愛が辿り着いた場所

 自分が誰か分からなくなりました。

 帰る家も分かりません。


 あてもなく歩いていると、道に記憶がぽろぽろと落ちているのを見つけました。

 黄昏時の道を、記憶を拾いながら歩きます。


「愛している」

「君だけを愛している」

「愛することが、こんなにも幸せなものだとは知らなかった」


 誰の言葉なのでしょう。


「どうして誰にでも優しくするんだ!」

「オレ以外のヤツに笑顔を見せるな!」

「どこにも行かずに、ずっと家にいろ。一歩も外に出るな!」


 愛していると紡いだ同じ声が、激高しています。

 さらに記憶を拾うと、その声は弱々しくなっていました。


「君はもう、笑ってくれないんだな」

「オレが怖い?」

「オレを愛している?」


 懐かしい気持ちのする家に着きました。眠っている女性に男性が寄り添っています。

 男性の近くに落ちている言葉を拾いました。


「君を愛している。だから……死んで欲しい」


 わたしは思わず、自分の首をさわりました。首を締められた、そんな気がしたのです。

 女性の首に言葉が張りついています。


「やっと自由になれる」


 女性は目覚めることをしないでしょう。

 声を押し殺して泣いている男性を置いて、わたしは自由な世界へと歩きだしました。

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