PHASE 18 :黒い犬と言われた死神達
「まずは首だぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
楽しそうなオンリーの持つ、高周波ブレードが土蜘蛛の首に迫る。
「来るな、人斬りがぁぁ!??」
とっさに機械のクモ脚を振るうが、スパンと大根でも切るようなあっさりさで切り落とされ、辛うじて首を守ったが反対側の人型の部分の腕を肩から斬り落とされる。
「ぐっ……やはり……!!」
「なにさ、前より切れ味上がってんじゃん。
塗り壁のDNA強化されてた鎧土蜘蛛だったら、もうちょい切りにくかった覚えあるのにさ?」
「ぐっ……またしても……!!」
「いや、一回目じゃん。
前はそこのフェンサーちゃんが君を『昆虫採集』してた」
ぎっ、とカメラアイ8つで睨みつける土蜘蛛に、余計楽しそうに笑うオンリー。
「あんたら、旧日本軍の妖怪兵の発展、ソヴィエトの崩壊後流出した医療技術もあって出来上がった『ゲノム強化妖怪兵』。
表沙汰にできない大活躍をいろんな場所でしてくれたっけねぇ?」
「それを……!
その我らを、絶滅させたのは……!!」
「そ。
私達G.W.S.、私と『ブラックドッグ』の仲間たち」
改めて自分の身体の前で剣を構えるオンリー。
「私という銃が、PDWが生まれる時代から、ボディアーマーを貫くのに四苦八苦していた。
あんた達はそのボディアーマーを過去の異物にするほど硬かった……まだ昔の弾丸じゃあ、貫けなかったんだ。
そのために、この高周波ブレード
そして、私達銃である死神の一部は、あえてその古い時代の近接武器と自分自信の銃を使って君たちを殺していったんだ」
そう、とニヤリと笑うオンリー。
「特に私って君ら何百体切り殺したっけ?
その時その時ずっっっとテンション上げすぎて、忘れちゃったんだけどさ?」
心底楽しそうに、普段と違い凶悪な笑みで一歩近づくオンリー。
いや。
今の彼女は『ロンリー・ウルフ』
人斬り、鬼斬り、殺戮狂、
散々な悪名を轟かせた、『
ば……!?)
(逃げね
土蜘蛛がそう身体を動かした瞬間、見ていた光景がズレる。
気がつけば目の前で高周波ブレードを振り上げるオンリーがそこにいる。
「これでようやく絶滅完了かな?」
スパン、と頭から真っ二つに身体を切り裂かれる。
絶命。誰が見ても完璧な死。
が、そこでオンリーは追い討ちで自分のP90を撃ち込む。
念入りにデスサイズ弾でトドメを刺していた。
「もう甦んないでほしいな。
もう妖怪ブーム過ぎてるし……ふいー」
「オンリー!?
それ……どこで手に入れましたの!?」
一息つこう、と思えばフェンサーが驚いてそう尋ねて来る。
「さぁてね、気がつけば持ってきてた。
誰かさんの意思かな?」
「誰……まさ、」
「隊長!や……やりますねぇ!?」
「そんなの持っていたの隊長!?」
「オンリー、あんたいつの間に復帰したわけ!?」
と、周りにいた第2小隊の皆が集まって質問攻めが発生する。
「隊長……あなた、一体……?」
「新人ちゃんや、まぁそれは追々話すから。
それよか、皆武装したままついてきて。
と、周りを至って冷めた感じで抑えた上で、オンリーはそう指示してきた。
「事情、」
「聴取?」
「うん。
あそこで知り合いが伸びてるんだ」
指さした先には、最初にミニーやシュナイダーのマシンガンを喰らって伸びている機械の巨大な鬼がいた。
***
シュ、と手慣れた手つきで胴体を浅く切る。
切った外壁を剥がすと、鬼の胴体の中に胎動する内臓や骨格のようなものがあった。
「ファッ!?ウーン、これって……ピンキー?」
「ウィプリィたまに何ってんのか分かんないぞ
ほら手伝って、中から出してやって、ほらそっち持って下持って下持ってほらほらほらほらほら」
「えぇ……隊長、精神状態おかしいよ……」
と言いつつグロテスクな肉塊を二人で取り出す。
周りは口を押さえていたり、あるいはちょっと引いている顔だった。
「何これ……」
「この骨格の角、分かる?」
と、上手いこと肉塊を形にしていく中、まだ眼球が入っている霊長類っぽい頭蓋骨───霊長類にはない、鋭く伸びた骨とは違う色の黒い角を見せる。
「鬼、ですかねぇやっぱ……?」
「鬼って……オンリーまさか!?!」
と、事情を知っているフェンサーが言うや否や、その頭蓋骨の中の目がギュルンとオンリーへ向かって視線を向ける。
「ヴォエ!?生きてるゥ!?」
「なんというか……流石は、1000年モノ。
こんなんなっても生きて───」
ガシリ、と肉塊だったはずの腕が伸び、再生しながらオンリーの首を掴む。
全員の銃口が向けられる中、す、と片手を上げてオンリーは皆を抑える。
「───気、ニ……食ワぬ……!!」
やがて全身が凄まじい速度で再生し始め、肉だったものが意外と細い身体と分かるようになる。
「だ、が……お前しか、我が一族……すべて、切ったお前が……!!
お前しか……気付かぬと思っておった!」
ブワッと伸び切った頭髪。
長い髪は金色、瞳も琥珀のような人間とは思えない色。
ぱっと見はまだ少女。
ただし、その角や目が人でないことを良く主張している。
「
「
金ちゃんなどと呼ばれる筋合いはないわ!!この『クロイヌ』如きが!!」
ヒュン、と鋭い爪が振るわれるのを、笑って避けるオンリー。
まるで昔からの知り合い……もうそうとしか思えないやり取りに周りが呆気に取られている。
「……フェンサーさん、誰さん?」
「ミニーちゃん、彼女の名前は金毛童子。
鬼の一人で、伝承にはあまり残らないけど、1000年モノの大妖怪ですわよ。
一切の遺伝子的改造もされてない……どころか、希少な遺伝子すぎて、妖怪界の裏の重鎮から最重要保護対象まで色々渡り歩いたお方です」
「そして私が右腕を6回切った相手!」
「あぁ!!馬鹿力女もいるではないか!!!
お前……お前も来い!!このふざけたの辻斬り死神だけでは話が進まぬわ!!」
「はいはい、お久しぶりですわね。
どうしてまたこんな事態になったのですかしら?」
ひでぇ、と呟いた横でウィプリィにま、多少はね、と宥められるオンリーを尻目に、さっさと話を進めるフェンサー。
「聞け死神!
我もあのげのむ妖怪だのは好かなかったがな、『カラクリ』の身体にされるとは世も末よ。
だが、奴らをそうしたのは、我々ではないのだ!」
「根拠は?」
「いやいや、フェンサーちゃん。
この1000年生きたお方がさ、サイボーグなんぞに頼るわけないし、
証拠も見せないバカじゃないでしょ?」
オンリーがそう口の端を曲げて言った瞬間、金毛童子は、自分の腹に鬼の腕を突っ込んだ。
「!?!?!」
驚く中、血を流して鋭い爪で腹を掻っ捌き、何かを取り出す。
「グフッ……ここまでしたのだ……!
大人しくしておれば、我に手は出さぬよな……!?」
取り出すそれは、小さな金属ケース。
パカっと密閉されたそれを開ければ───名刺がびっしり入っている。
「これって……!」
無造作に投げられた名刺をフェンサーが受け取る。
周りと共に覗いたそれは、同じく名刺を勝手に取ったオンリーが見たものは、
シェラトンアームズ
開発担当主任 J・コダマ
「シェラトンアームズ!?
私もどこかは知らないけど、これだけは分かるよ!?」
「人間の会社という奴だ。
それもお前たちみたいなのを作るな!」
まさか、とオンリー達がその事実の意味することを言いかけた瞬間だった。
『───こちら山狩り班!
防衛班応答を!!』
と、恐らくはセコンドの声が無線から響き渡る。
「ほいほい、こちらオンリー。
どうしたんだい、セコンドちゃん慌てちゃって?」
『空を見ろ!客だぜそっちに!!』
空を、と思って見上げると、ほぼ同時にヒュンヒュンと何か物凄く回転翼機っぽい音が聞こえてくる。
というより、オンリーにはすぐにヘリが2機見えた。
なんだか知らないが、似たようなサイズの大きな黒いものを吊り下げたヘリが。
「何アレ?すっごい嫌な予感するぅ」
パチン、と音を立ててワイヤーが切り離され、二つのその黒いものが地面へ落下していく。
ドシン、と地面に重いものが落ちる音、そのまま全速力で離脱するヘリ。
その底部には、『シェラトンアームズ』のロゴがあった。
「…………噂をすれば影とは言うけどさぁ……」
─────ギャアァァァァァッッ!!!
直後響く人ならざる叫び声。
遠くの2階建ての一軒家、それを掴んで現れる巨大な影。
まるで、頭蓋骨や全ての骨が丸出しのような、巨大な体躯の『鬼』が2匹。
「…………
「知らんわ!そうで合ったら一緒に来ておるわい!!」
「最悪だなぁ!!
こっちにまともなデカブツ妖怪用口径の子いないじゃん!!」
「隊長ぉ、自分HEAT撃てる無反動砲なんすけど……」
「いやねウィプリィちゃんや、人型って大抵さぁ……」
直後、二体の鬼型の妖怪が跳躍し、一気に距離を詰めてきた。
「ファッ!?!」
「やっぱり速いかぁ!!!」
その場にいた全員が、なんとかして地面に叩きつけてきた巨体二つを回避する。
戦いが、始まった。
***
G.W.S.-グリムリーパー・ウェポンズ・サービス- 来賀 玲 @Gojulas_modoki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。G.W.S.-グリムリーパー・ウェポンズ・サービス-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます