& prologue
部屋。
「遺書。見てこれ。縦読みすると生ごみなの」
「だからごみ出してたのか」
「えっ持って帰ってきたの?」
「ごみは指定された日に出しましょう」
「うっ」
「俺が出すよ。それにしても」
ごみの中身。ぜんぶインスタント食品。
「あっインスタント食品ばっかりとか言うんでしょ。わたし料理できないんだから仕方ないじゃない」
「ああ。俺が作るよ。何がいい」
「えっ」
「まさか」
彼女が、ど派手に冷蔵庫の扉を開ける。
「ええ、そうよっ。冷蔵庫の中身は全てビールですよっ」
「おまえ、だめなやつだなあ」
「職業不詳に言われたくないですう」
「そう、だな」
「えっそんなへこむの。ごめん」
「いや。いいんだ」
「大丈夫よ。あなたの本心を聞いても、わたしはしなない。ほら」
彼女。抱きついてくる。
「おまえ、なにかと抱きつくやつだったんだな」
「心臓の音を聞かせると良いって、検索したら書いてありました」
「俺は夜泣き中の幼児か」
「話していいよ。このまま抱きついてるから」
「俺の仕事は」
「うん」
「人を殺すことだ」
「うそつけ」
「嘘じゃない。死にそうな人間を探して、話を聞いて、自分の感情を喋る。それで終わりだ」
「仕事なの、それ」
「通帳見るか?」
「うん」
「俺の右ポケット」
「ええと」
左をまさぐられる。
「そっちは俺の左の尻肉」
「あっごめんなさい。あまりに柔らかくて。ええと、あったあった」
彼女。くっついたまま、俺の顔の前で通帳を開く。
「凄い桁数だろ。この仕事をすると、なぜか、誰かがいつのまにか振り込んでる」
「あっははは」
「何がおかしい」
「いやあなた、会って話した人がしんでるなら、誰がこれを振り込んでるのよ。それにほら。見てこれ」
「あ?」
「定期的に振り込まれてる。だんだん額が増えてるし。これ、あなたに話して救われた人が、まだ生きてて、その証にお金振り込んでるのよ」
「いや、そんなことが」
「ごめんなさいちょっと抱きつくのやめるわね」
「おい」
「ええと、ちょっと待ってね。スマホスマホ。いつも使ってる仕事用のSNSとかHPとか、ある?」
「SNSなら」
「画面に打って」
彼女が、スマホの検索画面を突き出してくる。言われるまま、仕事用のSNSのIDを打った。
「これで、いいか」
「はい見つけた。これ見て」
また突きつけられる、画面。
「俺の通帳の、振込先」
「みんな、あなたと話して救われてるわ。地味に有名じゃない。救われた人がちゃんとお金の振込先と情報の選別してるから、あなたの顔も名前も割れてない」
「そんな、ことが」
「わたしよりもずっと凄い人だったのね。キスしてあげなきゃ」
キス。
「俺たち、今日はじめてキスしたんだよな」
「うん。今ので2回目。なかなか上手くならないね」
「買い物してくる。料理しないと」
「じゃあわたしも行くっ」
彼女が、くっついてくる。
「あんまり外でくっつくなよ」
「いいじゃない。減るもんじゃなし」
「俺の仕事的に差し障りあるだろ。おまえがくっついてると死にたい人が寄ってこない」
「あ、そっか。でもくっつきます。腕に絡み付きます。今日は仕事よりもわたしへの料理を優先してください。おなかすいた」
「おまえ」
絡み付いた腕が、前に進んでいく。心地よい、暖かさ。
「雪だし、鍋がいいかなっ」
「鍋ね」
「きりたんぽっ」
本心と仕事(theme of d ②) 春嵐 @aiot3110
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