第一章 魔王の落とし子

1 魔王の落とし子らしくてやばいです①

はじめまして、ごきげんよう。私はリュミフォンセ=ラ=ロンファーレンス。


とある王国のロンファーレンス公爵の娘、いわゆる公爵令嬢というものだ。


そして、唐突だけど、転生者だ。転生前は21世紀の日本に住んでいて、葉瀬ユズリという名前で生きていた。平凡な人生だった。学校に通って大学を卒業して普通に企業に就職したけど、朝も夜も働いて、ワンルームマンションと会社を往復する生活にもけっこう慣れてきたなぁってころに、突然逆走してきたシルバーマーク付きの暴走車に撥ねられて死亡。享年27歳。


こちらの世界のリュミフォンセが7歳になったときに、わたしは突然「葉瀬ユズリ」という人間だったことを思い出した。そして、前世の記憶がいきなり全部蘇って、もう過剰なんじゃないかってくらい黒歴史も含めてぶわーっと思い出して、わたしは異世界で2周目の人生を生きていることを知った。


異世界転生っていったらチートがもらえるんじゃないの? 女神様的な何かと白っぽい部屋でチュートリアル的なものがあるべきじゃない? と思ったが、そういうものは特に無かった。


でも、生まれた家がチートだからそれで良かった。


わたしが転生したロンファーレンス家は、王国で3番目のご立派なお家だ。だからこのまま普通にやっていれば、人生勝ち組一直線の猫まっしぐら。


チートな力を持って魔物をばったばったと倒して英雄に必要もないし、転生者同士で切ったはったを続ける必要もなし。もう富も名誉も約束されているもの。


元の世界ではただのサラリーマン家庭に育ち、学生生活の半分をバイトに費やしたわたしにしてみれば、公爵家は雲の上の世界ですわ。大きなお屋敷、使用人のみなさん、よくわかんないけど高級そうな調度。これ一体いくらかかっているのかしら! んん、お金のことを言うなんて下品かしらね?


そして容姿! 見た目! これ重要! 手近にある鏡を覗き込むと自分の顔が見えるのだけれど、幼少期にしてすでに美人の風格があるわ〜さすが公爵令嬢。艷やかな黒の髪に、灰色の目アッシュアイ。自分で言うのもなんだけど、ちょっと不思議な雰囲気の容姿よね。


髪も服もメイドのみなさんが毎日整えてくれるし、しかも飾り甲斐があるのかやたらと張り切ってくれるし。特にわたし、メイドのメアリさんが大好き。仕事だからっていうんじゃなくて、本気でわたしを可愛がってくれる気がするし、優しいし手先が器用だしお茶を淹れるのもうまいし。ちょっと性格が控えめかなって気もするけどそこが逆に素敵な可愛いらしいメイドさん。


でも懸念する。わたし、というかリュミフォンセは、物心ついたときにはもう、おとうさまとおかあさまがいないのよね。事故で遠いお空の星になってしまわれたと聞いたわ。


だから、現公爵のおじいちゃんがわたしを養女にして育ててくれている。おじいちゃんはわたしをとっても可愛がってくれるから、ぜんぜん寂しくない。まあ、転生前はもう大人だったから、かまってもらえなくても寂しいってことはないけど・・・やっぱり愛情あふれるご家庭っていいですよね?



そんな順調な異世界ライフを送っているあたしに転機が訪れたのは、8歳の誕生日のときだった。



ご馳走とたくさんの贈り物とともに、おじいちゃんがある一枚のカードをくれた。キラキラ光る白銀の板は、魔法銀ミスリルという金属でできているものらしい。


ミスリル・・・ああ、ここってやっぱりファンタジーな世界なんだな、とひとり納得していたら、おじいちゃんがこのきらきらしたカードの説明をしてくれた。



「リュミィ。お前にはちょっと早いかも知れないけれど、この『ステイタスカード』は大事にとっておくんだよ」


「『すていたすかーど』ってなにかしら? おじいさま」


「うーんその首をこてんと倒したその表情、リュミィかわいいなぁ100点満点じゃぁ!」

「んんんっ!」


ぐりぐりと白い髭を押し付けてくるおじいさま。愛情表現だというのはわかるけど、子供の肌って柔らかいから、おヒゲがちくちくして痛いんだよね。まあ愛情表現なのはわかるから文句も言わないけど。


「この『ステイタスカード』というのは、この世界の誰でも持っていてな。念じると持ち主の肩書きと職業ジョブ、それに位階レベルとがわかるというものだ」

「れべる、と、じょぶ?」


おお・・・ファンタジーゲームっぽい世界だと思っていたけど、ほんとにファンタジーなんだ。


「ほれ。みてごらん。じじも持っておるぞ」


そういって、おじいさまは懐からカードを取り出した。縁に穴を開けてペンダントにしていた。そして、おじいさまの指が淡く光り、カードに光る文字が浮かび上がる。うーん、改めてファンタジー。


おじいさまのステイタスカードの位階レベルは44。肩書きは公爵領主ロードで、と職業ジョブ聖騎士パラディン。なるほど、こういうものか。これがステイタスカード・・・使いみちはいまいちわからないけど。位階レベルは44はやっぱりすごいのだろうか。


「使い方は簡単だ。魂力エテルナをカードに注げばステイタスが浮き出てくる。あとはステイタス確認のスキルレベルがあがれば、他にもいろいろ見えるようになる」

「『エテルナ』?」


また出た! ファンタジーワード。


魂力エテルナは、この世界にあまねく渡る命の力と呼ばれていてな。魔法や特技を使うときに使う力のことだ」


なんとなくわかったので、わたしはこくこくと頷く。そして再びおじいさまのおヒゲ攻撃。


「まあ魂力を使うのは、まだリュミィには難しいだろうな。このステイタスカードも、普通は13歳の誕生日に渡すものだ」

「じゅうさんさいで?」


あたしは8歳だから、まだっていうか・・・まあかなり早いね。


「しかしな、リュミィ。一部の貴族は違うのだ。魂力エテルナの才能が違うからな。古代の英雄王は10歳からステイタスカードを使いこなしていたらしい。英雄王とまではいかんが、リュミィ、お前も遠くない未来に使えるようになる大事なものだ。そのときまで、そのカードを大事に持っているんだぞ」


あたしは公爵の血筋だから、その魂力エテルナの才能の開花が早いかも知れないってことみたい。さすがに英雄王と同じってわけにはいかないと思うけど。予想というよりも、孫馬鹿おじいさまの願望なんだろうな。ワシの孫娘は天才であって欲しい、みたいな。


「わかりました。おじいさまのくれたカード、だいじにします」

「!! おおそうか、わかってくれたかリュミィ〜 やはり賢いの〜」

おヒゲ攻撃、本日3回目。


だからちくちくは嫌だって〜!





誕生日を祝ってもらったあと、わたしは自室に戻って、もらった『ステイタスカード』をベッドの中で眺めていた。


薄く飾り彫りが入っている金属の板だ。でも実際はファンタジーな不思議アイテムこの異世界に転生してきて、初めてのファンタジーアイテムだ。こちらの世界のわたしリュミィは、8歳という年齢もあって、屋敷の敷地の外にはほぼ出ない。


でも、さらに外にはめくるめくファンタジーな世界が広がっているんだろうか。ちょっと面白そうだ。やっぱり魔法とかばーんと使ってみたいし。


エテルナという力を、カードに伝えればこのステイタスカードを使えるという話だった。そしてそのパワーの流し方は、なんとなくわかる気がした。さっきおじいさまが見せてくれたときに、直観的に理解できた気がする。


そして、気になることがひとつ。


(このステイタスカード。まさか『転生者』、なんて表示されないよね・・・)


(・・・・・・)


かなりもやもやした。転生者だっていうことがわかったら、わたし、どうなってしまうんだろう。奇異の目で見られる? 殺される? どこか遠くに隔離される? 勇者だって崇められちゃう? それとも転生者はすでにいっぱいいて、スルーされるとか・・・。


綺麗なカード。枕元のランプの灯りに照らしたりすかしたりしながら、わたしはしばらくそれを眺め・・・・・


(うん、決めた。)


ステイタスカードを試してみよう。普通は13歳で使うカードだ。何かがあっても、5年間の間に解決すればいいのだから。


結局、わたしは好奇心に負けた。初めて手に入れたこの綺麗なファンタジーアイテムを使ってみたくなったのだ。悩むよりは試す。わたしの流儀だ。


「・・・ふーんっ!」


ベッドの上、令嬢らしからぬ気合の声をあげて、わたしはカードに集中する。より厳密には、カードを持つ指先に。


どくん。わたしの体の中心が大きく音を立て、何かがわたしの全身巡る。わたしの体が内側で、外側の世界に接続るような奇妙な感覚。やがて、わたしの指が淡く黒く光り、指先から何かが流れ出て、カードに伝わっていく。


白銀のステイタスカードに、光る文字が走った。成功だ。



リュミフォンセ=ラ=ロンファーレンス

レベル:47

ステイタス:『公爵令嬢』 『転生者』 『魔王の落とし子』

ジョブ:  黒色魔法師




わたしはステイタスカードを、二度見、いや三度見する。


転生者、がっつり表示されるやん。


それはそれとして・・・・・・ 魔 王 の 落 と し 子 ?



「なんですのん、これ?」



思わずツッコミ出た。





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