エンディング
エピローグ:出来損ないヒーローと妹達の原点から始める家族物語
事件が終わり一週間が経過した。
俺はあの後。全ての元凶である悪の組織サードアイ日本支部を瞬く間に壊滅させた。
その出来事について、どこから嗅ぎつけたのだろうか、大同スポーツ新聞が今日のスクープとして取り上げていた。
『謎の未確認生命体(UMA)が一騎当千で悪の組織を壊滅に導く! 正体は何者!?(二面)』
どうやら俺は宇宙人として向こう側の人間に認知されているらしい。んな阿呆か。
とりあえず会計を済ませよう。続きは家に帰ってからだ。
「一六〇円お預かりしヤッス。あざっさっさぁ!」
――ピロンピロン――ピロンピロン。
俺はレジで会計を済ませ、そのまま店を出て帰路への道を歩いていく。
「チーッス! 元気にしてたかお前」
「げぇっ!? なっ、なんでお前がここにいるんだよ!? そっ、それにあさぎりも……」
コンビニからオンボロアパートに帰ってくるなり、敷地の前でゆうだちとあさぎりに出会ってしまった。なんで知っているのかと思ったらあさぎりがここに訪れた事があった事を思い出す。今後、家族を守る為にセキュリティーを強化しないといけないな……。
彼女たちは二人揃って紺色の清楚な制服姿をしている。大人びた容姿をしているので違和感しか感じられない。だが彼女達は来週から夜間の高校生なのでコスプレじゃない。
「あらぁ、それはね……うふふ」
含みのある意味深な笑みを浮かべ、あさぎりが嗜虐的な眼差しで俺を見るなり、
「今日からここにふたりで住むことになったの」
と話してきた、でっ、思わず。
「なんかヤバい奴しか住んでないアパートになりそうだ……」
そう皮肉を込めてジョークで言い返してやった。
「あぁん? なにが不満なんだよ?」
俺のジョークに対してゆうだちがムッとしてきたので。
「いやっ、別に何でも無いさ。いつもの事だからつい口を滑らしただけさ」
面倒だ。とりあえず肩を落としてため息をついておこう。早くふゆづきと一緒に部屋にこもって家族の時間を過ごしたい。
「なぁっ!?」
ゆうだちが目をまん丸に見開いて愕然としてきた。別にそんなに驚かなくてもな。
「あぁ、お兄ちゃん! おかえりぃ! わっふぅん!」
こっちの騒ぎに気づいたのだろう。いや、あいつの場合は嗅覚か。
ふゆづきが二階の渡り廊下から身を少し乗りだして俺に手を振ってきている。
俺はニヤけた表情で手を振り返した。すると。
「お前……なんか危ない臭いがプンプンするぜ!? 俺様の女の勘がそう敏感に伝えてきているんだけどっ!? まさかお前シスコ――」
「――ふっ、何とでもいいやがれ」
ゆうだちがドン引きしているのもお構いなしに、俺はどや顔で言葉を返してやった。
妹が可愛いのにニヤけるなだなんて無理ゲーなんだよ。ふゆづきはマジ天使だ。最高。異論は俺が許さん。
「お帰りなさいお兄様! あら、お客様ですか?」
ふゆづきの後に現れたのはもう一人の妹のあきづきだ。ふゆづきの背後から顔を覗かせている。今日の彼女が着ている冬用のワンピースは俺がバイトで稼いでプレゼントしたものだ。ふゆづきがダダ捏ねたのは本当に不味かった。
「あいつらの可愛さは見て飽きないものだ。うん」
こんな毎日が続くと思うと、昔の自分に言い聞かせやりたいな。
――こんな俺でも諦めずに生きていけばこうやって幸せを掴む事ができる。
もし、俺が生きるのを諦めてこの世を去っていたとしたらどうだ?
まず、思いつくのがサードアイ。日本の組織は壊滅させたが、海外にいる同じ組織は世界中の国々を裏で操り支配している。
ネット情報では年々その会員数を増やし続けているという噂もある。
俺が居なければ、サードアイは妹達を死ぬまで使い捨ての道具として扱っていただろう。
親父も弱みを握り続けられたまま研究をつづけさせられていたに違いない。
そして後ろで並んで立つあさぎりやゆうだち達も同じような運命を辿っていたに違いない。
だが、現実は違う。いまこうしてこの場にいる全員が楽しく今日を生きている。
俺は大切な何か。つまり家族や誰かを守る為に今日までを生きてきたのかもしれない。
俺は今まで世界でたったひとりだけの孤独な改造人間だと思っていた。
だがそうじゃなかった。俺には妹達がいてこうして家族になっている。ゆうだちとあさぎりは同じ改造人間同士の仲間だ。あと初めての女友達だったりもする。
ふとそう思い馳せて気がつくと、あきづきとふゆづき俺を間にして並んで側に立っていた。
それとあきづきとふゆづきも目の前に並んで立っている。
「お兄様。この人達は……」
「よっ、覚えているか嬢ちゃん! 俺様だよ俺様!」
俺はこの直後から剣呑な空気が漂うのを不覚にも予期してしまった。そうだ二人は……。
「…………」
「あのときは悪かったな。ああしないといけないと思っていたから許してくれ」
「…………」
「あきづきお姉ちゃん……」
あきづきは顔を俯かせて何か思うところがあるのだろう。しばし沈黙を貫いていた。
「その……なんていうかな……。実は自分が今までしてきた事。あまり覚えてないんだ……」
「どういうことだ?」
「医者が言うにはさ。何らかの理由で後遺症が乗ってしまい。一時的に脳が記憶喪失の状態にあるんだとさ……」
恐らく、あの時の戦いが大きく影響しているのだろう。
「そ……そうなのか……」
俺のビギニングの力が悪い意味で彼女の事を傷つけしまったようだ。
「すまん。あの時ああしなければお前は助からなかったんだ……」
「いいさ。大体の事はあさぎり姉さんから聞いたよ。その、ごめん」
ゆうだちが気まずそうに頭を下げてきた。すると。
「ゆうだちさん。顔を上げてください」
彼女のその姿を目の当りにして、
「別に覚えていないのならいいんです。私もあなたと似たもの同士なので」
あきづきがそう言葉を返す形で彼女の今までの行ないを許した。
そういえばこいつも親父のせいで記憶を一部だけ無くしているしな。お互いに水に流そうというわけか。さらに。
「それに今日からゆうだちさんとあさぎりさんは私たちと同じ改造人間とホムンクスルで構成される家族の一員です。そう、今日からお二人は家族の一員なのです。だから家族のした行ないはどうであっても全て許すのが家族としての掟なのです。ようこそ、ボロボロのアパートだけど歓迎します! 新しい私たちの二人のお姉様!」
「えっ……?」
「……家族。そうか……家族か……なぁ、姉さん! 今日から新しい家族の一員だって!」
「ふふっ、いいわね。それって素敵な事だわ。うふふっ、今日からよろしくね兄様」
語尾にハートマークのついた口調であさぎりが俺をからかってきた。
俺は動揺のあまりに、
「嘘だぁ!?」
と叫んでしまった。
さらに。
「わぁあいっ! お姉ちゃんが二人できたぁ! 今日からお姉ちゃん達も私たちの家族なんだね! やったぁ!」
俺はその場のノリで勢いよく頭からヘッドスライディングをしてしまった。ワザとじゃない。マジだ。
「なんでそうなるんだよふゆづき!? ナンデェッ!?」
「ハハハハッ! みろよ姉さん! あいつ変なずっこけ方してるぜ! ぎゃはははははっ!! 関西人ならもっと迫真の籠もったずっこけ方しろってなっ!」
「あらあら、大丈夫ですか兄様ぁ。そんなに汚したら直ぐにお風呂に行かないといけませんわよぉ。関西人なのになんで下手なんでしょうかぁ?」
あっ、ちょっと胃がキリキリしてきたかも……。
「ワフッ!? さっそくお兄ちゃんの貞操がピンチの予感ッ!?」
「もっ……もぅふゆづきっ! だめよ! 変態さんになっちゃうわよ! ……そのお兄様。あとでお洋服を着替えさせてあげますね……」
ふっ、喜んでそのお着替えを受けることにしようじゃないかマイシスターあきづき。
「あっ……あぁ……」
とりあえず今はこの修羅場をくぐり抜けることにしよう。
俺の人生が急にラノベみたいな展開になり始めたな。
まぁ、どう俺の人生が多難や修羅場になろうが。妹達が笑顔でいられるならば。俺はこの人生を受け入れる事にしよう。
俺の人生の道は誰にも止めることは出来ない。俺の正義は家族とともにある。
そう強い決意を胸に抱きながら、彼女たちに囲まれ、俺の新たな物語のベクトルがビギニングから始まろうとしていたのだった。
――出来損ないヒーローのおおかみ少女と始める妹物語~VECTOR~ End
出来損ないヒーローのおおかみ少女と始める妹物語 天音碧 @amane_mitinonn
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