異世界転生者にして職業 奴隷、夢はダンジョン攻略者、よろしくな!~孤児スタートのはずがいきなり奴隷になりました

せんたっきじゃねえ、せんたくきだ!

異世界との馴れ初め ポッ ~前編~

気がついたら見知らぬ外人の男女に向かってよちよちあるきをしていた。


わかる、何を言ってるんだ?なんて俺自身が1番思っているから。


でも本当に気がついたらよちよちあるきで見知らぬ外人(おそらく夫婦)にむかっていたんだ。



「むぅー?」



立ち止まって思い返してみると薄ぼんやりとだが思い出せる。


その夫婦は大好きな俺の父ちゃんと母ちゃんで、最近は意地悪して近くに来てくれないから自分から近づいたんだ。


やれやれ、ほんとに困った父ちゃんと母ちゃんだぜ。


いっちょ、俺様の健脚を披露してやるか!!



「あうっあうっあうっあうっあうっ!」


ドテドテドテドテドテ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



やあ!


久しぶりだなお前ら、俺だ。


賢明なお前らならもうわかってるとは思うがどうやら俺には前回の人生の記憶が残っているらしい。


ここで前生って言わないのは、俺の人生の記憶が無いからだ。


俺がどういう考え方で、どんな人間に囲まれながら、どんなことをしていたのか、全然思い出せねえ。


でもそんなに記憶も少しずつ思い出していくみたいで、最初に思い出したときからまた幾つか思い出したんだ。


でもその思い出すタイミングがいつも遅いんだよ。


うまく伝わるかわからねえけど、ゲームのスキルみたいに出来るようになったら、スキル名がステータスに表示されるみたいな感じでそれに関連する記憶が思い出せるんだ。


たぶん最初に意識を得たあの時に俺は初めて考えることをしたんだと思う。


それで前生での思考力を手にいれたんだと思う。


おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。


俺の名前はグルー・ビー!


異世界転生者にしてピッチピチの12歳、職業奴隷!よろしくだってばよ!



「よろしくだってばよじゃねえええええええ!!!なんで?なんでこうなったんだぁぁぁ!!」



ドカアン!


「うるせぇ!だあってろ!!」



「あっ、はい、すいませんでした…。」



あの外人は両親ではなかった。


俺のはやとちりで、あの2人は冒険者見習いの仕事でよく孤児院の手伝いに来ていただけだった。


……そうあの時はまだほとんどなにも思い出してなかったから勘違いすることはあるよね!だってあの時まだ2歳だったからね!あはは…。


うっうん、異世界と言えばそう、ダンジョンを探索することを仕事にする冒険者なる職業があって、その見習いはダンジョンを囲むようにあるダンジョン衛星都市(衛星都市)の雑用をしながら初期資金をためたり顔を広げたりしながら浅瀬に潜り経験を深めていくそうだ。


2人もそうで、当時はまだ衛星都市に来て日が浅かったため、うちの孤児院に武器防具を販売している店の装備品の手入れや、衛星都市に大量に搬入される物資の運搬など色々やっていたようだ。


それでそんな衛星都市で第2の人生をスタートさせた俺がダンジョンを探索し1発逆転を狙うのは当然のなり行きだったんだが、


来るもの拒まずの衛星都市に孤児なんて境遇は掃いて捨てるほどあることで、


10歳になると同時に最低限1人で生きていけるからと孤児院からは追い出されーの、なんとか生きてきてから~のさらわれーので


首にいかつい鉄の首輪をつけて1週間くらいどなどな今に至るわけだが…。


今はどこぞやの街の奴隷商店で売られてるっちゅうわけなんやが、どないしたらええんや工藤……。



「はぁ、まだ下があったんだな。でも奴隷スタート物もあるしまだ大丈夫だ、大丈夫なはずだ。」




もうそろそろみんな忘れてる頃だからもう一度名乗っとくわ。


俺様の名前はグルー・ビー!


異世界転生者にして、おそらく最速で人権の最下層へ転落した男だ!


この世界には奴隷という身分があり、最近の異世界物じゃあ見ない【奴隷は物】っていう人権無視のやべー価値観の世界だ。


だが奴隷の子も奴隷って訳じゃないみたいだ。


だから生まれたときから奴隷であるなんて事はない。


なにより奴隷は高い。


物とは言え人間を管理し運び売り付けるのは簡単なことではなく、購入して貰うために売り主もよそに比べてより良くなるようにする。


なにより買ってしまえばどうとでもできる都合の良い人間は需要がある。


俺も金持ちだったら都合の言い奴隷ハーレムを12歳にして作り上げたいぐふふふ。


だから奴隷は最安値であっても数百万円程で売られている。


俺も今では孤児院の頃よりいっぱい残飯が食えて欠食児童卒業したし、客前に出される前に水風呂だが身体も洗える。


服は俺は男なのに水ー例えば汗ーで透ける薄い白いワンピースを着せられてるが、肌触りはなかなか良い。


例えるならシルクに近いからたぶん良いやつだと思う。


なんでそんな格好かって?


まあわかるだろうが俺はケツを売りにした奴隷だそうだ。



「なぁ、この国の男のアレって小さいのか?俺は元々小柄な方だし絶対入らねえよ。ってか誰が最初にケツの※をぶちこもうとか考えたんだ?とんだバカがいたもんだと思わねえか?」



「知らねえよ。まあ俺のはこの国で1番でかいがな。」



「包茎なのにwwwwww」



「包茎ちゃうわ!おまえのポークピッツこそ被ってんだろうが。」



「はーあ、子供に張り合うおっさんって見苦しいな。こんな大人にはなりたくねえな。」



「くっ…そがきぃ、俺はおっさんなんて歳じゃねえ!」



奴隷自体はそう言うもんだとして、別に街の外れでとか地下で売られている訳じゃない。


大きめの街では日本のペットショップみたいにわりとポピュラーに一軒くらいは店を構えてるそうな。


で、このおっさんはその奴隷売場の見張り兼お客様対応兼用心棒だ。


俺がどなどなされてる時、熱い心のパトスを解き放ったときに檻に蹴りをいれてウホウホ言ってたのもこのおっさんだ。


「お兄さんな!!ウホウホ何て言うか!!」


あの時はこんな汗臭いし顔が怖いおっさんにびびってしまったが、ある一定のラインを越えなければ特になにもされないことがわかってからはこの態度である。


「汗臭くないわ!」


それにこのおっさんも別にやべえ奴って訳じゃなくて、人間を辞めたような腕っぷしと顔のいかつさと汗臭さを除けばアルバイト店員みたいなもんだ。


「アルバイト?……えっ、そんなに汗臭い?自分だからわからん。なあ、そんなに匂うのか?お、教えてくれえ!!」


だからそれでもどうせ直ぐに売られてもう顔を合わすこともないだろうってずけずけ話しかけていたんだが……。



「人の心の声に反応するなよ、キモいぞおっさん」



「いや、普通に喋ってたから、心の声駄々漏れだったから。でも、心の声ってことは俺はそんなに汗臭いのか!?」



「なあ、俺さあ、…売れなさすぎじゃね!?えっ、金髪碧眼の美少年だよ!なんで買われないの!?少年時代の俺は今だけなんだよ!?」



「唐突に話変えるよなお前って。……そりゃあ中でも高いんだよお前。」



「そんなになんか?こっちからじゃ自分の値段なんてわかんねえからな。」



「王国金貨10枚だぜ。」



「……。」



「たぶんもうしばらく客寄せパンダにしたあとで、お貴族様御用達の得意先にでも色をつけて渡されるんじゃないかと俺は睨んでる。」



「……。」



「おい、お前から聞いてきたのにシカトか?」



「はっはっはっはあ!やはりこの俺様の価値がわかるヤツにはわかっちまうんだなあ。隠しきれなかったって奴か?はぁっはっはっはぁ!……なんでそんなに高いの?逆になんか怖くなってきたわ」



この国て使われる貨幣は主に賤貨、銅貨、銀貨、金貨、王国金貨等がポピュラーである。


混ぜ物の多い金属から鋳型で作られた賤貨、銅・銀・金から鋳型で作られた銅貨・銀貨・金貨、そして国のお抱え職人が1人で1枚いちまい手ずから作った美術価値すらある王国金貨ぎある。


その価値は左から10枚、100枚、1000枚、1000枚と交換レートが上がっていく。


主人公がもっとも親しんだ銅貨が1億枚の価値が自分にある。


日本円ではだいたい10億円程と思われる。


観賞用にもならないおっさんが数百万円で売られるなか、おれのケツにそんな値段が付けられるのか?



「そりゃあ中身がわからねえが、加護持ちなんだろ、お前は。」



「籠餅?」




「加護持ちな!絶対ちがように捉えてるだろ…。神が与えたもうた魔法とは違う超能力をもって生まれた人間。同じ加護持ちは引かれ合い、そしてお互いの存在が何となくわかる。せっかくだし教えてくれよ、お前はどんな加護を持ってるんだ?加護といやあかの勇者や魔王も加護持ちだったらしいし、魔法とは違ってへんてこりんなのもあるらしいしよ、いっちょみせてくれよぉ。」















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俺は特になにかを思った訳じゃ無いけど、おそらく俺はグルー・ビーを殺してその代わりに今まで生きてきたんだと思う。


予感はあった。


俺と言う記憶の受け皿になった誰かが、あの日に引き金を引いた誰かが、俺には塗りつぶされて居なくならなくてはならなかった。


例えそいつがまだ自己を確立できてなく、俺に奪われたと言う認識すら待つことが出来ない存在だったとしても、そこには確かに今の俺とは違うグルー・ビーとしての可能性があったはずだった。


俺はその事に特になにかを思うことはない。


私は若い時に、赤十字に所属して人々を助け、いつか孤児院を開いて子供が不幸になるならそのような子供を全てを私が育てますと、そう言える大人になろう思ったことがあったが、そんな思いは寝て覚めたときには鎮火していた。


そうだ、仮に私が何かを思うことがあったとしても、寝て覚めたときにはなくなっている。


その程度の事なのだ。


異世界物の物語では人形の魔物ー例えばゴブリンーと敵対したときに人殺しの覚悟を求められる描写がよく描かれている。


他にも殺したあとにえづいてしまう登場人物の描写など、何十何百と読んできた。


確かに自分が人を殺してしまったと考えると嫌な気分になる。


しかし蚊を叩き殺してもなにも感じないどころか達成感や爽快感を感じる。


その二つにどれ程の違いがあるのだろうか。


私にはまな板の上の生魚と、檻に閉じ込められた私を監視するその男との違いがわからない。


















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「新事実発覚!?俺って加護持ちだったの!?じゃあもう冒険者になってハーレム作っておっさんで家具作るしかねぇじゃねえかっ!こうしちゃいられねえ!!おっさん、今すぐここの鍵を開けてくれ。直ぐそこに俺の明るい未来が待ってるんだ!!」



「加護持ちってだけでそんなうまくいくかっ!ってか家具にするってなに!?どうされちゃうの俺!?そもそもその流れで鍵を開けるような奴がいるわけねえだろうがばか野郎!」



「いやいきなりなにキレてんの?怖いわぁ、思春期の男の子ってほんと怖いわあ、母さんもう付き合ってられないわっ!」



「思春期なんて歳じゃねえわ!誰がだれの母ちゃんだ!ってかお前が先に叫び出したんだろうが!けっ、やってられねえぜお前みたいな奴は初めてだぜ。まああと少しの間の我慢だしたまにはお前みたいな奴も良いかもな。」



「いやぁ、さすがにお前みたいな奴に買われたら自決するわマジで……」



「なんだとこのヤロー!!!!」



「はははははははっ!」



「はんっ!」














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この世界には公式チートが2つある。


その一つが高位の精霊だ。


そもそも精霊はこの世界に満ちるエネルギー【マナ】を循環させる物理法則のようなものの事を指し、人がその精霊と言うシステムに干渉しマナを用いることで超常をなすのが魔法である。


そして精霊にに人間は位階をつけてわかりやすくしており、より高い位階の精霊であるほど沢山のマナを司っているとし、高い位階の精霊に干渉できる程規模の大きい魔法が行使出来ると考えられている。


しかし、そもそも人間に世界のエネルギーの循環を司る物理法則を観測し、干渉することなどそもそも不可能であるように思えるが、

「人は常に世界を満たすマナに包まれ、それを少しずつ取り込んでおり、人が死ぬと人が取り込んだマナ【オド】は精霊を通して再びマナとして世界を循環するのだから、その精霊を感じ取れる人間がいても不思議ではない」

と言う、とんでもな考え方でこの世界に魔法が存在する。


そのようにして世界に満ち巡るマナを用いて魔法が使用されるため、魔法はその土地に柄に影響されるため、砂漠地帯で水魔法は阻害され、海底神殿では水魔法は強化される。


活火山の近くであれば有りえるものの、町中で強力な火魔法など、まあまずなかなか使えるものではない。


何故そのような話しになったのかと言うと、現在進行形で主人公であるグルー・ビーが売られている奴隷商の店のあるその街から住人たちの悲鳴や怒声が聞こえ、我らが奴隷商店が魔法による(・・・・・)火で燃やされているからである。



ぎぃやぁぁぁぁっ!

だ……だれ、か…水をぉぉ。

ボハァァァァァ

こっちは火の手がまわっている、あっちへ逃げろぉ!

なんでこんなことに……。


火の手は奴隷商店にもまわってきていた。


グルー・ビーの命ももうここまでか……。


しかし、先日まで監視役の男と罵り合いを繰り広げていたグルー・ビーの姿はそこにはなく、力なく倒れる監視役の男がうなだれていた。


その首にはグルー・ビーが付けていたごつごつとした鉄の首輪が付けられていた。


商人としての意地か、今後の再起に商品は必要であると思ったのか、奴隷商人がグルー・ビーの捕らえられていた檻の前に来ていた。


そこに居るはずのグルー・ビーが居らず、何故か雇っていた監視役の男が檻の中に囚われている。


半分アンダーグラウンドに住む奴隷商人の男も驚愕の表情を見せた。


ここまででも他の奴隷たちは逃げ出しており、もぬけの殻の可能性や、最悪監視役の男が物言わぬ姿になり果てていることまで考えたが、そこに奴隷の鉄の首輪を着けた監視役の男が居たのだから。


まずもって、奴隷の首輪は外れるようには出来ていないのであるから。


鉄の首輪は鍵ではなく溶接によって繋げられており、付けるときも外すときも専門の職人により取り付けられる。


奴隷が傷物にならないように内側には断熱効果のある木材や接着剤で守られているため、付け外しに危険は少ないが、少なくとも1人で外すことはまず無理なように出来ている。


その首輪を外したどころか、新たに別人の首に付けることなどまず不可能なはずであった。


だがその奴隷商人はただの無能ではなく、アンダーグラウンドの世界でもそれなりにやってきた男は直ぐにこれからのために動き出していた。



「おいっ、バント!ワシだ!なんで貴様がそこに居るのだ!あの小僧はどうした!まさか逃がしたとでも言うのか。」



「旦那、すまねえ。なにやら外が騒がしかったから様子を見に行こうとしたら急に気を失っちまって……。気づいたらこの有り様だ。わかんねえが、これがあいつの加護なのかも知れねえ。油断した…。」



「チッ、何のために高い金を払っていると思ってんだ。まあ仕方ない。今は逃げる方が肝心だ。お前にも手伝って貰うぞ。」



ガチャ…ガチン…ぎぃぃ



「バント、早く出てこい。…クソ、あの小僧さえいれば未だなんとか出来たかもしれないのに。この国にはもう残ってはいられないな。」



「旦那ぁ、外じゃあ何が起こってんだ。」



「ああ、スタンピードだ。ここら辺は王都からも他の衛星都市からも離れているから魔物対策は十分じゃ無かったし、冒険者なんて居ないからな。流石に領主の私設兵に魔物退治までは難しかったようだ。東の城壁が越えられて未だなんとか持ちこたえているようだがあれは民の避難が終わるまでの時間稼ぎのようだ。ここも直ぐに無事ではなくなる。…しかし火を使う魔物なんて聞いてないぞ。いったいどこのどいつが火の不始末(・・・・・)をしやがったのか。」



「いやぁ、ほんとに大変な事になった」



災害によって火が起こることはまず無い。しかし日本で大規模な地震が起きたとき、TV局の減りは黒煙の上がる街を写す。


人の大きな進歩には火が欠かせない。


火は人類の叡知の証明である。


しかし火を操ることなど人間には到底不可能である。


故に人は火に引かれ、火を恐れる。


想定外によって人間の支配下から離れた火は我々に襲いかかる。



奴隷商人は今後の行動について考えた。


これから自分の進退をかけた大一番をグルー・ビーで行うはずであった。


しかし結果として街は魔物の手に落ちようとしており、高値で取引でき、今後の躍進の後押しになるはずだったグルー・ビーも失った。


しかし奴隷商人には自信があった。


例え今の地盤を失い、裸一貫で他国に放り出されようとも、再びのしあがる力が己にはあると言う自信と自負があった。


その時、より有利に動けるように何を今行うべきかを考えていた。


しかしそれらを中断しなければならないことがまた起きた。


バントの下品だが親しみのある低い男や声でなく、生意気な耳に響く高い子供の声が後ろから聞こえたからである。


本能が転がるように前へ転がれ!と訴えかけてくるがそれに従えるほど男は自分の勘を信じるうなことは出来なかった。


グジュゥ


「ぐかあっ、はぁあぁっはぁっはぁぁあぁぁぁっ!!」



無様に転ぶ。


奴隷商人の左足の太ももの後ろの肉をを何か異物が犯す。


今まで感じたことの無い熱と激痛を感じると同時に、左足から崩れ落ちるように転んでいく己の身体に、あまりにも情けない声が漏れ出る。


思い出せばおかしなところはいくらでもあった。


何らかの異変に気づくチャンスは転がっていた。


しかし奴隷商人はその全てを拾えず、ものに出来ず、グルー・ビーの掌の上で転がった。


グルー・ビーの握る剣からは、奴隷商人の物と、さらにそれとは別の乾いた血がベットリとついていた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




2つ目は加護である。


同じものは1つとしてなく、魔法とは違い全く原理がわからず、成長していく超常の能力。


総合力と言う点において断然魔法の方が高く、魔法は鍛練さえ積めば誰もが使うことができる。


しかし、魔法はこの世界の法則に則っており、縛られているとも言える。


では加護は魔法より下なのかと問われれば否である。


加護に法則は関係なく、加護特有のルールの上に成り立っている。


その能力に同じものは1つとしてなく、その能力においてこの世界の常識は意味を失う。


故に加護の前に道理は通じない。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「当然、あんたが来る前に逃げることなんて造作もなかった。そもそもここに連れられて来る前に逃げることもできた。捕まったのは俺が警戒してなかったからで、俺が間抜けだったからだ。だから、俺は今まで逃げなかったし、逃げようとしなかった。ただ逃げるだけじゃあ、それは逃げただけだからだ。」



「なっ、何を言っておるのだっ!!」



「汚い唾を飛ばすんじゃあねぇっ!!貴様が理解する必要はないっ、俺がわかっていたら良いんだ!だから、黙って聞いているんだこのクソがぁ!」



グジュゥ、グジュゥっ


グルー・ビーの持つ剣が奴隷商人の腸を蹂躙する。


足をやられた奴隷商人は身をよじりうつ伏せになってその蹂躙から逃れようとするも痛みは失われない。



「ぎゃぁぁぁぁあきくぅ、ききますっ、」



「そうです、最初からそうすれば言いのです。どこまではなしましたか…ああ、そうだ、だから俺はお前やお前たちのことを知る必要があったんだ。だからおっさんとはなしたし、飯を持ってきてくれるおばちゃんとも話したし、他の奴隷や俺を見に来る客とも話した。この街のことやこの国のこと、この世界のこと、俺は孤児院で冒険者になろうとして加護のことを知って仲間を知ってそれだけで生きていけると思っていたが、それだけで出てきた結果がここにつれてこられたことで、だから俺は知る必要があって、沢山知ったんだ。そして知った上で全てを飲み込んでその上にたつことが必要なんだよ。そう、最後に勝つ必要があるのです。逃げるだけでは、それば引き分け、いえ、それは負けです。それは許されない。わたしは私の負けを許容しない。」



「ひいぃぃぃっっ!!!」



狂人であった。


支離滅裂な話し方に、変わっていく口調、開いた瞳孔に、神を見た狂信者のように恍惚とした表情。


その顔を奴隷商人何度かみたことがある。


奴隷商人の男は、たまたま拾った高級人形が、プレミア付きで売れるはずだった人形が、その髪を伸ばし始めたのを目撃したかのように、恐怖で縮みあがっていた。



「かひゅぅー、かひゅぅー」



過呼吸が止まらない。


痛みではなく、恐怖で動けない。


自分がこんな目に遭う必要があったのだろうか。


いや、そんな必要はないはずだ!


こんな目に遭うだけなのは辛抱がたまらなかった。


このクソガキに現実を見せてやらなければ安心して明日を迎えることはできない。


痛みで白くなりつつある思考回路を動かし、腰に靡いていた短剣に手をかけて右足で飛びかかる。


窮鼠は猫に噛みつくのである!


腹から何か大切なものがこぼれている感覚がするが、今はこの悔しさを晴らさなければならない!


勢いにのって奴隷商人は短剣を横一文字に一閃した。



「ぐぬおおぁぁぁぁ!」


ブゥーン


しかしそこには誰もいなかった。



「!?」



仮に人は心臓を貫かれても10秒ほど動くことができる。


これは人でなくとも動物でもそうだが、その10秒で相討ちに持ち込むことができる。


故に近距離戦において心臓を狙うよりも、相手を無力化してから確実に止めを刺すことが求められる。


それゆえに剣は強いらしい。


剣は近距離戦で相手を無力化することにも優れているそうだ。


短剣は短すぎ、槍は長過ぎ、こん棒などは悪くはないが、剣にはやいばがあり面積が小さい分より強く力が込められる上に貫くこともできる。


何が言いたいのかと言うと、グルー・ビーは片足を潰し、腹を抉っても油断していなかったと言うことをである。


人を何度も切った剣で首を落とすことは12歳の子供にはまず不可能である。


ボズリュゥ


奴隷商人の空振った軌道上から消え去ったはずのグルー・ビーは再び現れ、その手に持つ剣を振り上げ、奴隷商人の頭をかち割った。




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異世界転生者にして職業 奴隷、夢はダンジョン攻略者、よろしくな!~孤児スタートのはずがいきなり奴隷になりました せんたっきじゃねえ、せんたくきだ! @ochamekinou

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