第110話 圧迫面接
全員が応接室に入室しソファに腰掛けると、ソフィアは暫く待つようにとだけ言って部屋を離れた。
10畳ほどの広さの部屋。背の低いテーブルを挟むように横長のソファが置かれている。
そこに出来るだけ偉そうにふんぞり返っている俺と、あまり目を合わせず申し訳なさそうに座る2人の男。
戻ってきたソフィアが連れてきたのはミアだ。
仕事に関わる話であれば担当は必要だろうと気を利かせ呼んだのだろうが、ファインプレーである。
ソフィアは俺の座っているソファの後ろに立ち、ミアは俺の横にちょこんと座る。
2人はミアを見て唖然としていた。胸のあたりを凝視しているのは、ミアの膨らみかけの小さな胸に興味があるわけではなく、光り輝くゴールドプレートの所為だろう。
常識的に考えて若すぎるのだ。
「貴様! ミアの胸を見ているな! セクハラだぞ!!」
それを聞いてミアは自分の胸の辺りを手で覆い隠し、商人達は慌てて弁解する。
「い……いえ……違います! 決してそのようなことは……。わたくし共はその……プレートが気になってしまって……」
「ご……誤解を招きかねない行為……。誠に申し訳ございません……」
勿論わかっている。こちらが言いがかりをつけているだけ。
しかし、話し合いの主導権を握る為にも必要なことだ。
後ろからは、声に出さぬよう必死に笑いを堪えている気配が伝わってくる。
「ふん、まぁいい。始めよう」
「あっ……。わたくしカーゴ商会で商人をやらせていただいております。モーガンと申します」
「自分はキャラバンのリーダーを務めている、冒険者のタイラーだ」
「九条だ」
「おにーちゃんの担当のミアです」
「おにーちゃん……?」
「ああ、気にしないでくれ」
身を乗り出し握手を交わす。相手は明らかに困惑しているのが見て取れた。
挨拶は大事だ。第一印象で今後の全てが決まると言っても過言ではない。
しかし、いきなりセクハラを疑われてしまったのは2人にとって痛手であろう。
俺に対する第一印象は最悪だ。相手がどうやって巻き返して来るのか見ものである。
「それで? 要件と言うのは?」
「貴殿が所有している西の炭鉱への入場許可を頂きたく参った次第でして……」
「理由は?」
「只今わたくし共はキャラバンとして活動しておりまして、ウルフ狩りの最中なのですが、そのウルフ達が貴殿所有の炭鉱を住処にしているようなのです。ですので入場許可を頂ければ、わたくし共が炭鉱に蔓延ったウルフ共を狩り、貴殿の代わりにお掃除をと……」
「必要ない。そもそもこの村ではウルフの狩りは禁止されている。お引き取り願おう」
「ええ、存じております。ですがわたくし共は村に住んでいるわけではないので……」
「わかっている。無理に村のルールを押し付けたりはしない。だが、入場は許可できない。こちらにもそれ相応の理由がある。諦めろ」
モーガンは渋い顔をしつつもため息をつくと、その表情が一変した。
「……はぁ……。まぁこうなる事はわかっていました……。単刀直入に言いましょう。入場料はおいくらになりますか?」
モーガンは、全てを見透かしているとでも言いたげにほくそ笑む。
結局はカネなのだ。カネは全てを解決する。そう思っているのだろう。
「カネの問題じゃない!!」
ワザと声を荒げ、盛大にテーブルを叩く。
不敵な笑みを浮かべていた商人の顔は青ざめ、その態度を急変させた。
「も……申し訳ございません。出過ぎた真似を……」
「……仕方ない、何故入場を拒むのか教えてやろう。貴公はこの村の伝承を知っているか?」
「いえ、存じ上げておりませんが……」
「そうか。ミア、話してやれ」
ミアは無言で頷き、この村に伝わる伝承を語った。
グラハムとアルフレッドを追い返す為に作った村の守り神様の話だ。
「——はぁ。……それが何か?」
「その魔物が長い時を経て復活したということだ。プラチナプレートの俺でさえ手を焼いている魔物。故に入場許可は出せない。お前達の命を心配して言っているんだ。死にたきゃ勝手にすればいい。その代わり責任は取らないからな」
こんな突拍子もない話を信用するとは思えないが、プラチナプレート冒険者がそう言っているのだ。半信半疑になるくらいでよかったのだが、相手は顔面蒼白である。
「ちょ……ちょっと失礼します」
冒険者のタイラーがそう言うと、ひそひそとモーガンに耳打ちする。
それは聞こえないようにというより、俺の機嫌を損ねない為のものだろう。
「残念ながらシャーリーの言っていることは間違いないでしょう……。ここは諦めた方が……」
「うむ……命あっての物種だ……。仕方ないか……」
モーガンとタイラーは俺に向き直ると、深々と頭を下げた。
「失礼しました九条殿。我々の身を案じて下さっていたとは痛み入ります。我々ではどうしようもない相手のようだ。炭鉱は諦め別の目標を探すとします」
プラチナプレート冒険者というだけで、こんなにも聞き分けが良くなるのかと驚くほどだが、後はキャラバンが引き返すのを待っていれば問題解決だろう。
ひとまずは安堵し、ようやく肩の荷が下りたと立ち上がろうとしたその時。耳を疑うような報告が脳内に響き渡った。
(マスター、侵入者です……)
「なんだと!?」
大人げなく声を張り上げる。その声は食堂にいたレベッカにも聞こえたほどだ。
14人の侵入者。それが108番からの報告だった。
ミアとソフィアは驚きのあまり俺の顔を見上げ、モーガンとタイラーは何か失礼なことをしただろうかと、過去の発言を思い返していた。
「お前たちの仲間は何人だ! 14人か!?」
強い口調に気圧される2人。
話の脈絡がなく不思議そうな顔をしていたが、俺の顔を見て即座に口を開いた。
「私を含めれば21人です。私とタイラーはここにいますから、それ以外ですと馬車の見張りで5人、残りの14人は炭鉱の前で待機のはずですが……」
「そいつらだ……」
「は?」
「その14人が炭鉱内に侵入した」
108番から報告が来たということは炭鉱はすでに抜け、ダンジョン内にまで侵入されているということだ。状況は一刻を争う。
「まさか!? 許可が下りるまで入るなと伝えたはずだ!」
モーガンもタイラーも困惑気味。嘘ではないのだろう。無断で入るなら、そもそも許可なぞ取りに来ないはず。
現場の独断といったところか。
「それは本当なのですか!? 何かの間違いでは?」
モーガンは必至だ。プラチナプレート冒険者の信用を著しく損なう行為は自分のみならず、商会の評判をも落とす行為。そう捉えても不思議ではない。
「……俺を疑うのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「まぁいい。行ってみればわかることだ。さっさと行くぞ。仲間がどうなってもいいのか!?」
口では冒険者達のことを心配しているように装ったが、心配しているのはむしろ獣達の方だ。
何故炭鉱の迷路を迷わず突破出来たのかは不明だが、このままでは白狐やウルフ達が危ない。
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