夏だ!水着だ!今年ならではの悩殺だ!
田戸崎 エミリオ
夏だ!水着だ!今年ならではの悩殺だ!
最悪だ……
「うがぁーーーーーーー!!!
ウィルスめぇーーーーーー!!!!」
本気で頭に来ている。
まさかこんな形で、私に弊害が起きようとは。
2020年春、大陸で発生したウィルスにより世界中が大混乱。
学校は休校、バイト先は自粛。
社会全体が麻痺し、お偉いさんやお医者さん達は大忙しだ。
しかし、ただの女子校生に過ぎない私に出来ることなんてそう多くはなく。
マスク着用とソーシャルディスタンス維持が日常になった。
幸い、私の周りではウィルスの被害を受けた人はいない。
友達はみんなSNSで自撮り写真を公開してるし、家族もみんな家にいることがほとんど。
どうせ休校だ自粛だ何だと言ってるのだから、家でゆっくりしてやろう、のんびり過ごそう、そのくらいの感覚でいた。
自粛要請が解けた今はたまに買い物に外出してるけど、お店のみんながマスクをつけてるからまぁ安心だ。
とはいえ、連日テレビで感染者数が報道されてるし、海外では暴動だなんだに発展してるみたいだし、まだまだウィルスの脅威は去っていない。
不要不急の外出は控えるように今でも言われてるし、私だってわざわざウィルスにかかるような真似はしたくない。
だから、こうなることは自明だったはずなのだ……
『海デートは、諦めよう』
唐突に、チャットアプリから飛んできた一言に、私は凍り付いた。
あれ、今は冬だっけ。
いやいや夏だよ!!
日差しが気持ちいい夏ですよ!!
チャットの送り主は、私の恋人でもある同級生だ。
今年のバレンタインデーに、自分の微かな勇気を総動員して告白した結果OKをもらい、今もお付き合いさせてもらっている。
自粛期間中、なかなか彼に会えないことに鬱憤がたまっていた私は、もうちょっと大胆な進展が無いかと思い、夏の海デートを企画したのだ。
受験生の私達は、夏休み期間中はお互い忙しいだろうが、たまには息抜きしたい!
無事に自粛期間が解けたら、海へ行こう!
そう思っていた。
ところが、思ったよりも今回のウィルスはしつこい。
大流行した春から数ヶ月、いまだに収束の気配はない。
うぐぐ、インフルエンザみたいに季節が変われば消えるなんてことはなかったか。
受験生である私達は大事な身体だ。
わざわざ人が多くなるであろう海へ行くのは自粛したい。
そう言うのだ。
それは分かる、しょうがない。
私だって、デートに浮かれてウィルス掛かりましたなんてなったら、きっと死ぬ。
世間的にも、心情的にも。
しかし、私の中で諦めきれないものもある。
海は逃げない。彼も生きてる。
この関係を来年まで維持できれば、海デートのチャンスはまだあるかもしれない。
しかし、私達は受験生。
今年が終わったらもう高校生ではなくなる。
『高校生としての青春の1ページとしてのデート』は、今年しかもうチャンスが無いのだ。
学生らしくキャッキャウフフしたかったのだ!
初めての彼氏なんだから、お互い高校生のうちに特別な思い出を作りたかったのだ!!
うぉぉぉ!!!
華の女子校生の1年を、思い出の1ページをなんだと思ってるのか!!
それをウィルスごときに潰されるとか!!
おのれウィルス、おのれ大陸!!
乙女の心に一生モノの傷を負ったぞゴルァ!!!!!
せっかくネット通販で水着を吟味したのに!!!!!!
…………はぁ。
自分の後先考えないプランニング能力の低さに嫌気が…………
……マテヨ。
むしろこの状況をどうにか活かせないだろうか。
「じゃーーーん!!」
「お、おぉ……」
今日はライブチャットを使って彼と通話する。
お互いパソコンに設置したウェブカメラを使って、お喋りするのだ。
最近は日常になりつつあったが、今日の私はとっておきの格好をしている。
ズバリ水着だ。
海デート計画がアウトなら、海チャット計画に変更だ!
ネット通販で買った水着を部屋の中で着て、彼に見せることにしたのだ。
ライブチャットの背景変更機能で、ビーチの画像を裏に載せてるから雰囲気もバッチリですわよ。
「似合ってるな。可愛いよ」
「えへへ、ありがとー!」
「なんか、一人占めって感じで、いいなこれ……」
赤くなってるー、可愛いなちくしょう~!
うふふ、確かに今の私の姿は彼だけにしか見せてないんだからね。
「てか大胆だな、その水着……」
「あはは……ちょっと頑張っちゃった」
今年の私は、今まで着たこともないようなビキニに挑戦した。
布面積が狭め、少しキツめにしてる。
ちょっとエロいことするネット配信者みたいで気恥ずかしさを覚えるけど、水着ってそういうもんだし!
彼氏一人だけなんだ、海で色んな人に見られるよりいいかもしれない!
社会が変われば仕事も変わる、そしてデートも変わる!
これぞデートの新提案!!
「今度はキミの水着も見たいなー!」
「俺の水着にそんな需要ねーだろ」
そうかな?
私は見たいよ、キミの水着。
あ、でもライブチャットだとほぼ上半身しか映らないから、ほぼ裸になっちゃうのか。
……それはそれで、アリ?
「……ところで、よ。大丈夫なのか?」
「何が?」
「いやその……これ指摘していいか分かんないんだけどよ」
「?」
「……その水着、サイズあってるか?」
「へ?」
「なんか、きつそうに見えるんだが、気のせいか?」
そういえば、なんとなーく息苦しいような。
おかしいな、買った時はサイズは確かにあってたはずだけど。
しかし、ちょっとお肉がはみ出し気味な気が……
「ハッΣ(゚□゚;)」
まさか、自粛太り!!?
こんな短期間で!!?
おぅあああああ!!!!
ただでさえ肌色マシマシなのに、それが大きくなってることに気付かなかったなんて!
しかもそれを彼に指摘されるとか!!!
浮かれた頭で気付いてなかったとか!!!
思わず、勢いよく立ち上がってしまった。
それがまずかったか。
ぷち。
「あ……」
「う……」
嫌な音がした。
何かが破けた音、布がはだける感触。
マジデスカ、コンナコトオコルンデスカ。
「うぎゃあああああああああああ!!!!」
おのれウィルス!!
おのれ大陸!!!
乙女の心に一生モノの傷を負ったからなゴルァ!!!!!
夏だ!水着だ!今年ならではの悩殺だ! 田戸崎 エミリオ @emilioFL
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