こんにちは。
私もこれ、教科書で読んだモーパッサンの最初の短編でした。柊さんのタイトルは「モーパッサンはお好き?」ですが、ずーっと答えはノーでした。だって、中学の先生が、「これは駄作だ。夏目漱石がそう書いている」と言ったからです。漱石は大文豪ですからね、信じちゃいます。漱石は小説の最後が「道徳がない」、つま「慈悲がない」ということだと思います。マチルダは十年もかかって借金を返すのに、あのオチはないと私も思いましたから。
それで、年月を経て、私もフランスの歴史とか少しはわかるようになり、今のフランスが庶民の国なのだとわかった時、「脂肪の塊」を読んで、これは名作だと。当時の庶民(特に主人公は底辺の売春婦)はブルジョワに対して、泣くしかなかったのですよね。
この「首飾り」のマチルダだって、上流社会に憧れて、あんな真似をするから、
あんなことになるのだというモーパッサンの皮肉がわかったように思いました。
トルストイ、ロマン・ロランなど、人々側の作家はみんな、モーブッサンを賞賛しています。その時、夏目先生、どうしたのですか、と思いましたね。もちろん、彼は私の好きな作家ですが、彼も、芥川も、みんな庶民の側にはいませんよね。誰もが、そういうことを書かねばならないということはないですし。
オルセーにクールベ部屋があり(この間行ったら、変わってました)、そこに「オルナンの埋葬」がありますよね。オルナンの村人の葬式の絵です。
当時は大批判をされた絵です。なぜなら、当時は絵は貴族とか、ブルジョアのもので、こういう人々の絵を素材にしてはいけなかったからです。ミレーの「晩鐘」も農民を描いていますが、クールぺより後です。
モーパッサンも、クールベも、自然主義の人で、現実を書いたり、描いたりしました。現実はハッピーエンドが少ないですが、悲劇を見て、笑うことはできますよね。というわけで、今は「お好きですか」には「イエス」もちろんです。
柊さんのエッセイや評論を読むと、考えや思いが次から次から出てきて、それが柊マジックだと思います。
それで、余韻で遊んでもそこにとどめておいて、余計なことは書かないでおこうと思うのですが、今日、私のエッセイにコメントをいただいた時、少し「首飾り」について書いてしまったので、ここに続けました。
作者からの返信
九月さん、コメントありがとうございます。
なるほど先生にそう言われては生徒はそう思ってしまうかも。作品の内容に拒否感を持つことは単なる好みで、その作品の質とは別の話ですよね。逆にそこまで漱石にショックを与えたなら成功しているとも思えます。
外国の文学って、どうしてもその国の土壌を多少知っている必要があって、それが壁になっている場合が多いですね。でも国が違っても人間として通じるものはあって、モーパッサンなんかはそれをとても端的に書いていると思います。
画家にしても作家にしても、自然主義に嫌悪感を覚える人たちは少なからずいたでしょう。自分がどの立場にいるかというのも大きいでしょうね。ブルジョワの人たちは、自分たちが皮肉られることもそうだけど、貧民の暮らしをリアルに描かれることで都合の悪いものを見せられるような不愉快さを感じたのではないか、そういう部分もあると思います。いずれにせよ、表現に対する社会の度量の大きさがないと成功しないジャンルですね。
絵画の例も含めてとても勉強になるコメント、嬉しいです。ありがとうございます!
柊さん、ごめんなさい。
読み終わったんでこちらにコメント残そうとしたら、娘も読んで、論争へと発展してしまいました。長くなったので、自分のエッセイで公開してしまいました。
そしてまた、柊さんのお名前を出してしまいました。悪い風には出していないつもりですが、自信がありません。
なにかございましたら、遠慮なくおっしゃってください。
いつもいつもすみません。
……と思って、ここまで反応を見たら、みなさん、苦手意識を強めてしまったみたいです。本当にごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんです。わたしは、ハードコアな娘の意見を逆説にして、モーパッサンは読みやすい、というところをお知らせしたかったのに……! みなさんへの返答のところでどうにか挽回するつもりですので、気に病まれてしまったら申し訳ありません。この連載は楽しみにしてらっしゃる方が多いとお見受けしますし、私自身も楽しんで読んでいますので、どうかこれからも続けていただきたいと思います。
本当に、ほんとうにごめんなさい。
作者からの返信
月森さん、コメントありがとうございます。
いや、謝ってもらうことは何もないですよ!むしろこんなに売り込んで頂いて恐縮してます。(どっちかというとここまで来てもらって僕の書き方がつまらんかったら申し訳ないなと^^ ; )
お勧めしても苦手な人は苦手だし、実際愉快な話はあまりありませんから、ハッピーエンド好きな人が読んで気分を害するのは気の毒です。最新話まで読み続けてくれている方々はこういう自然主義が嫌いじゃなくて、純粋に興味を持ってくれているのだと思います。
ですから気になさらないでください。
あと、ゾラは月森さんにはけっこうつらいんじゃないかと思うので、あらかじめ。
ゾラはもっと冷たいです(と僕は思います)。
何とも笑うに笑えないようなオチですが、高額で豪華な首飾りだと思い込んでいたあたりが、この物語のカギですね。
人間の心理とか愚かさみたいなところを感じました。
柊さんのお話の進め方がお上手なので、実際にこの物語を読んだくらいに、時代背景も分かり堪能できています。
ありがとうございます✨✨
作者からの返信
笑うに笑えない後味が残りますよね。
お金持ちの友達が持っているものだから自動的に高いものと思い込んでしまうのは読者も騙されるところですね。
主人公は可哀そうですが、人間の見栄とか欲とかを皮肉っているなあと思います。
時代背景、当時の風俗などは自分も勉強になります。伝わっていてとても嬉しいです^^ 優しいお言葉、こちらこそありがとうございます!
このレビュー集(?)、素晴らしいです。私はモーパッサンという作家の作品は僅かしか読んではいないのですが、その作品はいずれもとても心に残っています。ツッコミどころ満載だったり、また登場人物があまり聡明でなくてハラハラし通しな点とかですかね(汗)。ある意味、人間的。
この「首飾り」は、中学2年生の時、国語の教科書のワークブックに載っていました。読んだ後の課題として、「この主人公に、友人が首飾りの代金を全額払ったとして、幸せになれると思いますか? またそう考えた理由も書きなさい」というのがありました。中学2年生には難しい問題ですよね。導きたい答えは分かるけど、これ、私は幸せになってもいいと全力で思います。
作者からの返信
秋色さん、こちらに目を留めてくださり、嬉しいお言葉までありがとうございます。モーパッサンの作品はすでにご存じなんですね。確かに印象の強い話が多いですよね。仰る通り出てくる人たちがよくも悪くも人間的で。
「首飾り」はオチがなんとも残酷ですね。その問題もけっこう誘導的ですが……(笑)失った10年間は戻りませんが、主人公の幸せを願ってあげるところがお優しいですね。
バリエーションをなるべく広めに紹介していますので、またお時間のあるとき覗いて頂ければ幸いですm(__)m
脱力系文学とでも言うのでしょうか!
皮肉で愚かで健気ですね。
何かを捨てる事で何かを得ると言うのは救いようもありますが
この場合、マチルドは何を得たんだろう。
これもしょうもねー!の中に深く考えさせるものがありますね。
私の購入したモーパッサンの短編集のタイトルがこの「首飾り」でした。
やっぱりますます読みたくなりました!
作者からの返信
脱力系(笑)ああ~このオチはまさにその言葉がぴったりですねえ。文章は普通というか真面目に書いてあるのに、使う語彙や言い回しにちょいちょい毒っぽさがあってそれがクスクス笑わせるんですね。それで登場人物のセリフはリアルな喋りなので、そこに阿保さ加減もよく出るという。うまいですね。
何かを捨てっぱなしなマチルドは本当に気の毒としか言いようがなく(^^;)このえげつないオチが有名にしてしまったのでしょうね。
「首飾り」の入っている短編集ですか。他にどんな話が入っているんでしょう。機会があれば教えてくださると嬉しいです。
はじめまして。
モーパッサン、最近触れる機会があったので、興味がありこちらを読ませてもらいました。とても読みやすく、また分かりやすい解説で、実際のモーパッサンの作品と合わせて読みたいなと思いました。
それにしても、このオチ……! びっくりです!
思わず友人の最後の言葉を繰り返し読み返して、マチルダがどんな気持ちになったのか想像してしまいました。想像するたびに、気の毒だなと思います。すごい作品ですね。
作者からの返信
悠栞さん、はじめまして。
この作品に興味を持って頂き光栄です。すでにたくさん読んでくださりありがとうございます。分かりやすいと感じて頂けたら何よりです。
この作品のオチはかなりブラックですね。笑えるけど笑えない話の代表作みたいな感じで。モーパッサンは辛辣でかなり毒気がありますが、それが面白くて癖になってしまいますね。
はじめまして。
作品を読んでから、拝見しました。
オチは途中で察しがつきましたが、途中の伏線の張り方がうまいと思いました。
親友は、レプリカが入っているから黒い箱を最初に見せなかった。しかし、主人公と読者は、特別な宝石だから最初に見せなかったと錯覚する。
箱を返してもらったとき、親友に中身を確認させないで、読者に疑問を抱かせ、これは何かあるなと匂わせる。
ラストですが、私はハッピーエンドにも解釈できるように思いました。
主人公は身の程を知ることができたうえで、おそらく宝石は返してもらえたでしょうから、それを売って前よりよい生活を送れたと(親友が捨ててなければですけど)。
ただ一点、なぜ、夫がそこまで返済に協力的だったのかは疑問でした。
愛しているから。カトリックなので離婚ができなかったから。そこまでは思いつきましたが、加えて、ブルジョワとしての矜持もあったのかなと、このエッセイを読んでいて思いました。
作者からの返信
はじめまして。まずはこの作品を見つけてくださりありがとうございます。興味を持って頂けて光栄です。
「首飾り」読まれたんですね。細部を忘れてしまっていたので仰っていた部分を読み返してみました。数行でさらっと書いてあり、マチルドの視点で語られているので、ここを伏線ととらえずに読み過ごす読者が多いのではないかと思います。返す時も友人の冷たいひと言や代わりの品がバレるのではというマチルドの心配の方が印象付けられるので、まさかこれが模造品だとは読者が想像しないようにできてますね。
ラストは、僕の考えですが、宝石は返してもらえないと思います。マチルドが勝手に勘違いしただけなので、そこまでの優しさはないかなと。友人にしてみればラッキーで、多分つきあいもここで終わったんじゃないでしょうか。シビアですがこれが現実的かなと思います。
この時代の夫婦は一度結婚したら運命共同体だったんでしょうね。妻には経済能力はありませんし、全部夫の肩にかかってくるという。この夫も気の毒ですね。プチブルジョワは見栄と現実の間でけっこう苦しかったんじゃないかと思います。
丁寧なご意見ご感想、ありがとうございます。深い考察を読ませていただいてとても嬉しいです。
あちゃーーーΣ(;゚∀゚)ノ
一晩の楽しい夢が、十年の苦労になるとは。でもこのご主人、優しいですね。妻の失くしたもののために、一緒に苦労をしたわけですから。いい人と結婚したと思います。マチルドはそう思っていないでしょうが。
でね、ふとした疑問。指輪を失くすのはあり得ますけれど、つけているネックレスを失くすって、あまりないことだと思うのです。どうやって失くしたのかしら?私の勘だと、いたずら小人四人組が持っていったと思います!
作者からの返信
ご主人も気の毒ですね。プチ・ブルジョワは財布が淋しいのに外側は格好をつけなきゃいけないので大変だったと思いますよ。夫婦喧嘩せずに10年頑張りきっただけでもいい夫婦ですね。
細かいところに目を付けられましたね。どこでどうやってなくしたんでしょう?? あ、四人組でしたか。入れて頂いて光栄です。四人目がおそらく一番悪人顔です。
昔の小説を読むと金銭感覚がピンときませんが、柊さんの文章が、とても分かり易いです。
月収15万円で、毎日、食費を切り詰めてポトフ。ヘルシーですが飽きてしまいそう。そんな中、ドレスに40万円の出費。ここで止めておけば良かったですね。借りたアクセサリーが原因で、信じられないほどゼロの多い出費。10年で借金を返済できた果てのオチには、もし笑うとしたら引き攣った苦笑いしか出てこなさそう。印象に残る優秀作品です。
柊さん、レビューをお納め頂けて良かったです。あの引用箇所、無いほうがいいかもと数日、考えた挙句、やっぱり採用(?)したので、そこを素敵と思ってもらえて、安心しました(^.^)
ずっと暑いのも困りますが、20度近く下がるのも困りますね。ご自愛ください。私も気を付けます。
作者からの返信
ひと昔前の金銭感覚は同じ国でも難しいですよね。無難な定説の1フラン千円に換算すると何となくイメージしやすいかなと思います。
しかしまさに「聞かなきゃよかった」的なオチですね。知らない方が幸せなこともあるということで。
モーパッサンの日本での知名度がどれぐらいなのか僕には分かりませんが、引用を頂いたことで日本の作家との接点ができたような親近感がわきます。悩んで下さったんですね、いつも渾身のレビューを賜っておりますので贅沢なほどです。本当に、ありがとうございました。
これはもう、なんていうか残酷でしたよね。衝撃作でした。
作者からの返信
このオチの持って行き場のないやるせなさ。笑うに笑えない感じがいいです。この作家は好みが分かれると思いますが、僕はハマった方です。
それから、素晴らしいレビューを頂戴し、誠にありがとうございます。時代を経てもなお新しいというのは言い得て妙だと思います。普遍的だけど気づかされるものが多いですね。
なるべくジャンルを広めにアップしていきますので、お付き合い頂けますと嬉しいです。
本当にありがとうございます。
この作品は以前読んだ時もすごく印象に残りました。
やるせない…ほんとやるせない…
10年の月日は帰ってこない!
お友達に正直に話していればよかったのに!
などなど、グルグル考えちゃいます。
自分で価値のわからない物を気軽に借りるのはやめよう、うん。
この話に救いを求めようとするなら、お友達がいい人そう(ある程度返してくれそう)なのと、マチルドがささやかな日常のありがたみを噛みしめられるようになったのでは…というところですね(^^)
作者からの返信
黒須さん、コメントありがとうございます。
このオチはインパクトありますよね。破壊力が…。
それでも救いを求める黒須さん、なんと優しい方なんでしょう。
マチルドにはせめて屋根裏部屋から抜け出して欲しいものです。
それから有難い評価とレビュー、とっても嬉しかったです!
このタイトル、この文……ああってなりました。嬉しすぎます。黒須さん、ありがとうございますーーー!
編集済
小役人が下のほうでもブルジョワに入っていたんですね。お金がないなら、家事なんて自分達でやればいいのにと思いますが、体面にかかわったんですね。なんか、武士は食わねど高楊枝みたいな悲哀を感じます。でもダイヤの首飾りの代金の前にはそんな体面は吹き飛んじゃったんですね。しかもなんてオチ……悲しすぎる。モーパッサンはマチルドみたいに分不相応な望みを夢想する女性が嫌いだったんでしょうか。
私がフランス語で読もうと思ったら、一生かかっても終わらなそうなので、翻訳で読んでみました。最初のほうでマチルドが夢想した理想の生活の中に出てきた半ズボンの従僕ってどんな意味があるんでしょうか?
以前に近況ノートでお勧めされていたベラミも翻訳で読んでみようと思うんですが、角川文庫(中村佳子訳)か、グーテンベルク21(中村光夫訳)かどっちか迷ってます。試し読みしてどちらも一長一短あるような気がするんですが、原文と比べてどちらがいいと判断できるほどフランス語能力がない(というか全然ない)んです。どちらがいいかお勧めできますか? よろしくお願いします。
追伸:色々教えていただき、ありがとうございます。従僕は何か特別な意味があるのかと思ってしまいました。短い半ズボン(実は「短い」もついてました)というのはちょっと違う気がしてしまいますね。
翻訳を確認してくださってありがとうございました。お手数おかけしました。ご意見を参考にして購入しようと思います。
作者からの返信
田鶴さん、コメントありがとうございます。
>武士は食わねど高楊枝
まさにそんな感じですね。ブルジョワとか労働者とか、身分というものがどれだけはっきりしているかは、今のフランス社会でも残っていると思います。だから余計マチルドの運命は皮肉ですね。
半ズボンの従僕、と書いてあるのですね。これは膝下ぐらいのズボンに絹の長靴下というのが古典的な下男の格好だったから、そういうワンランク上の生活の雰囲気を想像したんじゃないかなと思います。
べラミですが、自分も両方見てみました。どちらも忠実に訳されているのでなんとも難しいですが、原作の雰囲気を出しているのはグーテンベルク21の方かな、と感じました。でも読みやすさとか色々含めて、田鶴さんのお好みの訳の方でいいと思います。