初恋は雨の下

 雨がしとしとと降っている。雨は電柱の根元に置かれた花束を濡らす。

 黒い傘を差して供花を見下ろす男性に、声をかける。


「警察の方ですよね。この場所で、ひき逃げされて死んだ井川詩織の同級生です。犯人を知っています」

「だ、だれが犯人なんだ……」

「あなたです」


 私は死者が見える。

 詩織は地縛霊となって、ここにいる。詩織のうつろな手が、男性を指さしている――。




 大切な話があると言って、自ら進んで男性の車に乗った。口止め料として高額な金額を請求し、払えないなら職場と家族にバラすと脅した。

 

「バラされたくなければ、私を殺してください」


 私は自殺する勇気のない臆病者。死にたいのに死ねない者は、殺してもらうしかないのだ。


 望み通りに首を締められ、私は確実に死にかけた。なのに彼は手の力を抜くと、自首すると言って慟哭した。


 雨が車窓に当たり、筋となって流れていく。

 八年前。小学生だった私が手を振ると、交番勤めの警察官も笑顔で手を振り返してくれた。

 突然の雨に傘を貸してくれた優しい警察官に、恋をした。


 私は途方に暮れながら、激しく泣く初恋の人の背中を撫でる。

 無邪気に挨拶を交わしていたあの頃を懐かしく思い、戻れない時間を恨んだ。

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