地球のうんこ、なんとかなりませんか

ちびまるフォイ

なんとかなりました。

最初に見つけたのは動物園の飼育員だった。


「……なんか、うんこ臭いぞ?」


普段、動物の体臭に慣れている飼育員ですら

動物園とは別格の異臭に気づいて歩みを進めた。


森を抜けた先には大きな穴があり、虹色のとぐろを巻いた固体があった。


その謎の固形物質は研究機関による綿密な調査が行われ


Unbelieveable

Nasty

Kinetic

OBUTU


通称「U・N・K・O」という新物質だと判明した。

うんこである。


「すごいなぁ、地球もうんこするんだ」

「しっかしすごい匂いだなぁ」

「うわぁ……食事前に見るんじゃなかった」


物珍しさにうんこを見に来る人は多かったが、

毎日定期的に排出されるうんこに目新しさは失われ

観光目的で来る人はいなくなってもうんこは出続けた。


「園長、どうしましょう。うんこの処理施設が受け入れ拒否をしてきました」


「ええ!? うんこ出続けてるのに!?」


第一発見者だからという理由でうんこ処理を担当することになった動物園だが、うんこの処理には頭を抱えていた。

うんこ処理施設に行くと担当者も頭を抱えていた。


「地球うんこの処理を止めるってどういうことですか!?」


「地球うんこは処理にめちゃくちゃ負担かかるんだよ。

 昔のよしみで続けていたが、このままじゃうちもパンクしちゃう」


「今この瞬間にも地球はうんこを出しているんですよ」

「それはわかるけどさ……」


新物質である地球うんこは加工も処理も難しく処理先が見つからなかった。

しだいに処理先がなくなったうんこが貯まり、臭害で文句をつけに来た近隣住民が匂いでぶっ倒れる事件が相次いだ。


「もうこれ以上うんこを処理するわけにもいかない。

 うんこに蓋をしよう!!」


園長の決断に誰もが賛成した。

地球うんこの噴出口へ向かうと用意した巨大な蓋を取り付けた。

蓋を取り付けられた地球の大穴はうんこが蓋で押し返されて外に出ることがなくなった。


「これでよし、と。もううんこの処理に悩まされずに済むぞ」


穴の周りのうんこを片づけて誰もが安心した。

変化が起きたのはそれからしばらくのことだった。


『大変です! 南極の氷がなくなりました!』

『世界最大の河が干上がってしまっています!』

『大規模な地震で大陸が分断されてしまっています!』

『UNKOで水道管が寸断されてしまいました!』


世界のあらゆる場所で未曾有の自然災害が下痢のように止まらなくなった。


さまざまな場所で地球うんこ第2、第3の噴出口が発生して

行き場を失ったうんこが出てくるうんこ噴火も相次いだ。


臭いものにフタをすればするほど、地球環境は悪化し新たな場所へのうんこ噴出が発生する。


「どうすればいいんだ……クソほど考えているのに

 これっぽっちもいいアイデアが思いつかない!」


地球環境のためにはうんこを出させなくちゃいけないが、

うんこを処理する方法がないので貯まる一方になってしまう。


園長はうんこ穴の近くで悩んでいた。

その背中を見て男が声をかけた。


「こんにちは、あなたがこの穴に蓋をした方ですか?」


「え、ええ。その軍服は……もしかして軍人さんですか」


「そうです。実はこのUNKOを兵器に転用したいと

 うちの国の上層部から連絡がありましてね。

 どうかこの蓋を取ってくれませんか?」


再生利用もできなければ捨てることも出来ない地球うんこ。

せめて何かの開発に役立てればと蓋をとった。


「ありがとうございます。きっとすごい兵器が出来ますよ」


軍人の言葉はのちに現実となった。


うんこを解析して作られた最新殺りく兵器の威力は凄まじかった。

ひとたび使えば人間の命を効率的に刈り取るだけでなく、

周囲一体を悪臭で包み込みあらゆる生物は近づけなくなる。


仮にうんこで仕留め残っても誰も助けることは出来ない。

ガスマスクすら貫通して入る悪臭にはロボットすらも倒れてしまうほど。


うんこで主導権を手に入れたことから一気に侵略戦争がはじまった。


兵器転用の可能性が広がったことで

これまで迷惑でしかなかったうんこが初めて求められるようになる。


臭悪なうんこ兵器でお互いの命を削り合う最終戦争となった。


戦争の長期化によりうんこの濃度と密度は右肩上がりになり、

うんこを炸裂させた場所には雑草すら生えなくなるほどの兵器が誕生した。


「うん……このままじゃダメだ。いつか我々自身の身を滅ぼすだろう」


おろかな人間がそのことに気づくのはうんこで人類の半数以上を失った後だった。

とても水に流せないほど荒れ果てた荒野でうんこ卒業宣言が行われた。


「我々人類はうんこを手にして何を失ったのか考えてみてください。

 二度とうんこの戦争はしないとここに宣言します!!」


人間たちはうんこで狂喜乱舞していた自分たちを反省して平和の誓いを建てた。

その誓いの象徴としてうんこ戦争をしていた国々には、とあるゴリラが贈られることになった。


一番最初にうんこが出てくる穴を見つけた動物園のゴリラだった。


人類が撒き散らしたこの悲劇を忘れることなく、

うんこと一緒に共存していくことの意味としてのゴリラ。


「それでは平和の象徴。ゴリラ贈呈式へと移ります」


平和と友好の象徴として檻に入ったゴリラが運ばれてきた。


「このゴリラを見るたびに、我々はこの戦争の過ちを反省します」


ゴリラを受け取った国の代表者は頭を下げた。

園長は動物園で育ったゴリラに別れを告げる。


「このゴリラは動物園生まれですから人に慣れています。

 どうか最後まで大切に育ててあげてください」


「もちろんです。園長、飼育するうえでなにか注意することはありますか?」


「そうですねぇ……うんこを投げることがあるので注意してください」

「わかりました。ありがとうございます」


国の代表者は丁重にゴリラを受け取り、自国へと連れ帰った。

式典が終わったあとでふと思い出して園長に声をかけた。


「園長、ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんでしょう」


「どうしてゴリラはうんこを投げるのですか?

 動物園で育ったのならうんこを投げつけるほど天敵もいないでしょう」


園長は「詳しくはわかりませんが」と前置いたあとで答えた。


「ゴリラがうんこを投げるのは退屈しのぎらしいです。

 何も変化のない動物園の日常に飽きて、退屈を紛らわすのでしょう」


「他のゴリラのうんこを投げることは?」


「ないでしょうね。ゴリラは非常に知能が高い動物です。

 他のゴリラのうんこを拾って投げるのは汚いと思うんじゃないでしょうか」


「……なるほど」



国へ帰った代表は、すぐに地球うんこで作った兵器を跡形もなく撤去した。

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