持ち込み企画。スシンフリとアイリスと作者がクエナイエル戦を振り返ったみた。

 開かれた瞳はピンクから赤に変わり、その表情は穏やかなものから冷酷なものへと変化した。


「やっと出てこられたな」


 そう呟いたのは、リオと体を共有している交代人格のスシンフリ。

 目の前に広がる見覚えのある光景に、珍しく安心した表情を浮かべた高位錬金術師は念のため、両手を開いては閉じる動作を繰り返した。


 そんな中で、スシンフリは妙な気配を感じ取った。近づいてくる謎の気配と見覚えのある影が混ざったような感覚を味わいながら、黒色の槌を握る。

 すると、スシンフリの目の前に紫色のロングヘアの少女が現れた。ピンク色のフリル付きのアイドルドレスを着た尖った耳を生やす彼女の右隣には、見覚えのない黒縁メガネの優男もいる。


「アイリス。誰だ? その男は?」

 疑問を口にしたスシンフリに対して、エルメラ守護団序列15位の高位錬金術師、アイリス・フィフティーンはクスっと笑う。

「私のファンの方です。今日は持ち込み企画があるそうで……」

「某少年漫画のランク戦っぽい感想戦をやってみよう! 今日は、解説にスシンフリとアイリスを呼び、先程の戦いを振り返ってみる回なんです!」

「そういう趣向か」とスシンフリが呆れ声を出す。


 そんなことを気にしないアイリス推しの男は2人の高位錬金術師の間に立ち、話を続けた。


「では、早速ですが、先程の激闘の概要を振り返ってみましょう。突然、謎の女神に異世界へ飛ばされたリオは、ドンブリ頭の大男、クエナイエルと戦いました。戦いの舞台はパン工場。外には小麦畑が広がり、ゾンビが強制労働しています。その時、スシンフリは、女神が施した謎の術式の効果で、傍観を余儀なくされていましたね?」


「そうだった。暗い闇の中でリオが戦っている姿を見ていた」

 当時のことを振り返るスシンフリの隣で、アイリス推しが首を縦に振る。

「そういうだったんですね。それでは、序盤の戦いを振り返ってみましょう。序盤はリオが音楽を奏でました。それに合わせてクエナイエルが躍るという珍事も発生しましたが、アイリスはこの件をどう思いますか?」

「いつも通りだと思います。おそらく、弱体化と水弱点付与の効果を持つ2曲を同時演奏したのでしょう? リオちゃんとは何回か戦ったことがあるので、よく分かります。それにしても、敵はノリがいいですね。私と相対したら、ノリノリで盛り上がってくれそう」


「確かにそうですね。次に中盤戦。クエナイエルは、マストドンを召喚して工場内を逃げ回るため、全速力で走りだしました。マストドンとは、約4千万年前から約1万1千年前の地球のヨーロッパ大陸などで生息していた絶滅種。3メートルの巨大ゾウです。情報によると、クエナイエルは最後にドンが付くものを召喚できる能力を持っているそうです。リオは、見たことがない古代生物に対して、水弱点付与に徹すると決意。右手を使って、空気中の酸素を水玉に変換する術式を施しました。この場合、スシンフリだったら、どう戦ったのでしょう?」


「外にいるゾンビを傀儡で斬り、手駒を増やし、マストドン討伐。それから、すぐに逃げ惑うクエナイエルを斬り倒す。ボクならそうするさ」

 率直な意見を口にしたスシンフリに対して、アイリス推し男は首を捻る。

「そういえば、スシンフリはまだ高位錬金術を披露していないそうですね。アレを使わないのですか?」

「いや、クエナイエルはを使わなくても勝てる相手だ。リオが戦っている姿を見ていたから、よく分かる」


「なるほど、そうなんですね。そして、戦いはクライマックスに突入しました。召喚された古代生物を撃破したリオは、標的をクエナイエルに変更。その時、リオがいた空間の中にある酸素は全て水玉に変化していました。酸欠と動くたびに触れてしまう水玉で大ダメージを負い、動きも鈍くなるクエナイエル。そんな敵の眼前に瞬間移動したリオは、指先に浮かべた水玉で、ドンブリ頭を打ち砕き、見事勝利!」


「その戦法はステラを意識していますね!」

 そう楽しそうにコメントしたのは、アイリスだった。彼女は顎に手を置き、笑顔を浮かべている。

「同じ水を使った術式が得意な相手を意識したのでしょうか?」

「そうだろうな」とスシンフリが同意する。


「では、最後は総評です。今回の激闘をどう思ったのか? コメントしてください。まずはアイリスから」

「通常営業でしたね。突然異世界に飛ばされても、動揺することなく、いつも通りの戦い方で敵を倒す。リオちゃん、スゴイです!」

 アイリスが目を輝かせる。そんな彼女の笑顔からアイリス推し男は視線をスシンフリに向けた。


「次にスシンフリ。お願いします」

「よく1人で頑張ったと思う。流石はボクが認めた高位錬金術師……」

「ふふふ。リオちゃんのこと大好きだね!」

 アイリスがニヤニヤと笑うと、スシンフリの頬が赤く染まった。

「そんな……ことは……ない」

 スシンフリがアイリスから視線を逸らす。



 こうして、アイリス推し男を交えた感想戦は幕を閉じたのだった。

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リオ 山本正純 @nazuna39

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