ランズ・エンドの約束
【本編情報】
『ランズ・エンドの約束』
――きみを、ずっと側で支えよう。約束したのだから。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922821187
草食信仰森小説賞参加作品。
現代ドラマ
9,998文字
* * * * * *
新規書き下ろし、テーマ『信仰』、3000~10000字、完結済、というレギュレーションで2020年9月10日~2020年10月10日に開催された自主企画『草食信仰森小説賞』のために書いた作品です。
(自主企画ページ: https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054921677831 )
信仰ってむずかしくないですか?
てかもはや、信仰ってなに……?
日常行動としてはそんなに信心深くない系の生き物なので、私自身の持つ信仰という方面を掘り下げるのは難しく、外部に求めるしかなかった感じです。
たぶんお猫さま原理主義のお猫さま信仰、猫と和解せよ、猫の国は近い、悔い改めよ、みたいな話を書いてもよかったんだと思うんですけど、信仰ネタは思い付いても肝心の物語がついてこなくて、いやーどうしようかなーって書き始めたら2日くらいで書けたので割と奇跡でした。
信じれば叶った! みたいな話や、救われて死んだりするだけの話は私の筆力では単なるペラい感じになってしまいそうだからよそう、何かしら自分的に新しいことをしよう、とは最初から決めていて、結果としては信仰を植え、それによって良くなる未来を夢みる、まだ完全には報われていない人たちのお話になりました。
信じて祈っても神は救ってくれるとは限りません。現世利益や因果のねじ曲げを得ることははやはり難しい――恐らくそうしたものを奇跡と呼び、奇跡と呼ばれる理由は滅多に起こらないからです。神は、世俗的な意味では、救わない。
自ら救う者を見ていてくださる、その眼差し、寄り添いが神の愛であり、だから信じるとき神はつねにあなたの側におられる、という感じなのですかね。
それゆえ、ハント神父はデリラを完全に害から守れるわけではありません。デリラは傷つけられ、無実の罪も着せられます。そこから何を為し得るか、という一点にアルバート・ハントの、そしてやがてはデリラの、そして彼らをめぐるランズ・エンド村の人々の信仰が注がれ、各々の振る舞いが変化していく。きっとそうできる、とハントは信じていて、なぜならそれは他者の心根を信じているからで、それこそが彼の信仰の一端であろう。そう思って書きました。
ハント自身も現世利益的な意味で救われてはいません。アーネストもです。ハントは喪い、アーネストは命を落とした。でも、そこから何を為し得るか。
誰も皆、『それでもなお』の物語を生きているのであろうと思います。
さて、様々なアイテムやら名前の話。
トレンチコートに榴弾砲とある通り、概ね第一次世界大戦後っぽい感じを想定して書いたお話です。あと極めて何となくのイギリスです。
トレンチコート、塹壕戦の防寒着に使われ戦後は『戦死した恋人の遺品』となったこともあるもの――という話をどこかで聞いたことがあったので今回出してみました。
列車だの村の様子だのといったあたりは海外ドラマの『ダウントン・アビー』とか『ミス・マープル』『ブラウン神父』などでフワッと仕込んだ感じです。あと神父さんの様子や従軍神父の経歴はかなり『ブラウン神父』ドラマ版に負っていますね。BBCいつもありがとう。スポットで受信料を払いたい。
ランズ・エンドという地名は昔家族が毎年買ってた安野光雅のスケッチカレンダーで知りました。地の涯て、という地名は印象的でした。ただ今回、実在のランズ・エンドについては調べていません。実在のランズ・エンドはコーンウォール州にある岬の名前ですが、本作中のランズ・エンドは村名で鉄道が通過します。かつて地の涯だったけど今はどこかへの通過点になってる感じですね。別物と考えていただいて良いと思います。でも海はあるよ。
あとデリラの名前の話。
イギリスでこの名前だと発音は『デライラ』に近くなる(一つめのラにアクセント)ので本当はそうした方がいいのかもしれないです。最初はこの物語のタイトルを『サムソンとデリラ』にしようかなと思っていて、最終的に何か壊す話の予定だったんですけど、書いてるうちに全然別の話になってサムソンの名は使わないことにしたという経緯があり、デリラだけデリラのまま残りました。
大好きなのですぐBBCマープルの話をしてもいいですか? いいよ! OK、BBCマープルにはデライラというお名前の猫ちゃんが登場したことがあります。いたずら猫で、ランプのコードに水をこぼしショートさせたんです。その時のマープルおばさまの台詞(字幕)が、
「その猫を叱らないで
でした。かわいいデライラたその行動が謎解きのヒントになったのですね、猫は最高!
今回は、汽車に乗ってから降りるまでのお話になっています。ほぼ汽車の中、それもひとつのコンパートメントにいる舞台設定でした。
いる場所がずっと同じ、大道具がずっと同じ、というちょっと舞台的なつくりも今回やってみたかったポイントです。
一見ずっと同じ場所なのですが、汽車ですから本当はどんどん移動している。窓の外の描写で変化がつけられるのは面白かったです。発車し、雨が降り、雨の中を走り抜けて、雨が止んだ場所に辿り着き、下車する。虹。虹はちょっとやり過ぎだったかもしれませんが。
傷を抱えた者同士の帰郷の物語でした。
ふたりが親友でいられるといいな、と思って原稿から手を離しました。
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