第20話 勇者の眼帯と王女のブレスレット

 ー5日後ー


 カランコロと来客を告げる呼び鈴が軽やかな音をたてる。音とともに現れたのは豪奢なドレスに身を包み、肩までの銀の髪を輝かせ、紅玉のような瞳を持つ美少女。その後ろには真紅の鎧騎士が控えている。


「約束の品は仕上がってるかしら?」


 期待に満ちた弾んだ声を上げる少女に店主は勿論とテーブルに置かれたものから掛けていた布を取り外す。現れたのは少女の瞳と同じ紅玉を収めた周りを金で縁取った黒い金属製の眼帯だった。


「アル、着けてみて」


 ユートに促され装着した眼帯はピッタリとアルの欠けた左目を覆う。

 アルの欠けていた視界を蘇らせ、満たされた視界はどこか欠けていたアルの心も満たしていた。


「つけ心地はどう?」


 下からアルの顔を覗き込むユートの顔を何故か気恥ずかしく感じアルは直視出来ずにいる。


『あぁ、よく見えるよ』


 顔を反らし答えるアルの視界の端には良かったと満面の笑みを浮かべるユートの姿が映っていた。





「また御贔屓に」


 笑顔で手を振る店主を背にアルは革袋から紫の石のあしらわれたブレスレットを取り出すとユートの手にはめる。驚き頬を赤く染めるユートにアルは


『また、無意識に魔法をかけられたら困るからな』


 と軽口を叩く。本当にアルが困っているわけではない。


(ユートの言葉は魔法になる。無意識に魔法が発動して傷つくのはユートだ)


 ユートを想っての贈り物。しかし、愛情表現の下手な元勇者はどうしても皮肉めいてしまうのだった。


「もー、アルのバカ!もうちょっとマシな贈り文句もあるでしょうが」


 怒りながらもユートの頬は初めてのプレゼントに大いに緩んでいる。


「ありがとう。大事にするね」


 ニッコリ微笑むユートの笑顔にないはずのアルの心臓が早鐘を打った。人の顔なら真っ赤になっているであろうアルの指を握ると


「さあ、行きましょう」


『どこに?』


「風の向くまま、気の向くままに」


 どもるアルの指を掴んだまま楽しげにユーストマは歩き始めるのだった。

 隻眼の赤騎士と銀の魔姫の冒険はここから始まる。


 ーおしまいー

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生きたい姫と死にたがり屋の騎士 犬井たつみ @inuitatumi

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