5,成功への道

 文化祭の準備期間が始まった。俺たち万屋部も映像制作の準備に入る。この作戦には多少、運まかせな所もある。しかし、そんなのお構いなしに撮影を開始した。

 『とある夏休みの日、俺は学校に向かう。部活があるからだ。俺はとある部活の部長を務めている。

 学校に着き、靴を上履きに履き替えようとした時、靴箱の中に封筒があるのを見つける。「依頼。」俺はその封筒の表面に書かれた文字を呟いた。俺らの部活には、時々依頼がくる。その理由は万屋部だからだ。活動内容はみんなから届く依頼を解決すること。

 俺は依頼を持って、部活の活動拠点に向かう。

拠点に着くと、2人の部員が揃っていた。部員の萩一と菜々だ。

俺は「本日の依頼を発表する。」と言い、封筒にハサミを入れた。封筒を開けると、1枚の手紙と写真が出てきた。

俺は「文化祭を荒らすこの男を止めてほしい。と書いてある。」と手紙の内容を読んだ。

続けて萩一が写真を見ながら「この男、誰だ?」と問いかけた。

それに対し、菜々が「この人って……。」』

 こんな感じであの日の出来事をまとめ、撮影を行っていく。ここで前半の動画が完成した。問題はここからだ。これから賭けが上手くいくかどうかは俺たちしだいだ。

 俺と萩一は布袋とよく一緒にいる後輩の近くに行き、わざと聞こえるように話をした。

俺は「文化祭を荒らそうとしている、布袋葵いるじゃん?彼を万屋部で片付けようと思うんだよね。」と少しなめた感じで萩一に言う。

「いいじゃん。やってやろうよ。」と萩一は答えた。

それだけ言い、俺たちはその場を去った。

 その後、俺たちは陰から後輩を見ていると、後輩は少し苛立った態度で誰かに電話をしている。

「布袋さん。万屋部という部活の奴らが文化祭を荒らさせないようにと何か企んでいるみたいですよ。どうします?」

話を聞く感じ、電話の相手は布袋だ。遠回しに万屋部の動きを布袋に伝えることができたのは、作戦を行う上で大きなことだった。

 

 その日の放課後、次の作戦について話し合うために会議室にみんな、集合した。しかし、菜々の姿だけ見えない。30分たっても来ないし、連絡もない。

俺は「心配だな。ちょっと電話してみるか。」と菜々に電話をかけようとした時、逆に菜々から着信が入った。

俺は電話をとった。「菜々、何かあったのか?」

「ごめん。布袋くんに捕まっちゃった。急いで体育館の用具室に来て…。」と菜々の涙ぐんだ声が聞こえる。

俺は「分かった。急いで行く。」と菜々に伝えた。

萩一はあらかじめ借りた裏口の鍵をトスし、「後は、任せた。」と告げ俺と走って用具室に向かった。


 俺らは用具室に着き、扉を勢いよく開けた。そこには椅子に座っている菜々の姿とその横で立っている布袋の姿があった。

「遅かったな。万屋さん。」と布袋が待ちくたびれた表情で言ってきた。

「お前、菜々に何をした!?」と萩一が怒り混じりの声で布袋に問いかけた。

「慌てるなって。まだ何もしてないさ。捕まえて話を聞こうとしただけだよ。だけど何も話てくれなくてな…。」と布袋は答えた。

続けて「そうだお前、取引しようよ。お前らの企んでることをやめれくれれば、この女を無事に返してやるよ。でもやめなければ、こいつが怪我するかもな。」と布袋は笑みを浮かべながら話を持ちかけてきた。

「どうする部長?」萩一は少し焦りながら俺の顔を見て尋ねる。

俺は「……。分かった。やめるから、菜々を返してくれ。」と布袋に言った。

「言ってみるもんだね。いいよ。取引成立だ。ただし…怪しげな行動をしたら、その時はすぐに手を出すからな。」と布袋は俺たちのことを脅し、その場から去ろうとした。

その時だった。「はい…。カットです…。」と小声な声が聞こえた。

それを聞いた布袋は「おい、どういうことだよ。」と完全に戸惑っている。

俺は「悪いけど今の行動、全部撮らせてもらったよ。」と布袋に告げた。

「こんなに簡単に引っかかるとは…。君がいつもここを溜まり場にしているから、部員の菜々をこの辺で、うろつかせれば手を出して来るんじゃないかと思ったらまさかね。結果、菜々には怖い思いをさせちゃったけど…。」と萩一は菜々を励ましながら言った。

「でもここにカメラなんて仕掛けられてなかったぞ。」と布袋は焦りながら言う。

「もちろん。仕掛けてないよ。もう1人の部員が撮っててくれたから。こっそり裏の扉から入ってきてもらったの。」と菜々は鼻をすすりながら答えた。

「もう1人?部員は3人じゃないのか。」まだ布袋は状況を把握しきれてないようだ。

俺は「俺らの高校は部活を行うには4人の人数が必要。と言うか、万屋部は3人なんて一言も言ってないし。俺が部長になって最初からこの部活は4人だ。だよなアヤメ。」と言いアヤメを呼んだ。

「はい……。」と言いながら用具室の後方からカメラを持ちながら彼女は出てきた。

彼女の名前は『桜井さくらいアヤメ』。物静かな性格で人見知り。万屋部では書類のまとめなど事務的なこと行なってくれている。

俺は「布袋、この動画を先生に報告させたくなければ、俺らの願いを聞いて欲しい。」と布袋に言った。

「ちっ。なんだ願いって。」布袋はあきれた様子で俺らに尋ねる。

それに対して萩一は「願いは2つ。1つ目に文化祭を荒らさないこと。2つ目はこの動画を使わさせて欲しい。」と布袋に頼んだ。

「1つ目はまぁ…分かった。だが2つ目の意味がよく分からないんだけど。」と布袋は怒り口調で言った。

それを菜々がフォローするように「違うの。私たちの部活は廃部寸前で、この文化祭で人を集めるしかなかった。だから実際の依頼を利用して、リアルな映画を作ろうと撮影をしてたわけなの。布袋くんがこの映画に関われば、評判になるかなって…。」と説明した。

俺は「この動画は単体だと問題だがこの映画の中に入れればただの演出になる。そして、学園祭荒らしから実は文化祭に協力的だったとみんなからの印象も変わる。悪くないでしょ?」と布袋に聞く。

すると布袋は「別に印象変わることなんて、望んでないし。周りとも関わりたくない。特に女子なんて嫌いだ。しかもこんな不良と関わりたいやつなんているわけないだろ。」と呆れ口調で呟いた。

萩一は依頼を布袋に渡した。「君がなんでそこまで嫌いなのかはよく分からない。君の過去に何があったのかも知らない。だけど、この実際にきた依頼、最初見た時は気付かなかったけど、よく見ると消しゴムで消した跡があるんだ。その消し跡を鉛筆で擦ってみたら、そこには『布袋くんと仲良くなりたい。』と書いてあった。布袋と友達になりたい人はいるんだよ。だから1回、過去を忘れてみんなと絡んでみなよ。」と提案した。

その依頼を見て布袋は驚いている。

「この学校いい人ばっかりだから大丈夫。」と菜々が伝え、

続けてアヤメが「布袋くんならいけます…。」と言った。

俺はそれに加えて「今年は最後の文化祭なんだ。楽しまないと後悔するよ。」とみんなで布袋を励ました。

布袋は「うるせぇ…。分かった。色々すまなかった…。」と俺らに告げ去っていった。

 なんだかんだで俺の作戦は成功した。過去に経験したことをねじ込んだ作戦だった。写真の取り引きも榎本さんに助けられた時の出来事を参考にした。あの作戦を今度は俺が利用することになるとは、当時の自分には想像もできていないだろう。しかし、この作戦を行う上で思ったことがある。多分、布袋は今年の文化祭は荒らすつもりはなかった。彼は去年の文化祭以来、悪さを一度もしていない。菜々曰く、実際に菜々を捕まえたのは後輩だったみたいだし。最初は椅子に縛られて後輩に脅されていたけど後から布袋がきて後輩を追い出し、紐をほどいてくれたみたいだ。布袋は退学を恐れていたのだろう。それを何となく俺は分かっていて、取り引きという作戦を使ってしまった。もっと良い作戦があったのでは感じることもある。彼も不良という周りからのレッテルに縛られていたかもしれない。素直に話し合えば解決していた可能性だってある。だけど、それでも悩んでいる暇はない。俺はその気持ちを今は押し殺して、文化祭にむけての映画撮影を続けた。俺たちの作戦はまだ終わっていないのだ。

 

 それから映画の後半の撮影も撮り終え、文化祭一週間前をむかえた。俺らは会議室にいた。普段通りに依頼を片付けるためである。

「アヤメ、いい感じに映画の編集できてる?」俺は尋ねた。アヤメはオールマイティにたくさんの事をこなせ、いつも色々助けられている。そして彼女が今回の脚本、編集を行ってくれている。

「順調です…。」アヤメは小声で答えた。

すると、「ねぇあれ見てよ。」菜々が窓から顔を出し外を指さした。

みんなで菜々が指さす方向を見てみると、外で男子や女子と話をしている布袋の姿があった。

その姿を見て俺はほっとした。

萩一が「良かった。心開いてくれて。仲良くしてるじゃん。」と言い喜んでいるように見える。

「楽しそうですね。」とアヤメも嬉しそうにしている。

「そうだね。俺たちも文化祭までの残りの一週間、廃部にならないように頑張るぞ!」と俺はみんなに声をかけた。

みんなは「おー!」と答え、それぞれの仕事に戻った。





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