第51話

 ◇◇◇

 

「アンナ、アンナってば」

「ううん……」

「起きた? もう学校に着くわよ」

「えっ、真理?」

「マリ? それ誰なの?」

「真理と云えば、あなたでしょ。何わけのわからないことを言っているの?」

「私はジュディよ。あなた寝ぼけているの? 冗談でしょ。たった五分ほどで!」

 寝ぼけていた…、私が? 目の前には、金髪を真ん中分けにしたジュディが不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。でも、ジュディの顔は……。

「ジュディ その顔!」

「顔がどうしたのよ。アンナ、大丈夫。今日は魔法学園の入学式なのよ。寄宿舎から学校までたった一〇〇〇メートルの距離を上級貴族が歩くなんて考えられないって、わざわざ馬車まで準備して……。それで、馬車の中でうたた寝って」

 いや、声で呆れているのは分かるんだけど、その顔、へのへのもへじじゃない。これは、まだ、夢から覚めていないのかしら?

んっ、――あれが夢だった? 随分長い夢を見ていたみたいだけど……。

それにしても、たった一〇〇〇メートルを馬車で移動。越山中の時は学校に行くのに登山まであっても平気だったのに……。私ってとことんプライドが高かったんだ。


また、夢のことを考えてしまった。早く夢からさめなくっちゃ。私は目をこすろうと右手を上げた。

すると手の平には、腹がでっぷりとした小さい中年が乗っている。思わず手を振り払おうとしたんですけど、その前に私に聞こえて来た声。

「なんや、ねーちゃん。生命線がえらい短いな。こりゃすぐ死ぬで」

「はあっ?」

「それに、感情線が乱れているわね。これは嫉妬深い相ね。しかも、感情が暴走ぎみよ」

 でっぷりとした親父の後ろから、可愛らしい女の子が顔をのぞかせている。

「頭脳線も最悪。すぐに騙されるタイプだな。都合の良いことしか信じないわがままタイプ」

 いつの間にか手の平には、可愛らしい男の子も乗っている。さっきの女の子と顔がにているわ。双子かしら?って、あまりにも非常識でしょ。手のひら大の小人が私の掌に乗っかって私の手相に毒を吐いている。

 これって、悪魔の手相の作者みたい!?


「「「これが人生って、あまりにもさみしくないか?! でも手相は心がけで変わるんや。そうなったら、太陽線とか財産線、それに結婚線だってでてくるさ」

 いや、あなたたち誰なのよ。人の手相をさんざんコケにして!


 私が掌に突然現れた小人たちにカッカしていると、突然頭の中に声が響いてきた。

(アンナ、ごめん? 失顔症の呪いは解除できなかったー。でも、代わりに精霊魔法と未来予知の魔法を授けてあげたから)

 むっ、この声は……、この世界の神になった「アメリーナ王国の花嫁」の作者。

「そういうことやねん。相手の性格もしっかり分かるし、わしらに頼ってくれたら、バラ色の人生が約束されたも同然や」

 こら、おっさん、あんたが一番胡散臭いんや。どこが精霊なんや?!

 んっ、未来予知っていうのもなんか胡散臭いぞ!

 私はカバンの中をまさぐった。

「やっぱり!」

 私がカバンから引っ張り出したのは、占いに使う筮竹(ぜいちく)。

 私がぶつぶつ独り言を話すので、少し引いていたジュディがその筮竹をみて前のめりになっている。

「なに? それ。武器、いや、暗器にちょうどいいかも」

 ジュディって騎士伯の出身よね、暗器って……。確かにあなたは暗殺者になってしまうらしいけど……。こんなものを使って仕事人みたいなことやらないでよー。

 

 この馬車はあの魔法学園の入学式に向かっているんですか。

 ふーっ、確かに私はアメリーナ王国の世界に帰って来たみたい。それに手相の精霊に言わせると私の運命はあの時のまま……。

 天の時、地の利、人の縁を味方につける、ここから逆転の一手は……、私は慣れた手つきで、筮竹の束を二つに分けたのだった。




アンナが転生した「アメリーナ王国の花嫁」リベンジルート編のお話はまた別の機会で……




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最後までお読みいただきありがとうございました。

思えば、一般的は悪役令嬢の逆パターン(乙女ゲーに転生するのではなく、乙女ゲーの悪役令嬢が現代の転生したら?)はどんな話になるだろうと、書き始めてみたんですが……。


結局、思考錯誤して、元の世界に帰っていくラストになってしまいました。思っていたのと違ったという方もかなりいらっしゃったと思います。また、いかにも続きがありそうな終わり方ですが、今現在、たくさんある悪役令嬢転生物語の下位変換の話しかが書けそうにないので……、本当にこれで完結でございます。

斬新な展開や設定、ストーリーが天から降ってくれば、続きを書くこともあるかもしれません。その時は、また、よろしくお願いします。

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ガチ悪役令嬢の私は、ハンデを背負って転生しました 天津 虹 @yfa22359

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