心を持たない君へ
@arimoti_ruri
第1話
「きみは、だれ?」
夏の暑い日差しが、広い教室の窓から入り込んで肌にささる。
ただ、忘れ物を取りに来ただけだった。
お盆休み前最後の学校が開いている日。なるべく人と関わるのは嫌だから、人のあまりこなさそう且つ部活もやっていなさそうなこの日を選んだ。
誰も校内に居ないと思っていたからこそ、今現在俺の目の前にいるソイツと教室のドアを開けた瞬間鉢合わせした時はびっくりした。
ソイツは背が低いから、教室のドア越しに見えなかった。
…ところで、ソイツ誰だっけ。
向こうも俺の名前を聞いてきたけど、俺もソイツの名前を知らない…いや、興味が無いから忘れたんだろう。多分同じクラスなんだから知らないって訳はない。
でも、クラスの中でこんな小柄で女みたいなやつ、見たこと無かった気がした。
「あの、このくらすの、ひと?」
目の前のソイツが、ぺたんと床に座ったまま顔を上げて尋ねてきた。そして続ける。
「あの、ぼく後期からこのクラスにはいるらしいんだ、下見に先生と来たんだけど、置いてかれちゃったみたい」
今の言葉を聞いてそりゃあ名前も思い出せないし顔も知らないはずだ、と思った。
なんせ、ソイツは後期からこのクラスに来る転入生なんだから。
転入生の言葉から察するに、彼は下見に来て先生に置いてかれたらしい。着いて行けなかった彼も彼だが、置いていった先生も酷いものである。
「だから、もしこのクラスの子だったら、職員室まで連れて行って欲しいなぁ…って、」
転入生がそう頼んできた。
早く家に帰りたいし多少めんどくさい気もするが、クラスの連中よりいち早く転入生と仲良くなれる優越感を得られるならまあいいかと、頷く。
彼は、喜んでいるのか分からないが少しだけ笑った。
「ありがとう。あの、お名前なんて言うの?」
「
「ぼくはね、
足元に落ちていたカバンを拾って、背負い直しながら奈緒…、はそう言った。
「よろしく。奈緒」
話しながら、正直いつまでもこんな暑っつい所でだべっているわけにもいかないのでそろそろ行くぞという合図も込めて教室のドアを再度開く。
「うん。よろしく」
奈緒はそれを理解したようで、急いで教室の外へ出てくれた。
しかし職員室とは正反対の方向へ歩き出した為、慌てて引き止める。
「そっちじゃないよ、こっち」
「あ、そうなんだ」
普段ならこんな優しい口調で注意しないのだが。なんだか、奈緒がとても面倒な人物に見えてきた。
不意に、隣を歩く奈緒が俺を覗き込んだ。
どうかしたか。と聞いてみる。
「柊くんとなら、誰よりも仲良くなれそう」
さぁ。どうだか。
心を持たない君へ @arimoti_ruri
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