そこにいるの?
一人暮らしが寂しかったので猫を飼い始めた。
黒いキジトラの仔猫。人懐っこい性格なのか、遊びたい年頃なのか、何かある度に寄ってくる。
名前は思うところがあってソラと名付けた。最近になって、「ソラ」と呼ぶと駆け寄ってきて「なに?ごはん?」みたいな顔で見上げてくるようになり、とても可愛がっている。
そんなソラだけど、ウチに迎えてから妙な癖がある。
何もない所にパンチを仕掛けるのだ。
分かりやすく言うと、猫じゃらしを捕まえようとする動きと同じだ。
急に上を向いたと思えば、頑張って後ろ足で立ってタシタシと空を殴る。
赤ちゃんや犬猫の動物が、何もないところを見ると聞いたことはあったけど、空気とじゃれるのは初めて知った。
これを始めるとソラはしばらく戯れている。じゃれて、倒れて、跳んで。まるでそこに何かいるかのように遊んでいる。
「ソラ、そこに何かいるの?」
呟くような声に誰も反応しなかった。
猫カフェへやって来た私たちは眼前に広がる可愛さに呑まれて少しの間放心していた。
「て、天国だっ」
リクと同時にはしゃいで猫に近寄る。人馴れした子ばかりで撫でても抱っこしても嫌がる素振りもない。
二人で猫を可愛がって、思い思いに遊んで、お気に入りの子を抱っこした。
「俺、猫が好きだ」
「知ってるよ」
私はおかしくて、吹き出してしまった。あんなにはしゃいでいたのに、そんなこというなんて。今さら、と思ったんだけど。
「だからさ、一緒に暮らしたい。二人と一匹で」
嬉しかった。嬉しかったよ、リク。猫二匹を挟んでの申し出なんて、今思うと可愛いカップルだったね。
私は恥ずかしくてさ。
「ホント?ボクウレシイナ!」
なんて裏声で。猫になりきって返事したっけ。あの返事、どう思ってた?
「結局、猫は飼わなかったけどね」
ソラを見て、少し笑った。なんの笑みかは自分でも分からない。
ソラはじゃれるのをやめて、ただじっと天井の角を見つめている。
「嘘になんてしないでよね」
私はソラに倣ってそう呟いた。
雑記 夜路てるき @yoruteru
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