第136話 素材買い取りオークション
食事が終わると、ネストに案内されて別の部屋に場所を移す。といっても、案内された部屋は普通の部屋だ。真ん中に円形のテーブルがあり、それを囲う椅子の1つに腰を下ろす。
「じゃぁ、素材の試算が出たから分け前の話をするわね?」
「いよっ! 待ってましたぁ!」
パチパチと手を叩くバイス。ネストの一言でバイスとケシュアの表情は明るくなったが、それと同時に強張りもした。
「まずはケシュアの分ね」
ネストはテーブルの下から革袋を取り出すと、それをケシュアの前に置いた。ジャリッという聞き覚えのある音。中には恐らく金貨が入っている。
「ケシュアはギルドの依頼を見て来てくれたから、これはその分。ホントはギルドで支払うはずなんだけど、ちょっと予定が立て込んでるからここで受け取っちゃって頂戴」
「ええ。大丈夫よ」
ケシュアはその革袋をテーブルの上でひっくり返すと黙々と枚数を数える。
「おっけー。金貨100枚。確かに頂いたわ」
規則正しく並べられた金貨をテーブルの端から流すように革袋に戻すと、ケシュアはそれを足元へと置いた。
「じゃぁ、ここからが本題。総額金貨15000枚なんだけど、分配方法は九条に一任しようと思うの。皆はどう?」
「俺はそれで構わない」
「私もよ」
ネストに賛同するバイスとケシュア。そんなことより気になったのは、その総額である。
「15000枚!?」
「そうよ。ドラゴンの角に牙に鱗。それに金の鬣の毛皮と牙と爪……。あとは蛇皮かしら。とにかく全部ひっくるめて15000枚。全部金貨にしてもいいし、素材として買い取ってもいいわ」
「それを俺が決めるんですか!? 何故?」
「何故って……。あのデュラハンは九条が呼んだんでしょ? ほぼあなたが倒したと言っても過言じゃない。だからこそ分配の権利はあなたにあるわ」
「いや、だから言ったじゃないですか! あれは通りすがりのデュラハンなんですよ!」
「あんなのがウロウロしてるわけねーだろ!!」
「あんなのがウロウロしてるわけないでしょ!!」
バイス、ネスト、ケシュアが綺麗にハモると、カガリの上でミアは笑い転げた。
結局言い訳はこれしか思いつかなかったのだ。ケシュアだけでもと思ったのだが、ネストとバイスは素直に言って口止めした方が、変な噂は立たないだろうということになった。
逆にあんなものが街の近くをウロウロしていたら、街に人が寄り付かなくなるのは目に見えている。むしろ領主としては迷惑であろう。
「分配と言われてもよくわからないのですが……」
「なら細かい分配はこっちでやるわ。大まかに何等分するかだけ決めて頂戴」
「では、9で割って1人1666枚で……」
なんで9人で割ったのか。真っ先に気付いたのはケシュアだ。
「従魔の分を数に入れるのはずるくない!? ……あっ……」
ネストとバイスに睨まれ、声を潜めるケシュア。
そう、討伐前にケシュアが9人でと言ったのを思い出したのだ。もちろん本気ではなく冗談だ。
「いや、冗談ですよ冗談。素直に5等分にしましょう。1人3000枚で」
「ホントにいいの? 最初の案でも私は一向に構わないわよ?」
ネストの意見にバイスも力強く頷いたが、そんなことは出来ない。平等が1番だ。
「もちろんです。平等にいきましょう」
「いいわ。じゃぁ素材買い取り合戦始めましょうか。被ったらオークションでいいわね?」
「ああ」
「大丈夫よ」
説明を求めたかったのだが、口を挟むのが憚られるほどの気合がネストとバイスから痛いほどに伝わってくる。
「じゃぁ行くわよ? せーのぉ……」
「「ドラゴンの角2本!」」
ネストとバイスが真っ先にハモる。
「ちょっとバイス。たまには譲りなさいよ。ドラゴンの角が魔術的に見てもどれだけ重要か知らない訳じゃないでしょ!?」
「それはこっちのセリフだ。自前の盾は使えなくなったんだ。代わりの素材が必要なのくらい分かるだろ!?」
「それこそ盾にドラゴン素材なんか勿体ないわ。ミスリル程度で我慢しなさいな」
「盾の重要性が全くわかってねぇな? ドラゴンの盾なら
「大丈夫。もうそんな機会ないから。だからこっちに譲りなさいよ」
パンパンと手を叩き、注目を集めたのはケシュア。その顔はやけに嬉しそうである。
「はいはい、初っ端から被ったね。じゃぁオークションいくよ?」
ケシュアはネストの買い取り試算表を見ながら、場を仕切る。
「ドラゴンの角は単価2000枚だから――、2本で4000からスタートね?」
「5000!」「6500!」「7000!」「8500!」「10000!」「10500!」
どんどん吊り上がっていく金額。その様子をあっけに取られ見ていると、ケシュアは不思議そうな顔を俺に向けた。
「九条はドラゴンの角いらないの?」
「え? ああ、何に使えるかわからんし……」
「あんた、ホント何も知らないのね」
人をバカにしたような言い方ではあったが、ケシュアはなんだかんだで色々と教えてくれた。
冒険者の分け前の決め方や、今回討伐した素材にどれだけの価値があるのか等だ。
基本的に手に入れた素材やお宝などは全て売り払い、その金額を平等に分配するのがセオリー。
その中から欲しい素材があればそれを買い取り、その金額を分配金に上乗せするということも可能とのこと。
ケシュアが持っていた試算表が買い取り価格。実売価格ではその3倍から5倍の値で店頭に並ぶようだ。
だが、実際はそのほとんどが大手商会で武器や防具、アクセサリー等に加工してしまう為、素材そのもので出回ることは少ないらしい。希少な素材なら尚更だ。
というか貴族の金銭感覚がヤバイ。今の俺の全財産は、金貨100枚あるかないかだ。
それでも普通に暮らすのに何の不自由もない金額だが、既に金貨3000枚は貰えることが確定していて、しかも誰かが素材を買い取ればさらにそこに上乗せされていく。それは宝くじでも当たったのかと思うほどの額になること請け合いだ。
それはミアにも同じことが言える。ミアはギルドの依頼で担当として参加しているわけではなかった。なのでしっかり分配される。わずか10歳の子供が持っていい金額ではない。
「15000!」
「ぐぬぬ……」
「どうしたネスト? 降参か?」
ネストの顔が悔しさで歪み、一方のバイスは不敵な笑みを浮かべていた。
思いがけない金額にケシュアの口からは涎が垂れそうになっていて、その瞳はすでに金貨しか見えていない。
「ちょっと九条! バイスになんとか言ってやって!」
「おい! 九条を味方に引き込むのはなしだろ!」
流石に長い……。ミアは既にカガリの上で御就寝。競っているのはまだ最初の素材。このまま続けば、夜が明けてしまうのではないかと思うほど。
さすがにそれは勘弁願いたい。
「もう1本ずつ分ければいいんじゃないんですか?」
「ちょっと九条!?」
ケシュアが俺を止めようとしたのは、分け前が減ることを懸念したのだろう。
恐らくだが、ネストもバイスも既に予算はオーバーしている。ネストの後ろにいる使用人は金貨1万枚あたりから動揺を隠せておらず、ネストの肩を叩こうかどうか、迷っていた。
滅多に手に入らない貴重な素材だというのは、その白熱したオークション結果からわかることだが、2人とも熱くなり過ぎである。
俺の意を酌んでくれたのか、バイスは溜息と共に妥協案を出した。
「はぁ、仕方ない。1本ずつで分けよう。買い取り価格は売却相場の5倍、1本1万でどうだ?」
「異論ないわ」
結果として分け前は増え、ケシュアはホッと安堵した様子を見せた。
「すまんケシュア。もし差額が出るようなことがあったら、俺の分を減らして構わないから……」
「そんなこと出来る訳ないでしょ!? 九条から貰う訳にはいかないわ」
なんだかんだでケシュアは理解してくれていたのだ。
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