6,成果
とうとう文化祭の日がやってきた。文化祭は3日間にわたって行われる。数日前、顧問が万屋部にも1つ教室を用意してくれ、映画を上映できる場所を獲得できた。珍しく顧問が動いてくれたことに俺たちは驚いたけど、何とかこれで始められそうだ。俺たちは映像の用意や教室を椅子を並べたりするなどの準備を始めた。
開会式とともに文化祭はスタートした。1日に放送できるのは映像時間や準備など合わせて、3回が限度。部員が少ないのも原因のひとつだ。3日の計9回の放送で人を集め、万屋部の存在をみんなに知らせなければならない。開会式を終え、万屋部は上映会場に集合した。
俺は部員に「ここで万屋部の意地を見せて、みんなにこの部活のことを知ってもらう。そして部員を集め、この万屋部を後輩に継ぎたい。この3日間、万屋部のほうが忙しくて文化祭を楽しめないかもしれない。ほんとごめん、悪いと思っている。」と伝え謝まった。
萩一は「僕も気持ちは一緒だし、そのぐらいの覚悟はできてる。まぁ特に周りたいところもないしね。」と笑いながら答えた。
アヤメも「私も石蕗くんと一緒です。」と答え、
菜々は「大丈夫だよ。協力して頑張ろ。」と笑顔を少し見せた。
そして、それぞれ各々の仕事についた。
待望の1回目の放送。上映時間になっても人は来なかった。
『いや1人も来ないんかい。』と俺は思ったけど、これは自分の中では想定内の展開だった。その理由は、借りられた教室は端っこにあるという点。隣のクラスの出し物が文化祭恒例のお化け屋敷という点だ。人は全部、隣の教室に吸い取られている。
俺は部員に「1回目の放送は中止にする。そこで、この放送時間を使って宣伝をしようと思う。」と伝えた。人を集めるには宣伝が1番早いと思ったからだ。
菜々が「分かった!じゃあ私、SNSでも宣伝しとくよ。後、友達とか吹奏楽部の子たちにも伝えてくる。」と言い、教室を抜け出した。
俺は2人に「俺と萩一は外でビラを配ろう。アヤメも一緒に配る?」と聞いた。「私はもし何かあった時のために教室に残ります。」とアヤメは答えた。
「分かった。教室は頼んだ。行ってくる。」と俺はアヤメに伝え、萩一と教室をあとにした。
宣伝の効果はすぐに出た。2回目の上映では教室の3分の1がうまり、3回目には教室の半分がうまったのだ。
そこから『布袋が万屋部の映画に出ているらしい。』との噂を広げることにも、成功した。
1日目に来てくれた人数はまずまずの結果だったが、噂という手段を使えたのはかなり、大きなことだった。この調子で2日目も乗り切ろうと思う。
2日目、1回目の上映前にも関わらず教室の前には行列ができていた。
俺は『布袋の影響力すごいな。』と思いながら受付の仕事に励んだ。
思った以上に評判がよく、4人で受付や呼びかけ、教室内での誘導など2、3回と上映を重ねるごとに、どんどん忙しくなってきた。それもあり、この日は万屋部から手を離せなかった。
そうして多忙な文化祭2日目が終了した。
菜々は「人たくさん来てくれたけど本当に疲れたよー。」と嘆いている。
俺は「今日は早く帰って休もう。」と皆を帰らそうとした。その時、布袋と連れの後輩、2人が教室内に入ってきた。
布袋は俺らの顔を見て「めっちゃ疲れてんじゃん。明日と明後日、俺ら暇な時間が多いし手伝うから他の出し物見てこいよ。俺に楽しめと言っといて、お前ら楽しめてないじゃん。」と言った。
その言葉は皆を少し元気にさせた。端から見ても明らかに菜々なんて疲れが吹っ飛んでいる。
菜々は「最後の文化祭、これで終わりかと思ってたから助かるよ〜。」と嬉しそうだ。
明日は交代で仕事を行うことにし、自由時間もそれぞれ割り振り、今日は解散することになった。俺は教室に残り、片付けをしていると布袋が俺に声をかけてきた。
「あと、もう1ついいか?こいつら後輩2人、万屋部の入部を希望しているんだけど、どうかな。菜々への詫びも込めて、ここで活動してみたいらしいんだ。」との内容だった。
俺は「もちろん。すごい嬉しい。」と彼らを喜んで受け入れ、そして入部届けを2枚を渡した。
「一応、もう1枚もらえるか?」と布袋は俺に聞いた。
「それってもしかして?」と俺が尋ねると、
「後輩が悪さしないように見張りたいのと、この部活の存続の手伝いをさせてくれ。あと仮を返す。」と布袋は答えた。
俺は「ほんとにありがとう。」と彼に言い、もう1枚入部届けを渡した。ここ数日の疲れが消え去るほど、それは喜ばしいことだった。そして俺は片付けを済ませ、布袋たちと帰宅した。
文化祭3日目も2日目と同様に目が回る程に忙しかったが、布袋たちの手伝いもあり、順調に文化祭を終えた。結構、学校内で上位を争うぐらいの人気だったらしい。確かに手応えは感じたし、部員全員が文化祭を全力で行えた。しかし、問題はこれからだ。部活を存続させるには、4人の部員が必要。布袋のおかげで2人は揃った。残り2人だ。
来てくれた人の中で「どういう部活か詳しく知りたい。」と興味を持ってくれる人は多かった。
しかし、詳しいことを教えると、「そうなんですね。」と言いみんな去っていく。多分、万屋部は映像みたいな探偵事務所的な感じだと期待させたのだろう。だが、このような依頼は滅多にない。映画の評判は上々だったが、入部希望者は獲得できなかった。
それから文化祭が終わって数日が経っても、万屋部に入りたい生徒は残念ながら現れることはなかった。
作戦失敗だ。
とある放課後、俺たちは会議室で新たな作戦会議を行っていた。文化祭での作戦は結果的には失敗となったが、皆には万屋部のことを知ってもらうことができた。まだチャンスはある。万屋部全員、諦めていなかった。今までの自分なら絶対に諦めていただろう。しかし、周りで支えてくれた、萩一、菜々、アヤメ、布袋、榎本先輩のおかげで今までの自分を変えることができた。
「万屋部存続のための案ある人?」と俺は皆に尋ねた。
菜々が「今月はこういう取り組みしました。ってみんなに伝える万屋部新聞を作るとか!」と答える。
「それありだな。」と萩一と布袋は納得している。
文化祭以降、賑やかに会議が進められている。
俺は『こんな日々がずっと続けば良いな。』と心から感じていた。
その後、俺たちは会議を重ね続け、努力した結果、入部させることができたのはたったの1人だけだった。時間は止まってくれないし、あっという間に時は経つ。そして遂に俺たちは卒業の時を迎えた。
残念ながら俺ら3年が卒業するまでに部活の必要人数は1人だけ揃わなかった。俺たちの代で集めることが出来なかったのは悔しいけど、あとは後輩を信じて託すことにした。
その後、後輩から連絡がきた。『無事に万屋部は存続できました。』と。
残せたのは実に奇跡だった。俺らの卒業後、特に布袋の連れの後輩2人が死にもの狂いで頑張ってくれたみたいだ。
俺は榎本先輩との約束を無事守れた。結構ギリギリだったけど。俺の中で万屋部で得た経験、歩んだ軌跡はかけがえのないものだった。だって俺の人生を変えてくれた部活だからだ。これからも、この部活を受け継いでほしい。そして皆にも俺のように人生を変える経験、出会いを得てほしい。
「人のため」と思って活動した万屋部は、実は何よりも「自分自身のため」の万屋部であったと心から感じている。
万屋部のきせき @tsuna-can
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます