本心と仕事(theme of d ②)

(&α) epilogue

「私には、いきていくだけの、力が、もう、ないの」

「俺のせいだ」

「なぜ」

「俺は、こわかった。こわかったんだ」

「知ってる。分かるから」

「顔を見れば、わかるんだろ。だいたいのことが」

「それを言わないでよ。これのせいで」

「違う」

「ええそうよ。違うの。わたしが興味を持ったから。好奇心であなたの心を。ごめんなさい。ごめんなさい」

「違うんだ」

「もう、あなたの顔を、見れない」

「店ですれ違ったとき、しにそうな顔を、してた」

「そうね。実際そうだから。とめないで、ね」

「でも」

「やめてっ」

「すまない。俺の、せい、なんだ」

「あなたはわるくないわ。わたしがわるいの。全て」

「なかよくなったひとが、みんな、死んでいくんだ。俺は。よくわかんないけど、そういう、なにか性質みたいなものを持ってる。だから、おまえが」

「わたしが」

「お前が俺の心を覗いて、俺のせいで、死ぬのが、とにかく、こわかった。こわかったんだ。すまない」

「なんで、謝るの」

「最初から、仲良くするべきじゃ、なかった。俺の本心を隠して接してれば、大丈夫だって。本当のことを喋らなければ、誰も死なないと思って。だめだった。よりによって、顔を見ただけで感情が分かるなんて」

「ねえ。こっちに来て」

「いいのか」

「ゆっくり。ゆっくり歩いてきて」

「これで、いいか」

「もっと」

「もっとか」

「わたしの背中にくっついて」

「でも」

「はやくして」

「これで、いいか」

「うん。聴こえる？」

「聴こえる。お前の心臓の音」

「そう。わたしの生きてる証」

「でも、おまえは、俺のせいで、死のうとしてる」

「だから、証明する。わたしは決めた。いまから、振り向いて、あなたの、顔を、見ます。心を」

「やめろ」

「あなたの心にあるのは、深い傷だけ。あなたに会ったことでみんな死んだわけじゃない。わたしは分かる。分かるの」

「でもみんな、死んだ。おまえだって」

「あなたのせいじゃない。わたしが、弱かったの。ねえ、あなたが、ふつうのひとだったら、わたしは、あなたの、側にいたい。いま、答えをきかせて。あなたの答えを」

「俺からもひとつだけ、約束してくれ。俺のなかにあるものが、本物の、会った人を死なせてしまうものだったら、俺に、二度と、俺と死のうとしたり、しないでくれ。死ぬのは俺だけでいい」

「わかった。じゃあ、振り向くよ。このまま、わたしにくっついててね」

「頼む」

「はじめて、キスしたね、私たち」

「どうだった」

「二人で生きようよ。このまま。ずっと」

「ありがとう」

「あなたのせいじゃないわ。それに」

「ああ。おまえのせいでもない」

「帰ろう。ふたりで。部屋に」

「遺書とか書いてないだろうな」

「机に置いてあるわあ」

「うわ、なんて書いたんだお前」

「きゃああ早く証拠隠滅しないと遺書見られるっ」

「あっお前っ」

「早く帰ろうっ」