ルート2

ルーグナー

ルート2


剣と魔法、ドラゴン、勇者に魔王。


世界は簡単に表せるのに、あたしらの心は難しすぎる。そうじゃねぇなら、あたしが不登校ってのはおかしいんだ。


魔物に襲われ、あたしは半年入院しなければならなかった。

その時間で、ボッチになった。ヒソヒソ噂される。あたしの机には誰かが座ってる。居場所が無い。


まだ汚れても着崩れもしてない制服、埋まらないノート、使えないスキル。どれもやる気を無くすには良いマテリアルだ。

友達同士話している姿を遠目で見るばかり。


「……こんなうらめしいもんなのかよ。知ってたけどよ」


「なんで、あいつまだ学校来てんの?気持ち悪いわ」


あたしは唇を噛み締め、机に顔を埋める。嘲笑の的にいる。ゆっくりと瞼を閉じれば、暗闇が広がった。……ダメなやつだ。


「テストの点はまあまあだ。他学生と比べれば平均程だ。実技は最下位」


「ぁあ……?」


目の前に、センコーがいた。ギロッと睨みつける。センコーは屍生人の腐った肉を淡々と眺めるみたく目を細めた。


「相変わらず、気色悪い顔をしている」


くすくすと、同級生が皮肉な笑みを浮かべ集まってくる。恒例の公開処刑の時間ってか?皆あたしが面白いってか?腹が痛くなり、直ぐに気持ちが悪くなった。息が出来ない、センコーの顔ボヤけてる。


センコーだけが笑っていない。殺風景な顔で、ただ嫌悪感を覗かせる。センコーは戦士クラスの力であたしの頭を掴む。あたし、宙に浮いてんじゃん!頭、痛てぇ!


「やめろ、鬼畜!放せよ!クソ野郎」


「お前ほど、どうしようもないクズは存在しないだろう」


そしたら、教室にいる皆、皆、皆……笑ってる。んだよ……んだよ……。水で潤んで床さえ見えねぇよ。センコーはそのまま、あたしを教室から引き摺り、生徒指導室に入った。入るなり、あたしを投げ入れた。あたしは勢いで椅子に頭を打った。そんなあたしをセンコーは座らせて、氷魔法で両腕を拘束する。


「んだよ!無人格男!!」


センコーはぴくりとも表情を変えない。照明が暗いから余計怖い。じわじわ近寄ってくる。


「く、来んな!!く、来んなよ!」


精一杯声を振り絞ってみせる。


「惨めな毛虫だ。いつまで茶番を続けるつもりだ」


淡々と本を音読するみたくほざく。


「来年、お前は高校生だ。周りの貴族からして、お前は最高の見世物だ」


「センコーに……センコーに何がわかるんスか」


「消えろ」


センコーから放出する桁外れの魔力、生まれ持っての才能。身体が危険を感じて後退する。くそが!ンなもんに、あたしが負けるなんて……!


「不愉快極まりない。死ぬぞ、お前」


「……ンだよ、意味、分かんねぇよ!!あたしが死んだら、アンタのせいだろ!屍生人野郎」


射るように、骨ばった手が人差し指だけこちらに向けられた。あたしから的を離さない。そうだ、殺られるって感覚だよ。


「この道しかねェんだよ!!」


あたしの思いに呼応するみたく、魔力が満ちていく。デカブツ氷手錠が内から亀裂が走りバガガガガ!!と割れる。耳が痛いくらいの音だ。



気づいたら、公園に居た。公園のベンチで気にせず股を開けて、空の動画を流した。つけっぱなしの、雲の変動。電気かかんねえし、タダ。そこらに落ちてる大人の雑誌もタダ。


「タダより安いもんはねぇ?偉い奴のいうこた違うよ。

タダよりいいもんはそうそうねーよ」


……その間、停滞する時間は100億あっても取り返しは出来ねぇけどな。

あたしはヘラァァッとキモイ顔をしてみせた。そんで、雑誌で顔面を隠す。


「はは、物理的になんか起こった時考えるわ。こんくらい休ませてくれよ」


目を瞑ろうとすると、


「イヤァン!!」


と奇妙な声がそれを許してくれなかった。反射的に起き上がる。ならず者が集まっていた。声の主はやけに声が太い。まるでオカマの声色だ。


「珍しいが、ゴミだろ。容姿いうレベルでもない。行くぞ」


興ざめしたのか、ならず者達は何も無かったように去っていく。変な物体がポツンと取り残されていた。魔物か?最近の魔物は喋るヤツがいるって聞いた事あるもんな。

あたしは警戒しつつ、好奇心からどんな奴か確かめるために近づく。

極まゆキラ目のアキカンが悲劇を演じている。


「ぁあ……?アキカン?」


「ダメぇ!あちしから出るのはカキンッて音だけ!」


えらい野太い声とおねぇ口調、それから太すぎる眉毛と赤面しながらモジモジする姿。アキカン……?アキカンって何族?擬人化族?ンなの聞いたことないけど。

そう考えていると、アキカンの閉じられていた目がカッッッ!!!と開く。


「あちし知ってるのよ!!乱暴しちゃうんでしょ!同人誌みたいに、同人誌みたいに!!」


「………誰もしねぇよ」


ヒュー……とどこからとも無く生温い夏風が吹いた。少し時間が開いて、アキカンは重い腰を上げた。よく見たら、四肢(?)が生えていて、それで軽々起き上がる。決めポーズのZを手で作る。


「ふっ……恐れをなして逃げたか」


「興味なくして帰っただけだろ」


「何はともあれ、そこのキミ!学校はどうした?その制服、魔法学園の生徒だろ」


「んだよ、どうでもいいだろ」


「よくないっ!!」


アキカンは正義ズラしてキラ目ビームをあたしに打ってくる。


「学校は良き学び舎と聞くぞ!!サボるなんて言語道断だ」


「ンだと?」


勃然と憤怒が湧き上がり、顔をこれでもかという位に顰めた。あたしは右手から炎玉を纏いアキカンを掴もうとした。しかし、その場には何も無い。


「まるで、遅いな。まるで、自分を理解していない!」


後ろから余裕めいた声で、アキカンが腕を組んでいる気がした。


残像……?


あたしが振り向こうとした途端、物体が目に飛び込む。


「アキカン、捨て身ターックル!!」


右側の頭に思い切り入るんだから、やだよクソ。ぐわん、ぐわんと視界が曲がっていき、その場で倒れちまう。立ち上がろうにも、身体、動かねぇ。

……動かねぇよ、アキカンにも負けるんだよなぁ。あたしは初めて、地面に涙を落としてしまった。


「ど、どうしたんだぁい!?手加減したつもりだが」


「そ、それでまだ……手加減とか……負け犬じゃねぇか」


一度、地面に落ちたら止まんねぇよ!力が入んねえし、心も身体もボロボロだわ。


「学校には居場所がねぇんだよ……!あたしの席すらねぇんだよ!」


「少女……そのような理由があるなら、先生に言うべきではないか」


「センコーなんて、ただのお飾りだ!センコーを優しい思うやつは価値が認められた勝ち組だろうよ」


「き、君……ひねくれ過ぎだ。捻れまくっているな」


ホラー映画見た時の顔のアキカンをあたしは睨みつける。


「うるせぇよ……強くなりてぇよ」


「そうか……ならこの、お節介アキカンが君のプァアアトナーとして導こう」


「パートナー……?」


それから猛特訓が開始された。まるで少年漫画並の練習法に、あたしはとにかく食らいつこうと必死だった。


時は過ぎて、あたしは学年トップクラスの成績保持者に変貌していた。学校もそれなりに行くようになるが、ボッチも継続してる。


だが、アキカンがいる。居場所はどこにだってあるんだ。あたしは隣で歩くアキカンをちらりと見た。


「アキカン……さ、さんきゅ。あたしのこ

と拾ってくれてさ」


「キミが俺を拾ったんじゃないか」


「う、うるせえよ!物理的にゃ、そうなんだが」


調子が狂う。せっかく感謝してやってんのに……。すると、アキカンが何を思ったのか立ち止まる。


「なにぃ!!」と廊下の角からでかい声が聞こえた。あたしは眉間にシワを寄せて覗かせた。


「何度言えばわかるんだね!!娘はカンニングされたんだ!!」


センコーが頭下げてやがる。


「ふむ……どうやらキミを悪者に仕立て、学園から追い出そうとしているようだ」


アキカンは腕を組んで、目をカッと開く。


「ぁあ……!?」


あたしはその保護者の前に出ようとした。しかし、それより早く、センコーが顔を上げた。


「彼女は断じてそのような下衆ではございません」


「なっ……貴様!私を誰だと思っている!」


「彼女はクズで、惨めな毛虫だ。だが、愚か者ではない。彼女の立場で、何人が希望を捨てるだろうか」


「馬鹿なことを……標的になる輩にも理由があるだろ!娘はいじめなどしていないがな」



「お前の娘は幾度と知能を働かせようとしなかった。

ついでに言おう。お前の娘は彼女を魔物に喰わせようと企んでいた犯罪者でもある阿呆で、学園一の愚者だ」


「クビだ!!クビにしてやる!!」


貴族は怒りを隠せず、顔を赤らめ、鬼の形相でセンコーに殴り掛かり去っていった。


センコーはゆたゆた起き上がって、あたしらに気づいた。アキカンが前に出ると、センコーは力なく口を開いた。


「キミは根っこはまるで変わらないな」


「ああ、やはり……彼女と一緒にいたのはお前だったか。俺を笑いにきたか?」


「ああ、笑いにきたとも。キミは俺のジュースだ」


「知り合いかよ……ジュースってなんだよ」


私が怪訝そうに言うと、冷酷なセンコーは口角を上げていた。



「センコーって……アキカンとどういう関係なんだよ」


中庭のベンチで、アキカンを真ん中に、あたしはアンパンを頬張る。


「お前と同じ様な者だ」


私はしばらく頭で考えた後、ぎょっとした。


「センコー、不登校っつーことかよ!」


「悪いか。 俺はお前より弱かった。アキカンを家から追い出し……教師になり、お前を同族嫌悪と愛情の矛盾で困らせた」


「そりゃ、いいんだ」


とアキカンが立ち上がった。良くねーよ、蹴飛ばすぞ。


「お前、今まで楽しかったか?」


「……そんなの、今の俺を見たらわかるだろう。道を間違えた」


「道を戻るか、センコー。あたし、学校辞めようと思う」


あたしがあっさり言った言葉に、センコーは目を丸くする。


「あたし、世界見たくなったよ。ギルドに入ろうと思うんだ。センコーも来るか?」


センコーは声高に笑い声を上げた。


「キミは本当に愚か者からかけ離れている」


「よく言った!それでこそ、キミ達は俺のプァアトナーだ!」


新しい道には、2人も居場所があるんだ。



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