PHASE 17 :勘違いジャパンはみんな好き
「は?
トラックから銃弾を運ぼうとしたところ、オンリーは細長い何かの機械と、それに収められたモノを見つけていた。
「なんでこんなものが……うーん……」
つい、マジマジと見つめてしまい、おもむろに後ろの腰に近づける。
機械から伸びるベルト。腰に固定され、ついでに自分ことP90を下にマウント。
グリップのような部分を掴んで引き抜く。
────そこで初めて、これが刀であり機械は鞘なのだと分かる。
「おぉ…………前持ってた奴より……ちょっと重くなった?
まぁ、
独特の反りも刃紋もある刀身は本物の日本刀。
ただし刃はチタンベースのデスサイズ合金製、機能のためにうまく他の鋼材を合わせてある。
柄の部分の機械は、超振動発生装置。
そう、これは『高周波ブレード』というべき物。
「でも誰が持ってきたんだろう……?」
「どうしたの、懐かしいもの持って?」
ふと、真上から───例の巨大ロボットMEGAのコックピットからナンブが怪訝そうに顔を出してみている。
「それがさぁ、ナンブちゃんや……
これ私のじゃない。なんなら前の奴の改良版だよ」
「なんでそんなものが?
コレと同じくブリティッシュサイド製?」
「
「確かに、私もこのロボの複雑さを身にしみて感じてるから言いたいことは分かるよ……
でも業物って?」
オンリーは、確かめるようにその高周波ブレードの刀身を見る。
「……前のは、こんな伝統的な作り方してなかった。
削り出しとかじゃない、プレス加工はもってのほかな出来だよ……
刀工がわざわざ鍛えて作り上げた、この刃紋……」
「ふーん、銃のクセして刀に随分詳しいよねぇ?」
「そりゃあ、ナンブちゃんや、」
にぃ、と笑うオンリー。
「私が『人斬り』なのを知って部下になったんじゃなかったっけ?」
それはとても楽しそうで、そして狂気的であまりに獰猛な笑みだった。
「逮捕」
「罪状は?」
「銃刀法違反に『詐欺罪』。
人なんて簡単なモノで済んでないでしょ」
フッと消えた狂気の気配。
あららといつもの顔で言って高周波ブレードをしまう。
「え、それ持ってくの?」
「えー、だって私……
「じゃあなんで一回手放したのさ」
「手放したつもりはないけど、回収されちゃったんだよね〜、戻ってきて、いや新しくなって嬉しいよ〜すりすり」
と、その高周波ブレードに頬擦りする姿に、はぁ、とため息が出る。
そして、ふとナンブは表情を引き締める。
「あんた通信聞いてた?」
「山は完了したけど……キナ臭いんだっけね」
「その刀といい……ねぇ、おもったよりwヤバいんじゃない?」
「そこのロボも使うかもね。
見張ってるみんなはなんか言ってる?」
「まだ……」
と、そこで無線が開く。
『こちらフェンサー。
隊長、懐かしいお客さんがコスプレして来ましたわ』
「コスプレ?
それって、硬そうな奴?」
『ええ、しかも……』
***
公民館前の住宅街の屋根の上には機関銃が離れて二つ、スナイパーが一つ。
全員見ている中、山の大通りからやってくる物あり。
「……たまげたなぁ……」
ウィプリィは、デジタル可変倍率スコープを片手にそう呟く。
「あれ、ヒーローショーの帰りですかね?」
同じくスコープ越しに見たエリータは、端的に何が来たのかを表す。
ぱっと見悪の組織の怪人である。
やってきた面々は、機械の怪物のような見た目というか、人型ではありつつも、
鋼鉄のコウモリらしい翼をマントのように全身で覆っているヤツ、
クモのようなマニピュレーターを背中から生やした奴、
挙げ句の果てには、鬼みたいな形のまさにパワードなスーツで、これまたデカい包丁のようなブレードを抱えて歩く奴。
別に日曜朝の撮影ではない。
「隊長、なんだか悪そうな怪人さんが歩いてきたの……」
『そっかー、ミニーちゃん。
怖いから撃てるなら撃って?』
「ちょっと酷いけど、了解ぁーい。
アキタちゃん、危ないから下がっててね?」
「うす………」
許可も得たので、ミニーの握るハンドルの先、例のサプライレッグが脚となって支えるM134の銃身達が回転を始める。
「こっちも撃つわよ!
フェンサー、一応構えときなさい!」
「援護は任せてくださいまし?」
別の屋根のシュナイダーも、同じくサプライレッグに支えられた自分であるMG42の狙いをつける。
プゥーン、タタタタタタタタタッ!!!
パパパパッ!!!
お互い、発射レートの高すぎる機関銃である。
一秒で叩き込まれる弾丸で、早くも足の遅そうなデカい鬼が蜂の巣になる。
だが、両脇の二体は違う。
「キィエェェェェェェェェイ!!」
コウモリの翼を持った怪人が空を飛ぶ。
背中には、平べったいフィンが突き出たようなジェットエンジンがあり、赤い炎を上げて凄まじい上昇とくるりと小回りの効いた機動を見せる。
「クックックック……!!」
地上からは、腕を組み、人間の足をダランと垂れ下げながら、残りのクモのような4つの鋭いマニピュレーターで高速移動する怪人が迫る。
「わわ……!!」
コウモリ怪人がミニー達の方向に迫る。
ミニガンの斜線を読んで抜群の空中軌道で回避しながら、徐々に距離を詰める。
ターンッ、ターンッ、と別方向からエリータの狙撃が狙うが……
「動くと当たらないだろ!?!
動くと当たらないだろ!?!?!」
「クソッ!!!ちょこまかとぉ……!」
「怪人のクズがこの野郎!!
高速飛翔する相手には、スナイパーライフルで狙うのも一苦労。
もう距離もない。
直前で狙うにも、相手は早い。
アキタのグレネードでは───もう近すぎる。
「ミニィィィィィィィィィ!!!!」
タタタタタタタタンッッ!!!
しかし、斜め下から放たれる弾丸の群れ。
サプライレッグを脚部パワードスーツモードにして建物を駆け下り、シュナイダーが自分のMG42を全力照射して援護したのだ。
「ククッ……ヒャァオッッ!!」
コウモリ怪人の目標が変わる。
今のMG42の本量たる弾幕の結果、銃身の加熱のため撃てないシュナイダーへ。
「クソッ!」
上から覆いかぶされ、
「離れろ!!変態!!」
「ハハァ〜……いい息の上がり方だ死神……!!
死を覚悟して吸って見ようか……??」
「気持ち悪い事言うな!!最悪!!!」
「シュナイダーさん!!!」
「───無視は酷いぞ!!
『フェンサー・マスティフ』!!!」
駆け寄ろうとしたフェンサーへ、クモの脚の先の鋭い一撃が振り下ろされる。
「くっ……!?
わたくしを知っている!?!」
「覚えていないのか!?
ますます酷いじゃあないか、
「フン!
『
ただ、とびしりと指を刺すフェンサー。
「あなた方は絶滅したはず!!
我々G.W.S.が……『ブラックドッグ』が全て殺したはずですわ!!!」
「その通りだ!!お前たちG.W.S.に、
いや!!お前とお前の所属する『対魔族絶滅部隊』!!!!
通称『ブラックドッグ』によって、私達以外は全てが絶滅した!!!」
その名前を聞いた瞬間に、周りの面々が表情を変える。
「ブラックドッグ……??」
「ファッ!?!嘘っそだろオイ……!
隊長の与太話と思って全然信じてなかったぞ……」
屋根の上でまだ狙いを定めるエリータの疑問に、隣でウィプリィはそう答える。
「知ってるんですね?」
「全世界の妖怪だの魔物の中で知性が人並みなのを『魔族科知的生物』要するに『魔族』って言ってるゾ。
基本魂を喰うから、んにゃぴ……噛んだよ、やっぱり絶滅は基本対応だけど、強すぎて近代兵器充実する2000年代まで絶滅完了しなかったんだぞ……!」
「生きてるじゃないですか」
「やっぱりしぶとい。はっきり分かんだね。
ま、吸血鬼一族も地下に隔離して生かされてるぐらいだしまぁ、多少はね?」
「で、ブラックドッグってなんなんですか結局?」
「2000年代に結成後、5年かそこらでその難しい魔族絶滅をやり遂げた部隊なんだよ」
「……冗談ですよね?」
「ずっとそう思ってたんだよなぁ……」
そう言って、ため息とともに二人は再び観測と狙撃の準備に戻る。
「そのままおくたばりあそばせてれば良かったのに……」
「それでは無念が張らせない!!
私は、身体の8割
同胞達は、どう死んだか知っているかね!?!」
そのセリフに、フェンサーはただフン、と鼻を鳴らす。
「どうせ、『あなたの死因』が
ブラックドッグのやり方は、『我々の存在意義』を大きく揺さぶったんですもの……全てが終われば『アレ』は全て回収された。
一体どこでそれを知ったんですの!?」
指を突きつけて言うフェンサーの言葉に、あのクモ怪人、こと『土蜘蛛』が笑う。
「この身体。もはやこの俺を妖怪と言える部位は中にしか存在しないこの身体!!
フレームはチタン合金!!
表皮はカーボンナノチューブ!!!
そして脳には一部、コンピュータが隣接している!!」
「サイボーグ妖怪、ですって……!?!」
「その通り!!
我らの血液は、人間では耐えられない改造にも耐えてくれるからな!!
まぁ、『彼ら』にとってはいい実験材料なのだよ、我々は!!
お陰でこうやって復讐に来ることができた!!」
「誰がそんなことを!?!」
「おっとここまでだ。
まずは死ねぇ!!!フェンサー・マスティフゥゥゥゥ!!!」
サイボーグ土蜘蛛の、4つの機械式の爪がフェンサーに迫る。
その時、フェンサーは、
「死んでたまりませんわよぉッッッ!!」
まさかの、真正面からその4つの爪を、両手で掴んで脇で挟み止めたのだった。
「なっ!?」
「あらお忘れ?
─────『
メキメキと鋼鉄のクモの脚から音を立てて、ふ、とサイボーグ土蜘蛛を持ち上げる。
「わたくしの馬力をぉぉッッッ!!!!」
ズン、と頭から地面に叩きつけられるサイボーグ土蜘蛛。
なにスープレックスかは分からないが、海老反りの姿勢のフェンサーは、すっと元の姿勢に戻って乱れた髪をクールに片手で払う。
「……なんて馬鹿力な……」
「毎日銃剣突撃練習を未改修L85フル装填2丁持ってやってるからね、仕方ないね。
8kgのライフル持ってるやつに言われるってもうこれ分かんねぇな」
新人の疑問に呆れた顔のウィプリィだった。
「硬いから、当然重い。
そういう安直な所、塗り壁だの化け蟹だの言うこの国の硬い魔物のDNAで強化されてたころから変わりませんわ、ねッッ!!」
蹴りで吐血共に空中に巻き上げられ、
「ANGERrrrrrrrrrrrrrr────ッッッ!!!」
なんと言っているかはよく分からないのだがおそらく文字にするとそんな感じの叫びと共に、自分であるL85と共に銃剣突撃。
イノシシもUターンする迫力と破壊力で手頃なコンクリートの建物にサイボーグ土蜘蛛を盾にしてぶつかる。
「ガァ……!?!」
「表面が硬くても内臓が無事ならそこを攻めるッ!!
アレが壊れた時はッ!!毎回ッ!!!
こうやってぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
ズン、ズン、と華奢なお嬢様ワガママボディによる短い距離のタックルと思えない音が響く。
4回目で、建物の壁に穴が空いて土蜘蛛共々中へと進んでいく。
この場の、誰もがえぇ、と言う顔になってしまった。
「ゲフッ、ガハッ……!!」
サイボーグ土蜘蛛、口から何度も血が飛び出る。
「どこの技術かは知りませんけどサイボーグになるなら脳だけにしてから来なさいな。
まぁそうなったら脳震盪が起こるまでしますけれども」
まさか、一発も撃たないでここまで追い詰めるとは、仲間ですら思わない。
「ま、待て!!
動くとこいつの命が!!」
サイボーグ山地乳の方も思わず、と取り押さえたシュナイダーを掴んでそう言う。
「─────どうなるって言うのかねぇ、君ぃ?」
それが行けなかった。
背後から、何かがシュンと山地乳を撫でるように振り下ろされる。
その、
「元気そうだねぇ、君ら。
まさかサイボーグ化して蘇るだなんて、大昔のアニメか特撮じゃないのそれ?」
ずるり、と右と左がズレる。
山地乳のその様子にヤバいと感じたシュナイダーが避けたが、直後大量の血を吹き出して二つに分かれる。
「まぁ、
私自身そのぐらいできる程度に綺麗に斬っちゃった覚えあるけどね」
わざとらしく、残心とでも言いたげに斬ったままの姿勢。
両手で構えた刀から血を滴らせ、返り血を浴びた姿で笑う顔あり。
「オンリー……いえ、」
「『ロンリー・ウルフ』!?!?!
あの人斬りがなぜこの部隊にいる!?!?!」
土蜘蛛の悲痛な叫びに、オンリーは普段は見せないような心底楽しそうな顔をする。
「そっかぁ、フェンサーちゃんは知っていて私がどこにいるか知らなかったんだ。
呼び間違えからできたオンリーっていう名前も、
普段の地味な良い子ちゃんに徹している態度も、
こんなサプライズになるなら……無駄じゃあ、なかったねぇ!?!」
だん、と一歩で跳躍するように、オンリーが凶暴に笑って手に持った刃と共に土蜘蛛へ迫る!」
***
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