたものが切れたように、ぽろぽろと涙が出た。母さんがハンカチを渡してくる。ありがたくもらって、目元を拭うが、涙はなかなか止まらない。ああそうか、わたしはずっと、緊張していたんだ。村で信じていた未来がなくなって、知らない土地に来て、はじめての恋を失うことに恐怖して。


「いいよ、泣きたいだけ泣いちまいな」


 そう女将さんが言って、また離れて行く。お言葉に甘えて、泣けるだけ泣いてしまうことにする。


「だれだお前は」


 しばらくして、涙が小雨になったころ、地を這うような低い声がした。顔をあげると、ライリーさんが母さんの肩をつかんでいる。


「名乗らないやつに名乗る名前はないね」


 平然と答える母さん。ぎょっとして、涙が止まる。


「あの、この人はわたしの母さんなんです。母さん、こちらは街の門番のライリーさん」

「はあ? これは、失礼しました」

「かまわんよ」

「じゃあ、ターニャはなんで泣いていたんだ」


 それをあなたが言うの?

 ライリーさんを見る。再び涙が盛り上がる。


「ライリーさんには、関係ありません」


 思ったより冷たい声が出た。ああ、こんなんじゃ嫌われちゃう。でも嫌われたところでどうなりようもないんだ。別にいいんだ。


「関係なくない。教えてくれ」

「関係ないって言ってるじゃないですか」

「関係ある!」


 ライリーさんが大きな声を出した。食堂はしんとなって、視線がこちらに集まる。でも、ライリーさんは、そんなことはお構いなしで言い募る。


「涙のわけを教えてくれ。オレはターニャが好きだから。泣かせるやつはぶん殴る!」


 物騒な単語が聞こえた。

 じゃなくて、いま好きって言った?


「好きって、ベルさんは?」

「ベル? エイベルのことか? あいつは同僚だ。たまに女装するが、悪いやつじゃない」

「じょそう」

「そんなことより、だれだ、お前を泣かせたのは」

 

 なんと答えたらいいのか分からなくて、とりあえず首を横に振る。すると、ライリーさんが片手を差し出してきた。薄いピンクのバラ。目をぱちぱちさせながら受け取る。受け取った花ごと、両手を握り込まれる。大きな手に包まれた。


「ターニャ、オレが守ってやる。だから結婚してくれ」


 細かく頷く。まわりがわっと歓声をあげたが、わたしの耳には入ってこなかった。





***




親愛なる妹 ソフィアへ


前略。あれから無事に帰れたかしら。

こちらは、引越しや手続きのバタバタがようやく落ち着いてきたところです。新しい家は、少し手狭ですが、門の近くなので家賃は安くなったわ。近所の人も、同じく門や警備隊で働いている人が多いみたいで、治安はバッチリです。

結局、日中は前と同じ宿屋で働くことになりました。行き帰りは、彼が送ってくれるので、安心して通うことができます。

冬を越したら、彼と一緒にそちらに遊びに行きます。わたしは隣の領まで行ったことがないので、今から楽しみにしてる。たくさんお土産を持っていくので、歓迎してくれると嬉しいです。

母さんと、あなたの夫によろしく伝えてね。


愛をこめて ターニャ




「よし、ばっちり」


 夕方、書き上げたばかりの手紙を郵便局に出しに行く。帰ってきて家に入ると、夜勤あがりのライリーが起きて来たところだった。


「おはようターニャ。手紙は出せたか?」

「おはようライリー。いま出してきたところよ。それより、そろそろ支度をしないと」

「ああ、そんな時間か。着替えて来るよ」


 わたしもお出かけの準備をする。リビングに戻ったら、ライリーはもう着替え終わっていた。男の人は支度がはやいわ。


「それじゃ、行こうか」

「うん」


 玄関を出て、ライリーの剣をとる反対の手をつなぐ。きょうは月に一度、少し贅沢な食事に出かける日だ。


「見て、きれいな夕焼け」

「ああ」


 薄青から赤、紫へとグラデーションがかった空を見て、手をかざす。

 二人おそろいの指輪が、きらりと光を反射していた。




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