PHASE 16 :山の戦場は予定通り





 突然だが、シェリフは自身であるコルトシングルSアクションAアーミーAの扱いにかけては右に出るものはいない。


 早撃ちの速度は0.02秒。


 隣のホークも達人だが、それでも0.034秒。


 単純にホークが一発撃つ間に、シェリフは二発撃てる。


 そんな速度に機械部分がが反応するのか、というのは、まぁこれはリボルバーでの早撃ちのテクニックの一つである『ハンマー部分を左手で素早く動かして次弾を撃つ』をする事で解決できる。


 だが、構造上というか、ある理由でコルトSAAは最初は5発で撃ち切ってしまう。


「チッ」


 最後の一髪で、サルの片目を撃ち抜いて、シェリフはトリガーをハーフコックして銃後部のゲートを開ける。


 SAAは、早撃ちには向くが、リロードは遅い。


 銃身の脇のあるエジェクターというピストンする棒状の装置を手動で動かして薬莢を一発ずつ排出・手動で一発装填。6発入りなのでそれを6回やる。


 気が遠くなる作業だ。

 そして、平時は安全装置のない機構ゆえに、5発しか装填しないのでこの作業をする最初に撃ちきった瞬間が来るのが早い。


 というわけですでにシェリフにはゴリラのような腕の攻撃が飛んできている。


「チッ!!」


「戦場で忙しいなぁ!!」


 しかし、その眉間を撃ち抜く.44マグナムがある。


「お互い大変だな!

 女の身体で良いのは鋼鉄の長いモノこうやってシコシコするのにゃ向いてるってぐらいか?」


「皮でも剥いてな、って言いたかったけど、ありがとうよ!

 お前何発残ってんだい?」


「2発!

 これで一発!!」


 ズドンと再び1匹の眉間を砕く。


「4発撃っただろ!?オイオイ、フル装填で持ち歩くとは、暴発おもらしが怖くねぇのかい!?!」


「早漏ババア見たいにゃヘマしねぇさ!!

 ラスト!!」


 再び一発で仕留める。


 ホークこと、ブラックホークの名前を持つリボルバーもSAAを模しているので、ハーフコックは必要ないがゲートを開けて上の操作で装填する必要がある。


「オイラまだ装填してねぇんだけど」


「マジで??年取ると回復まで時間かかるのな」


「マスカキ辞めろクソババア共!!!

 リロード賢者タイム長すぎなんだよクソが!!!」


 アトラ、怒りの援護射撃。

 弾切れしたので即座にM500の回転弾倉シリンダー部分を左にスライドして、空の薬莢を即座に排出、即座に弾丸を6発……


 キェェェェェェェェェ!!!


 しかし、その隙を逃さず、左手に弾丸をはたき落とし勢いでアトラの服の前を破く。


「っ、てめぇっ!!!」


 バキッ、と顎を折るハイキックを顔面に叩き込むアトラ。

 瞬間、ブラジャーに包まれた大きな膨らみ二つが揺れて、谷間から飛び出す薬莢達。

 振り上げていたM500に、勢いで回転する弾倉吸い込まれるよう弾丸が入っていき、


 ズドン!


 構え、シリンダーを戻して一発。


 顎だけじゃなく額も割れてヒサルキが死ぬ。


「チッ……!」


「おぉ〜!」


「ナイスおっぱい!」


「うるさいなぁ、装填終わった?」


 言われてあー、と銃をホルスターに戻す二人。


「いや終わったけどよぉ……」


「風が言うんだよ、そろそろオイラ達の出番は終わりだぜって?」


「は?」


 ふざけた事を言うので思わずアトラは自分の銃口を向けそうになる。


 だが、次の瞬間後ろから来たヒサルキの胸の辺りが撃ち抜かれる。


「!??」


 この場の3人は誰も撃っていない。

 そして、驚くアトラをつかんで、この場を走り出すホークとシェリフ。


「正規軍様の登場だ!

 綺麗に心臓を撃ち抜いてるけど、コイツは多分M-フォースの狙撃手だな?」


「なんで分かんのさ!」


 ズキューン、と反対側からヒサルキ1匹の眉間が撃たれる。


「リュドミラの嬢ちゃんはな、酒を早く飲みたいからヘッドショットで即死させるのさ!!」


 言いながらシェリフは前から来たヒサルキを早撃ちするが、狙われる場所を見切ったのか腕で防がれる。


「チッ!」


 フォローに入った両脇の二人だが、直後タタタンッという音と共にヒサルキが背中から心臓を撃ち抜かれた。


「今のは!?」


「真面目だなぁ、マコト!身体はともかく血はドイツ製だ!」


 タタタンッ、タタタンッ、と言うアサルトライフルの撃ち方として教科書通りな正確なバーストで支援が飛んでくる。


 G3A3マコトだけじゃない、背後からは既に別の銃が撃たれている。

 スナイパーだけではなく、バトルライフル系列も射程内と言う事だ。


「けどやっぱり多いなコイツらは!!」


「密度おかしくない!?

 死体の処理は、まぁウェンディゴってすぐ消えちゃうけどさ!!」


 サ〜、と黒い粒子になって消えていく死骸を蹴り飛ばして進む。

 だがまだまだ巨大なサル達は勢いよくやってくる。


「合流するにも遠いなぁ!!

 リロードも一苦労だしな!」


「じゃあなんで来たんだよ!?!」


「そのリロードのクソさも楽しいからねぇ!

 ……っておいおい今の聞こえたかい?」


 シェリフの言葉と共に、ターンッ、ターンッ、と威勢の良い銃声が近づいてくる。

 7発目で何かを感じたヒサルキが顔を上げた瞬間、くるりと空中で回転する人影あり。


 片手片足で地面を捉える、膝に悪いスーパーヒーロー着地。


 特製の青と赤、たまに白の戦闘服。

 ふわりと広がる、外側が青と内側の赤と白の星条旗カラーの髪、


 そう、全体的にアメリカな彼女は!




「キャプテンガーランド参上!!

 待たせたな!」




 ズドン、とキャプテンガーランドの腕の星条旗カラーのストックが特徴的すぎるM1ガーランドが火を拭き、最後の一発の証のクリップがチャリンと飛ぶ。


「とんでもねぇ!速いもんだぜキャプテン!」


「偉大なるフロンティアスピリットの象徴を助けたかったからね、一番に来た!」


「それより後ろ!」


 飛びかかるヒサルキ。

 そこへキャプテンは、腰から取り出した銃剣を胸へ突き刺す。


 ギャー、と悲鳴を上げたそこへ、ガーランドを突き刺し着剣、同時にクリップにまとめられた弾薬を装填。

 ねじり、外れやすくしたうえで一発を至近距離で心臓に叩き込み、反動で距離を離す。


「ワオ!2次大戦のヒーローは手慣れてるな!!」


「アフリカのナチスも、悪名高き日本兵もこのぐらい強敵だった!!

 さぁ、だがここからヒーローではなく勇敢な兵士たちの出番だ!下がろうか!!」


 キャプテンの支援を受け、3人は即座に走り出してこの場を離脱する。


 いよいよ、大攻勢が始まる。




          ***


「キャプテンガーランド……カッコいいねぇ相変わらず……!」


「ダメよ、真似しちゃ?」


「ちぇ……で始めんのかい?」


 ええ、とアサルテは、隣のフックに答えて無線を開く。


「第2小隊の隊員を回収確認。

 A班射程内。そっちは?」


『B班包囲完了。

 行けます隊長!』


「OK!

 M-フォース、総員撃て!」


 直後、その場を包囲していたM-フォース達、AR-15系列、M4の系列であるライフル達が発砲を始める。


 タタタタッ!


 数は多いが、同じだけの弾薬は用意してある。

 隙間なく放たれる弾丸に、怯えてどんどん中央に集まっていくヒサルキの群れ。

 そして、紛れて放たれるバトルライフルに、そしてM-フォース達の装備するアンダーバレルショットガンのスラグ弾に撃ち抜かれ死んでいく。



 さて、意外かもしれないが、大型獣相手ではM-フォース達のM4などのアサルトライフルはあまり役に立たない。


 今もけん制で使ったうえで、本命のショットガンで倒していくのも理由がある。



 ストッピングパワーという言葉がある。


 銃の威力は貫通力が強ければ強いと素人は考えがちだが、実際には貫通する弾は人体へのダメージはほとんどない。

 人体は適当なところがあるので、弾が抜けてしまうと穴が小さく塞がりやすいのだ。

 なので、できることなら人体の中で弾丸は止まってもらい、そのエネルギーを全て内部に伝播させて血管や骨をズタズタに破壊してほしい。


 この人体に止まった時どれだけエネルギーをぶつけられるかの表現が「ストッピングパワー」なのである。


 さてここで問題なのは、では貫通力は要らないのかというとそういうわけではない。

 表面を貫通しなければ、よほどの威力でない限りぶつかったものが後ろに動いてしまい移動という形でエネルギーが消えるのだ。


 つまり、鎧の騎士を殺すのには鋭い剣よりハンマーがより効果的だが、そのハンマーの先が尖っていればなお完璧に仕留められるという話なのだ。


 スナイパーライフルやバトルライフルの弾である7.62×51mm弾や、ショットガンの12ゲージのスラッグ弾は、言わばその先の尖ったハンマーとでも言うべき弾丸ではあるが、


 ハンマーを振り回すには筋力と、何より振り回せるだけの広さがいる。


 かつてこの森以上に狭く密度の高い森林地帯で、その自慢のハンマーを振り回せない米軍は、もっと狭い場所で使える弾丸と、それをフルオートで撃つための銃を作った。

 その直径の子孫がM4。M-フォースの死神達の元である。

 その5.56×45mm弾は、フルオートで次々弾丸を吐き出しても素直に射線を制御でき、狭い場所でも咄嗟に使えるが、貫通力はまだあるとはいえ、致命的にストッピングパワーが足りない。


 人間相手ならまだ十分だが、例えばその毛皮が防弾ベストと同様の硬度であり、骨も筋肉も頑丈な獣相手ではどうか?


 答えは今撃っているヒサルキの反応通り、痛いがそれだけ。

 数を撃ち込めば死ぬが、そんなに撃っている間ジッとしているわけではない。

 故に、トドメはその銃身下部に付けられたショットガンなのだ。




 小口径弾の嵐で足を止め、12ゲージのスラッグでトドメ。


 呆れるほど有効で、弾薬費以外は効率の良い作業的虐殺。


 包囲を狭め、確実に当てて行く。


 そうすれば……残るのは死体だけ。



「撃ち方やめ!!」


 アサルテの号令。

 やや間はあったが、銃声は止む。

 散らばる薬莢を踏まないよう、全員で死骸の方へ向かう。


「リロード。フックお願い」


「あいよ」


 隣のフックが構える横で、古いマガジンを外し、新しいマガジンを入れる。

 左脇のボルトキャッチリリースを押して装填。

 M26MASSもマガジンを変える。


「あなたもどうぞ」


「あいよ」


 構えて、隣のバディが装填している間に、1匹の死骸に近づく。

 セミオート切り替え、一発頭に至近距離で撃つ。

 反応なし、死亡確認。


 次の死骸に銃を向ける。

 お互い油断なく、周りの全員も急に飛び起きて生き返る事があった場合に備える。


 突然、近くで倒れていた個体がビクンと身体を震わせる。

 銃を向けると、ビクビク身体を震わせて、荒い息で傷口を押さえてこっちを見る。


「ウッ、ウッ、オッ……オッオッ……!!」


 もはや怯えるただの動物だ。

 いや……魂を喰い、人間を操る力があるとはいえ、彼らヒサルキは、ただの動物でしかない。

 餌を求めて人里降りてきてしまい、食べては行けないものを食べただけの動物だ。


 ダンッ!


 アサルテは、少し悲しそうにスラグ弾を頭に叩き込む。

 可哀そうだからこそ、楽にしておく。


「……生かしては、おけない」


 周りでも、短い『介錯』の音が響く。


 存在が罪。生かしてはおけない。

 理不尽は重々承知で同情もするが、それだけだ。


「上だ!」


「!?」


 と、そこで一体のヒサルキが上から強襲をかけてくる。


 ズドン!


 しかし、左側面から無数のベアリングに貫かれ、穴だらけになってアサルテの脇を転がり落ちる。


「注意一秒、怪我一生〜!」


 箱型弾倉を外し、スラッグの弾倉変えて、フォアグリップの上を押しながらポンプアクションで弾を変える。


「第1小隊隊長さんさぁ、感傷的になりすぎるのも危険だぞ〜?」


 ズドン、とプッタネスカのSPAS15が、撃ち落としたヒサルキにとどめを刺す。


「まぁ、ウチの隊長みたいに迷いなさすぎたり、私みたく今日の焼肉でなんのタレ使うか考えてるよりマシかなぁ!?

 ねぇ、甘口、辛口、コチュジャンありとなし、どれが良いかな??」


「……あなたって、迷うところ間違えてても幸せそうね」


「へへへへへへへへ♪


 まぁ、戦場で迷って反撃受けると死んじゃうしね」


「……それもそうね」


 時々、アサルテはこの第2小隊のプッタネスカという死神の態度が適当なのか確信を得ているのか分からなくなる。

 頭のネジが、外れているのかしまっているのか……


「あ!それより第1小隊の隊長さんこっちきてよ!

 ちょっと面白い物見つけた!!」


「……何?」






 ……連れてこられたのは、工事現場だった。


「ヒサルキの封印されてた石あったんだよねぇ〜!

 だけどなーんかこう……聞いてる話と違くってさー!?」


 だが、それは徒労にはなり得ないほどに、

 いやそれどころか恐ろしい真実を教えていたのだ。


「じゃじゃーん!真っ二つー!!

 パフェちゃんのドローンで見た時にはびびったぜい!!」



 巨大な岩。

 古い注連縄しめなわ、封印の文字。


 それが、明らかにダイナマイトや重機で壊したのではなく、


 何か、方法は分からないが、断面が綺麗な鏡面になる方法で、真っ二つに切り裂かれていたのだ。



「なんなの……これは!?!」



「わかんないだろぉ?私にも分かんないねぇ〜

 これが、異常事態だってこと以外は」



 プッタネスカの言う通り、これは異常事態。

 アサルテはまず、即座に通信を入れた。



          ***

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