第四回 もう二度とない時間だから。


 ――突然に、そんな思いが僕を包み込んだ。



 八月三日……同日の午後。それは窓を開けたら穏やかな風。


 奏でる蝉時雨さえも、

 ……そう。森の中にある川のせせらぎのように穏やかな音。


 それに今日は月曜日。


 無性に……

 無性に、どこか遠くへ駆け出したくなった。


 今は誰もいないお家の中。


 今なら……

 今なら、僕を止めるものは何もない。



 ――お外へ。外の世界へ飛び出すチャンス。


 おおっ、到来到来到来! でも……



 でもね、バレたらママに怒られちゃうのよ。


 パパにだって……


 それでもいいの? 葉月。


 けどね、もう二度とないんだよ。僕にはもう、時間がないんだ……


 ママが帰ってくる前に、

 ここに、帰っていたらいいだけのことなの。


 パパは、お仕事。今日もお仕事で、ママよりかはずっと遅いの。

 ねっ、簡単でしょ。


 脚は動かないけど、僕には四つの車輪……前輪は小さくとも、後輪は……


 まだ動く僕の両手を使うと、とても頼りになる大きなものなんだから。



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