最終巻「死と生と、嘘と真と、闇と光と、汝と我。そして………」

 ここは、

 無人ゆえに誰にも読まれることのない資料が溢れているところです。

 長い間、誰にも読まれることがなかったため、自らに書かれた内容すらとっくに忘れてしまった資料たちがここにいます。

 おや?

 どうやら、誰もいないはずの無人資料館に誰か迷い混んだようですね?

 あの人はどんな資料を手にして、そこにはどんな内容が書かれているのか、観察してみましょう。




せいについて書かれた資料】

 死と生とは、コインの裏と表である。

 コインの裏と表は別のものと思われているが実際は同じもの。

 即ち、コインの表は裏であり、コインの裏は表なのである。

 Heads or tails?

 Heads!Heads!Heads!Heads!

 人々は皆、表である生を求めるが、それは即ち裏である。

 この事実に気がついた時、人々はマキシマムし、初めて死と生を感じることが出来る。

 死と生とは、コインの裏と表である。




いつわりしんじつについて書かれた資料】

 嘘と真とは、テーブルに置かれたコインの裏側である。

 テーブルに置かれた一枚のコイン。

 見えている面は表か裏か…それは問題ではない。

 人々は見えていない面を裏と呼ぶ。

 例え、見えている面が裏であり、隠れている裏側が表だったとしても「裏返して」と人々は云う。

 嘘と真とはそういうことなのである。

 この事実に気がついた時、人々はマキシマムし、初めて嘘と真を見極めることが出来る。

 嘘と真とは、テーブルに置かれたコインの裏側である。




やみひかりについて書かれた資料】

 闇と光とは、空中を舞うコインのことである。

 空中を舞うコイン、そこには裏も表もなく、表も裏もある。

 つまり、空中を舞うコインには全てが存在すると同時に全てが存在していない。

 闇のみが存在するならば、闇はない。

 光のみが存在するならば、光はない。

 全てが存在していないならば、全てが存在している。

 全てが存在しているのならば、全てが存在していない。

 この事実に気がついた時、人々はマキシマムし、初めて闇と光を認識し、全と無について考えることが出来る。

 闇と光とは、空中を舞うコインのことである。




あなたわたしについて書かれた資料】

 汝と我とは、コインである。

 コインには様々な種類があり、裏と表を与えられているデザインのもの、上下を与えられているデザインのもの、上下も表裏も与えることなく一定のデザインのもの、側面に装飾がされているもの、コインそのものに意味を与えられているもの、大小問わず様々なコインが存在している。

 しかし、コインは何れもコインであり、本来ならば同一なのである。

 この事実に気がついた時、人々はマキシマムし、初めて汝と我の同一性や平等について意識することが出来る。

 汝と我とは、コインである。




無人資料館このばしょについて書かれた資料】

 無人資料館とは、人々の心の中にある。

 人がひとりがいればひとつの資料かんがえがあり、ふたりいればふたつの資料かんがえがある。

 資料かんがえ一人々々それぞれが持つべきものであり、誰かに与えられるものではない。

 そして、誰かに資料かんがえを押し付けることだけはあってはならない。

 何が正しいか、何が悪いか、それは本来ならばどこにも存在せず、一人々々それぞれがひとりの人として判断し、自らに問うものである。

 この事実に気がついた時、人々は初めてマキシマムに頼ることなく、人になることが出来る。

 人よ、人であれ。

 無人資料館とは、人の心の中にある。




「私は……人なの?……それとも……わからない……わからないけど私は人でありたい!人であることをやめない!」




 おや?

 あの女性は何か大切なことに気がついたみたいですね。

 あの女性の様に人であろうとする人が増えるといいのですが…

 どうでしょうか?

 人とは、自らの幸福ために他人を不幸にするものでしょうか?

 人とは、自らが幸福ならば他人を省みないものなのでしょうか?

 他人の不幸を笑い者にし、他人の不幸を他人事として見て見ぬふりし、自らは他人よりも少しでも幸せになりたいと願う。

 そんな自分勝手な存在は本当に人と呼べるのでしょうか?

 人とは、もっと誇らしいものであると信じたくありませんか?

 あなたは、自らを人であると誇りをもって宣言できますか?

 私?

 私はので資料かんがえを持っていません。

 久しぶりに人のお客さんが来て、私も存在することが出来ましたが、そろそろお別れの時が来ました。

 しかし、私はいつでも人と共に存在し、人と共に消えていく存在です。

 私はどこにでも存在し、どこにも存在しないもの。

 私はいつでもあなたが人として誇れる人であらんことを願っています。


 では、またいつかお会いしましょう。

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どーせ、誰も読んでくれない。 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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