「KSK」ライナーノーツ

 1年以上前、第一回厨二病小説大賞に寄せて書いた小説ですが、読み返したら「クッソおもしろ……」となったのでセルフライナーノーツを書きます。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220365324715


●前提として

【厨二モチーフ】の使用必須、というレギュレーションの企画だったので、2つの厨二要素をいれました。

 1つ目が「イメソン小説」。二次創作でよくある、好きなアーティストの好きな曲のタイトルを冠し、歌詞の内容に沿わせたような小説です。

 せっかくなので、リアル中2当時からやりたかった「アルバムまるごとイメソン小説」をやってみました。

 選んだアルバムは椎名林檎「加爾基 精液 栗ノ花」。これもリアル中2くらいにハマっていて、かつ椎名氏本人もかなり厨二臭かった時期ですよね。タイトルにザーメンって入ってるし。

 もう1つは「夢野久作の文体模写」。「推し作家の文体模写」自体が厨二だと思うんですが、夢Q文体はアクが強いのでさらに厨二臭い気がします。


 夢Q文体で未来SFにしたら面白かろうくらいの感じでSFにしたのですが、ここのロジックの骨組みは映画「プリデスティネーション」(原作はハインライン『輪廻の蛇』)からの拝借しました。タイムトラベル、自分との生殖、円環という要素ですね。面白くて心がズタボロになるのでぜひ映画を見てみてください。


●Religion(宗教)

 1話目なので夢Q文体を濃い目に出してますね。

 原曲の“憎むな” “覚悟をめろ” らへんをそのままサンプリングしてます。それと最初の“誰か僕にうまいお菓子を” “可成なるべくなら甘いものが善い” の要素を最後に持ってきてますね。

 あとは“季節はめぐつて急ぎ足” “幾度も繰り還しをする” は本編全体にかかってる感じになってるな、結果的にと読み返して思いました。


「世界にり出されました」という表現は松尾スズキ『エロスの果て』の「(略)世界に一人、……り出されたんだ」からのイタダキです。


 緊急帝王切開での母体の死亡率云々というのは、夢Q文体だが昭和じゃないぞ、未来だぞというのを暗に匂わせようとして入れてる布石ですね。


●Doppelgänger(ドツペルゲンガー)

 これはあんまり歌詞に沿っているというわけではなく、“取り憑いてあげる” という一言に全ツッパしています。姉が「僕」に取り憑いているという説明のための話です。あとは“愛してゐる 大嫌い” という部分をサンプリングしてますね。


 精子の売買、養育施設あたりで、完全に現代よりも先の時代だとわからせたかったのですがうまくいってるでしょうか。

 あと「歯磨きの度にワザワザ人間の養育士が駆り出される」でロボットが普及していることも示しています。


 鏡像段階はご存知ラカンですが、当時のメモを見返してみるとかなり序盤に「鏡像段階における単一身体の獲得の失敗? 鏡の中の双子」と書いてました。筋に対してはなくても成立した要素かもしれませんが、なんとなくこのあたりの雰囲気づくりに一役買ってくれた気がします。言ってることは別に好きじゃないけどサンキューラカン。


●Camouflage(迷彩)

 これも“ねえ一層遠く知らない街に” “ねえだうぞさらつて行つて” だけで全ツッパしてますね。この最初のワンフレーズの「女」のイメージで「彼女」を書きました。

“最後の青さ” と“修正ペンの白さ” が「彼女の青いほどに白い肌」になっているのかもしれないし、「黒々とした窓ガラス」は“超へられぬ夜の恐怖色” なのかもしれませんが、正直意識して書いていないと思います。


 不正時間旅行云々というところでいよいよ未来的に、SFらしくなってきたのではないでしょうか。

 あとは識別と書いてアイデンティファイと読ませるのとか、未来SF感と厨二感を上手く出せてるのではないかと気に入っています。


●God Bless You(おだいじに)

 曲タイトルの英訳はわたしが勝手にやってるのですが、最初は「Please Take Care」にしようとしていたようです。God Bless Youのがいいですね。


 この曲はタイトルや“白いガーゼ” みたいな歌詞からもともと病院のイメージでした。

 これも明確に意識しているのは“守るものは護るさ” のワンフレーズですね。最後のフレーズと最後の一文を綺麗に呼応させられました。


 個室コンパートメントという表現は光瀬龍・萩尾望都『百億の昼と千億の夜』から拝借してます。かっこいい! と思って……。超ハードSFからもらって来たので雰囲気出るかなと。


 しかしここまで鏡ネタを引っ張ってるんですね。どこから出てきたんだろう、鏡。鏡像段階と双子というキーワードからでしょうが、イメソンにも文体模写にもSF部分の元ネタにもかからない、由来不明の謎要素でした。これで上手く筋が通せてよかったです。


●Slipshod Job(やつつけ仕事)

 これも当初は「Rush Job」というタイトルでしたが、急いでてやっつけなのではなく、なげやりでやっつけなので現タイトルに変更した気がします。


 これは割と原曲を取り入れています。

 まず「掃除機」。当時ジュージさんが気付いてくれて嬉しかった記憶があるのですが、この曲のイントロに掃除機の音が入ってるんですよね。

“何も良いと思えない/余り憤慨もしない/今日は何曜日だった?” “ねぇ"好き"って何だっけ?/思い出せないよ…” この辺をそのまま使っています。


 この頃になってくると、書いてて変な脳内麻薬が出て、「このアルバム、もともとこういう話を想定していたのでは?」という妄想に囚われ始めます。

 守るもの(自分の人格)を守ったのに何にもいいと思えなくなる流れ、完璧では……と思いながら書いていたと思います。怖いですね。


「何んにも」という送り仮名の付け方は、昔から好んでたまにするのですが元ネタを記憶してなくて、今調べたらこれも夢野久作の『少女地獄』「何んでも無い」から来てるみたいでした。


●STEM(茎)

 椎名林檎のアルバムは基本的にタイトルがシンメトリーになっているのですが、これがその境目となる真ん中の曲です。なのでここで「僕」から「わたし」に視点人物が変わる、というか、人格が入れ替わります。「妾」という一人称も『少女地獄』から取っています。

“現實の夢” “現實が夢” “何も要らない 壱ツだけ” このあたりの歌詞から構築しています。というか、歌詞に「願い」という単語が使われていた気がしてたのですが、イマジナリーでした。


 ツイートしたんですけど、ちんちん切り取った直後の話に「茎」ってタイトル、とんだ下ネタでしたね。読み返して初めて気づきました。


●Absurd Fear(とりこし苦労)

 当初のタイトル英訳、「Wrr Un」とメモが残っていて、多分「Worry Unduly」にしようとしてたのかな? 締りが悪くて色々調べて、「杞憂」の英訳で現タイトルに落ち着いたんだった気がします。


 これはどちらかというと展開優先で、具体的にこの歌詞をサンプリングしている、という箇所がありません。

 強いて言うと、男へ縋るような歌詞なので、「僕」に対する愛憎や執着を「妾」目線で書くというところが沿っているのかな。

 センセイのキャラが強めなのでそれで曲と離れている印象がありますね。ちょっと榎木津(京極夏彦・百鬼夜行シリーズ)感があるキャラになってしまった、と思ったけど、どっちかっていうと里村医師ですね。


「バネじかけのようにベラベラとよく回る口」も松尾スズキからの拝借で、元ネタは『母を逃がす』です(戯曲が手元に無いので引用できない)。


「妾」は語り口調でなくなるので、ここから夢Q文体はすこし薄まってます。まあここまでで充分世界観は構築できたかな、と思い……。


●As You Like(おこのみで)

 ここで気付きましたが(忘れてた)、英訳タイトルも一応単語数でシンメトリーになるようにしてるんですね。偉いぞ。流石に文字数までは揃えられなかったが……。


 これはおそらく性風俗従事者の曲で、「もともとこういう話」妄想がどんどん強固になります。あまりにも完璧にシンクロしている……(と思いながら書いてる)。いや、単に男をとっかえひっかえする女性の歌かもしれませんけど……。

“処はればお相手も變はつて往きます/虚構みたいに真赤のエナメル弐拾本揃ふ” これが2番の冒頭ですが、ちょうどこの話の後半部分の頭にうまくはめられました。

「退院したときは短かった髪がスッカリ伸びた頃」は1曲前・とりこし苦労の“髪 伸びにけり” をここで入れてますね。ちょっとズルですがまあいいでしょう。


「男」の登場があまりにご都合主義というか、ここちょっと圧縮しすぎたきらいもなくはないのですが、まあ本筋にはあまり関係ないのでいいかな……どうですかね……?


●Consciousness(意識)

 歌詞からの着想は“惹かれ合つてゐる” “君が愛した 僕” の要素を前半に、“子供を持てばやがて苦痛も失せるのか” “お母様 混紡の僕を恥ぢてゐらつしやいますか” あたりを後半に入れていますね。


 この話は急に脚本調になるところがトリッキーです。夢Qがこれと全く同じ手法をしてるかはわかりませんが、『ドグラ・マグラ』で急にキチガイ地獄外道祭文がぶっこまれる感覚に寄せているつもりです。


●Poltergeist(ポルターガイスト)

 これは原曲の男の一人語り形式をそのまま踏襲して、「妾の想像/記憶する僕の心情」という形で表現しています。

 歌詞も“前髪の成す造形に神経を奪はれて” “「今日は電車で!」” “颯爽と歩いては、キツと厳しい表情かほをしたのです。” “君を笑はす為に、微笑むでゐやうと思ひ、鍛へました。「ドーアの前にて!」” “君はひと足先に微笑むで、幻視をあたへました。「こんな僕に!」” と、かなり要素を入れ込んでいます。


 いよいよ「もともとこういう話」妄想がピークに達していたんでしょうね……。


●Funeral(葬列)

“今朝は妙なメイルを拝受しました。” で始まるこの曲なので、メール形式ですべてのネタバラシにするというのは最初から決めていました。

 歌詞そのものを引用してはいませんが、“其処に「出生の意志」が載つて居り、” “何處どこにも桃源郷が無いのなら、お造り致しませう。” あたりをイメージした内容になっています。特に “出生の意志” 、もう、「妙なメール」に「出生の意志」が書いてあることがオチになるなんて……! と、ここで「もともとこういう話」妄想が結実します。よかったね。

“未だ何の「建設も着工」してゐない、白紙に還す予定です。” というフレーズもこの後また1話に戻って最初からやり直し感ありますよね。


 実際複数の曲に「輪廻」というキーワードが出てるので、円環を意識したアルバムではあったんじゃないかとは思います。ただこの話を書くまでそれに気付かなかったし、なんならわたしは未だに妄想から抜け出せていないのかもしれません。


●またやりたい

 ということで念願のフルアルバムイメソン小説 feat. 夢Qが完成しました。

 1話ずつ書いて公開していたので、書いている最中は苦しかった気がするのですが、終わってみればめちゃくちゃ楽しかったし、いろんな好きな要素をサンプリングして作ってるので、ゼロから自分で作るよりよっぽどよく出来ているような気もします。

 サンプリングをオリジナルというのかという問題はありますが、まあ素人の趣味小説なので許されるのではないでしょうか。

 他人の思考や言葉をベースにすることで自分からは出ない発想が出る感覚があったのでまたやってみたいと思います。今度は歌詞のサンプリングを原曲の順番に合わせて、曲に合わせて朗読すると音ハメになる縛りプレイに挑戦したいです……できるのか?

 改めて企画主催の藤原埼玉さん、素敵な機会をありがとうございました!

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