第1話
青年が意識を取り戻したのは、道路の上だった。
記憶が曖昧であり、左手の甲に模様を刻んだ老人の顔もぼやけている。ただ、自分がなんのためにこの街に訪れた目的は忘れていない。ラムードにあるという秘宝を求めて、ここに来ているのだ。
左手にはランタンを持ち、街を散策する。時間帯は夜だったが、月明かりは無く、非常に暗い。
歩いて5分ぐらい立っただろうか。どこからとなく物音がした。音がした方を向くが、何も見えない。気を取り戻して前を向き歩き出そうとした時だった。突如暗闇の中から人が飛び出してきた。それは人間とはかけ離れた姿をしていた。片腕しかなく、足も片方を折れ、骨が見えている。顔の皮膚は溶け、鼻はなくなっている。
青年は驚くが、いきなりのことで反応が少し遅れ、奇妙な人間の体重で倒れ、マウントを取られる。それは青年を噛みつこうとしてくる。青年は咄嗟にランタンをそれの頭部に叩きつけた。ランタンの火が頭部に残ったわずかな髪に引火し、体全体に火が回る。それは火を消そうと暴れまわったが、少しして倒れた。
青年は息を切らしながら立ち上がった。この一連の奇妙な出来事の前に、少なからず恐怖を感じた。汗も湧き出るように出てくる。
息を整え、再び歩き出そうとした。しかしランタンはもう無くなったため、何も見えない。時間も時間で他人の世話になることもできず、壁にもたれかかった。
しばらくして何やら明かりが見えた。その方向をみるとその明かりはどんどん大きくなる。
誰かが来ると思い、青年は立ち上がった。その予想は的中しており、暗闇の中から一人の男が出てくる。それは片手にランタンを持ち、もう片方には長い柄の斧を持っていた。
「ここで何をしている」
斧の男が話しかける。
「…分からない。目が覚めたらここにいた」
「何かに襲われたか?」
「ああ、だからランタンを叩きつけたんだ。そいつに」
青年は燃え滓となったものを指差す。それを見た斧の男は少し考えるそぶりを見せ、再び話しかけた。
「左手の甲を見せてみろ」
その通りにした青年に、斧の男は言った。
「お前も何かを求めてここに来たのか」
「そうだ。秘宝を求めてやってきた」
斧の男は少し驚いたが、少し笑う。
「そうかそうか。それはいいな。でも夜も遅い。後は教会で話合おう。どうせ宿もないのだろう?」
「ああ、ない」
「じゃあついてこい。俺のことはアスキス神父とでも呼べ」
「今後そう呼ばせてもらう。俺はサイモンだ」
サイモンは神父とともに教会に向かった。
サイモンはまだ知らない。自分が魔境に足を踏み入れたことも、悪夢が始まったということも。
灰の街 黎扇 @Lee1956
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