あまりにも君が好きなので

疲れた君が温めるだけで良い食べ物を食卓に並べるたびに、この世は病気にさせるためにできているのではないかとしみじみとする。空腹を満たせれば、それでいいのだ。


優秀な成績を収めることを君が喜ぶたびに、自分は会社の歯車の立派な一部になっているのだと感慨深い。世の中が与える瞬間的な快楽を君と共有できれば、それでいいのだ。


世間の常識と戦うことをやめて、多数派に混ざって、毎日同じことを繰り返して、酒を飲み愚痴を吐いて、毒を吸って苦痛を誤魔化す。

全てはお金を得るために。


君が好きだから。

君の望む幸せを贈りたいから。


だから僕は好きでもないことをして、やりたくない気持ちを無視して、望んでもいない成功を手元に引き寄せる。


君が欲しがるものをなんでも買ってあげたいし、どこにだって連れていってあげたい。

君が笑顔だと僕も嬉しいから。




君が家から出ていき、僕は思う。


人生とはなんだろう。

自分とは?


僕はもう、自分に嘘をつきたくない。

君が好む幸せと、僕の望む幸せは違う。

君と仲直りしたら、僕はやはり苦しい生き方を選んでしまうだろう。


あまりにも君が好きだから。


だから――。

君に別れを告げる。

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