第116話 行方不明
次の日。いつものように食堂で朝食を取っていると、モーガンが顔を出した。
俺達と同じように、他の冒険者と被らないよう早めに飯を食べに来たのだと思っていたのだが、何処か様子がおかしい。
何かを探すようにキョロキョロと視線を泳がせ、俺と目が合うと足早に駆け寄ってくる。
「九条様。お食事中のところ申し訳ございません。今、大丈夫でしょうか?」
「話を聞くだけなら……」
面倒臭いなぁと思いながらも食事の手を止め、水で口の中の物を流し込む。
「九条様にお持ちいただいた冒険者達のプレートなのですが、どうやら1枚足りないようでして……」
モーガンが取り出したのは昨日渡したプレート。それを机に並べ始めた。
「……11……12……13……。と、このように1枚足りないのです。それで何かご存じではないかと……」
3枚のシルバープレートと10枚のブロンズプレート。
侵入者の数は確か14人だったはず……。しかし108番と獣達はダンジョンの死体は小部屋にまとめたもので全部だと言っていた。
「先に脱出して帰ってしまった……という可能性はないか?」
「はい。昨晩遅くではありますが、タイラーをベルモントへ確認に向かわせました。キャラバン脱退には申請が必要なので、先に帰っているのであればギルドに申請が出されているはず……。しかし脱出したまま逃げると言うのは考えにくいかと……。一応街道には馬車の護衛として6班を待機させていたので、そこに報告を入れるのが筋ではないでしょうか?」
「そうだな……。誰が行方不明か目星はついているのか?」
「足りないのはシルバープレートなので班長の誰かとしか……。1班のリーダーはタイラーで、6班のリーダーも健在です。なので2班から5班までの4名の内のいずれかだと思われます」
「その4名のそれぞれの特徴とか、何かないか?」
「2班のリーダーはアレンと言う男です。20代前半で長髪。銀製の弓を使っていました。3班のリーダーはシャーリーという女性です。髪は短めで短弓を……」
その名前に聞き覚えがあった。
「ちょっと待て! 今なんと言った?」
「髪は短めの女性で……」
「いや名前だ。シャーリーと言ったのか?」
「えぇ、その通りです。それが何か?」
バイスやネストと共にダンジョンの調査に来た冒険者の1人。
確かにシャーリーなら、炭鉱の道順を覚えていても不思議ではない。
だが、集められた死体の中に顔見知りはいなかった。
ということは、行方不明はシャーリーということで間違いなさそうだ。
「わかったぞ。恐らく行方不明はそのシャーリーだ」
「失礼ですが、その根拠は?」
「シャーリーとは以前会ったことがある。顔も覚えているが、炭鉱の死体の中にシャーリーの物はなかった」
「おぉ、なるほど。となると逃げだしたか、まだ炭鉱内を彷徨っているかですな」
徐々に話の内容が確信へと変わり始めたその時、食堂の扉が勢いよく開いた。
「タイラー! どうでしたか?」
夜通し馬を走らせていたのだろう。その疲れと眠たそうな顔で酷くやつれているように見えたが、仕事はこなしたといった満足そうな表情を浮かべていた。
「ベルモントのギルドにはキャラバンの脱退申請は出されていませんでした」
「そうですか……。ありがとうございますタイラー。これからどうなるかはまだ解りませんが、馬車でお休みになられてください。寝てもらって大丈夫ですので」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
タイラーは最後に軽く頭を下げ、去って行った。
「やはり、まだ炭鉱内ということになるでしょうか……。生死は不明ですが……」
「わかりました。俺がもう1度潜って探してみましょう」
「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ない……」
キャラバンの解散に当たって、ギルドに報告しなければならない項目の1つに死亡の有無というものがある。
その名の通り冒険者の生死を確認するものだ。
冒険者が死んだからと言って、必ずしもキャラバン側に責任があるとは限らない。
しかし行方不明は認められておらず、生か死かのどちらかでなくてはならないのだ。
全員が脱退申請をしない限りキャラバンの解散はできず、再結成も認められない。
キャラバンの解散ができなければ、所属している冒険者も新たに依頼を受けることは出来ないのである。
これはキャラバン側にも冒険者側にもメリットがあるルールの1つだ。
キャラバンから盗みを働く冒険者への対策でもあり、キャラバンの皮を被り冒険者に悪事の片棒を担がせない為の対策でもある。
次の仕事の為にも、行方不明では困るのだ。
朝食を食べるのを再開しつつ、どうするかを思案する。
といってもシャーリーを探すという選択肢しかないのだが、俺には1つ気掛かりなことがあった……。
まさかとは思うが、出来ればそうであってはほしくないと願う。
炭鉱は広大だ。恐らく探すのには時間が掛かる。
俺はレベッカに昼食用の軽食を新たに注文し、それを受け取るとカガリと共に炭鉱へと向かったのだ。
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