金は愛よりも強し「ピエロ Pierrot」①
今回の短編は動物が好きな方にはちょっときつい内容です。ペットを飼っている方、特にワンちゃんを飼っている方には精神衛生上よくないと思われますので、お読みにならない方がいいかなあ……。
とりあえず残酷なお話であることだけ、ご了承下さいませ。
ノルマンディーのある村。未亡人であるマダム・ルフェーヴルは、外側を飾るのが上手な人。
「リボンをつけ飾り帽を被り、いかにも善人でございますと他人の前ではいかにも崇高なふるまいをなさっているが、その実中身は思い上がった自尊心の強い女でしかない。中途半端な田舎者であることがその教養の足りない喋り方に滲み出ている。真っ赤なゴツい手を絹の手袋で隠しているが、言ってみれば本人もそのような人間だ。」
…と、いきなり主人公をけちょんけちょんにするところから始まります。
マダムは女中のローズと一緒に暮らしています。こっちはれっきとしたたくましい田舎者。
小さな家には小さな庭があって、マダムはそこで家庭菜園をやっています。ところがある夜、その菜園に何者かが忍び込み、10個ばかりの玉ねぎを盗まれてしまうのです。
こんなの田舎にはありがちなちょっとした盗み…ではなく、マダムにとっては天地がひっくり返るような大惨事です。
私の家に泥棒が! 泥棒が! きっとまたやって来るわ! 怖いわ!
マダムがあんまり大騒ぎするんで、お隣さんが親切にこうアドバイスしました。
「番犬を飼えばいいんじゃねえか?」
ルフェーヴル夫人、それはよい考えと膝を打ちますが、すぐに考え込んでしまいます。どうしてか。それは「犬を飼うこと=金がかかる」から。大型犬なんて飼っちゃったらエサの量がバカにならない。家のなか全部食い尽くされてしまう。犬なんかにお金をかけるわけには行かないのです。
この人がお金を使う時。それは、他人の前でこれみよがしに乞食に施しをしてやる時。あるいは教会で募金箱に寄付をする時。他人が見ていなければ、もちろんやりません。彼女にとっては金を出す行為は他人の評価を得るための機会に取っておくものなのです。
だからたかが犬のために金を使うなんて考えはこの人の頭にはありません。
迷っている女主人を動物好きのローズが説得し、小型の犬を探すことにします。それならぞっとするほどスープを平らげることもなかろう、と。
よさそうな小型犬がいましたが、これまでの養育代として2フラン(1フラン≒1000円)求められ、断るマダム。ずいぶん吹っ掛けること。飼ってもいいけど買いたくはないの。分かるでしょ。
するとある日、パン屋が一匹の犬を連れてきました。ちっちゃくてヘンテコな犬。全身まっ黄色で、足が短くて、そのくせ胴が長くって、キツネみたいな顔をしている。尻尾はふわふわして体とほとんど同じくらい大きい。
マダムはその奇妙な小犬に魅入られてしまいます。可愛いじゃない。しかも殺されるところだったっていうからタダでもらえるし。気に入ったわ。
犬の名前は「ピエロ」といいました。
水を与えれば飲み、パンのかけらをやったら食べる。心の中に小さな不安が芽生えたマダムはこう言います。
「うちに慣れたら放し飼いにしましょ。そしたらきっと自分で食べ物ぐらい見つけてくるわ」
おっと、こんなチビ犬にすらエサを与える気がないようです。
放し飼いにされたところでピエロが満腹になることはありません。エサを求めてそれはもうキャンキャン吠えます。でもそれ以外は大人しく、庭に入って来る人にもすぐに懐いて甘えてしまう子犬。まあ、番犬としての役目はあんまり果たしてないってことでしょうか。
それでもルフェーヴル夫人はこの犬に愛着を感じ始めます。いやむしろ愛情を持ち始めます。なでなでしてみたり、驚いたことに、時おりソースをつけたパンのかけらをやってみたりさえするようになるのです。
しかし、そんなマダムに大変な出来事が持ち上がりました。
「犬税」として8フランの請求が来てしまったのです。そんなこと、聞いてなかった!
マダムは卒倒しそうになります。このキャンキャン吠えるだけの小さな動物に、8フランも払わなければならないなんて!
……じゃあもう要らない。
そう決めたマダムはピエロの引き取り手を探します。でもどんなに声をかけても誰もこの犬を欲しがりません。困った挙句、彼女は唯一の方法を選ぶことにします。
それは、何でしょうか?
おそらくご想像のとおりですが…。
つづきます。
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