珈琲は月の下で

PURIN

水はいずれ流れ出す

 夢で見た光景なんだと思う。




 薄暗く、両肩が壁に当たるほど狭いスペース。顔に触れる様々な布の感触。少し顔を上げてみたら、上から吊るされたたくさんの衣類。よく見知ったクローゼットの中。

 

 シャワーでも浴びた直後のように、全身が汗でびっしょりだった。

 顔を下ろした先に、体育座りの体勢になった自分の両脚が見えた。それらをまとめて動けないように固定するガムテープの無機質な茶色と、後ろに回された腕も同じ状態になっているのだろうという想像が、鼓動と全身の震えをさらに早める。

 大声なんて上げない。だから、せめて口のガムテープだけでも剥がしてほしい。大きく息を吐かせてほしい。そう願っていた。


 やがて。

 こちらを覗き込んでくる顔と目が合った。

 燈火ともか。嬉しそうな、けれどそれだけではない、何だろう、何という表情なんだろう、これは。

 

「やっと、また会えるな」


 恐怖の根源がそんな表情のまま、そう言ってこちらに向かって右手を伸ばしてくる。

 嫌だ。嫌だ。何するつもりなの、やめて……


 目の前が真っ暗になって……

 



 次に我に返った時、怯えていたのは燈火だった。

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