第7話 7つの夏

 翌日のお昼前。びっくりした! お兄ちゃんが来た! ほんの数日、会わなかっただけなのに、すごく懐かしい気持ちがした。


「どうして? 勉強は? しょーねんばじゃなかったの?」

 そう言うと、笑って

「少しは息抜きも必要だよって、ばあちゃん、じゃない、より子さんに言われてさ。今日の夜花火大会見て、明日帰るよ」

「へえ」

 より子さんは、お父さんのお母さん。つまり、僕たちの、もう1人のおばあちゃんなんだけど、おばあちゃん、って呼ぶと、そんな風に呼ばないで! って怒るから(実際におばあちゃんなのに、変なの!)より子さんって名前で呼んでいる。おばあちゃんにその話をしたら、あのひとらしいわ、と言って笑った。おばあちゃんとより子さんは、昔、一緒に仕事をしていたんだって。


        ***


 花火を見て、お兄ちゃんと2人、暗い道を通って浜から帰ってきた。去年と同じ、なのに、何かが違って感じられた。


 夜、お兄ちゃんと布団を並べて寝たけれど、さっき見た花火が、目に、頭の中に、焼き付いて離れなくて、眠れない。そうだ、あの花火、あれは、殺されたたくさんの人たちのためのものだった。そして、そのうちの1発は、たかやのためのもの―。


「なあ」

「え、なに?」

 寝ているとばかり思っていたお兄ちゃんが、不意に話しかけてきた。

「お前さ、こっちに来て、誰かと友だちになった?」

「誰かって?」

「…いや、いい。別に」

「…たかや?」

 その名を口にすると、お兄ちゃんはバッと跳ね起きて僕を見、そして言った。

「会ったのか? お前も」

「…お兄ちゃんも?」

 お兄ちゃんは正面に向き直ってからゆっくり頷き、言った。ああ、会った、お前が生まれた、あの7歳の夏に。暗闇の中、お兄ちゃんの表情は見えない。だけど、今ここではないどこか遠くを見ている、なぜかそう感じた。


        ***


 翌年の夏も、その次も、その後ずうっと、夏が来るたび田舎にやって来たけれど。たかやと会うことは二度となかった。あいつとは、7歳の夏に一度だけ、一緒に過ごせたのかもしれない。


 僕とお兄ちゃんがそれぞれの7つの夏に見たもの、あれは夢か幻かなんかだろう、そう言う人もいるかもしれない。けど、俺は確信している。あいつは、確かにいた。そして俺たちは、あの星降る暗い夜の中でただ2人、流れる星を見たんだ。





FiN


Requiescat in pace…

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7つの夏 はがね @ukki_392

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