第109話 キャラバン

 次の日、冒険者達がそれぞれ依頼を受け、ギルドが落ち着いたのを見計らって顔を出した。


「こんにちはソフィアさん。何かわかりました?」


「ああ、九条さん。お待ちしてました。ちゃんと聞いておきましたよ」


 ソフィアがカウンターの下から取り出したのは1枚の紙。そこにはキャラバンの募集要項が書き記されてあった。


『カーゴ商会によるキャラバン結成につき、期間限定冒険者の募集』

 ウルフ製品の需要増により高騰している素材の回収を目的とするキャラバンを設立。


 募集人数:狩猟適性を持つブロンズ以上の冒険者。上限20名。

 日程:最低でも15日拘束。(50匹程度の討伐で早期終了の可能性あり)

 報酬:最終日にお支払い。金貨25枚+出来高(努力次第で金貨40枚も可能!)

 備考:朝晩の食事付き、宿泊装備支給(野外テント+寝袋)、キャラバン未経験者も歓迎、アットホームなキャラバンです。


「本部に問い合わせたところ、キャラバンカラーはグリーンで登録されているようなので、緑の腕章を付けているならこれで間違いないかと」


「ありがとうございます。それにしてもウルフ討伐で金貨25枚ですか……」


「そうなんですよ。気になって色々と聞いたんですが、逆に怒られてしまって……」


「え? 何故です?」


「ウチがウルフ狩りを止めてしまったというのもあって、相場が高騰しているみたいなんですよね」


「あっ……」


「あっ、いえ、九条さんの所為じゃないですからね? 気にしないで下さいね?」


 気まずい雰囲気にわちゃわちゃと焦るソフィアは機嫌を悪くしないようにと若干フォローを入れつつも、タイミングが悪かったとも話した。


「ウルフ素材の産地は他にも何カ所かあるんですけど、ベルモントの南西辺りで魔獣騒ぎがあるらしく、そちらでもウルフ狩りを一時的に中止しているみたいで、需要に追い付かなくなっているみたいなんです」


「その魔獣ってのは?」


「はい。詳細はわかりませんが、現在緊急案件でゴールドの冒険者が指揮を執り討伐が行われているみたいなので、いずれ収まるかと思われます」


「そうですか……」


 恐らくその魔獣というのがコクセイ達の言っていた金の鬣きんのたてがみという奴なのだろう。

 やはり当初の予定通り、討伐されるまでダンジョンで匿っておくのが得策か……。

 考え込む俺を見て心配そうにしていたソフィアは何かを閃いたらしく、ポンっと手を合わせると笑顔を見せた。


「そうだ! ネストさんにこの辺り一帯を禁猟区に指定するように頼んでみては?」


「ああ、なるほど。確かに領主であれば可能かもしれませんね」


「でしょ?」


「ありがとうございますソフィアさん。相談してよかった」


「いえいえ。また何かあればいつでもどうぞ」


 ネストに助けを求めるとなると、王都スタッグまで足を運ばなければならない。

 ミアを連れて行かなければならない為、別途休暇を取る必要があり時間が掛かる。

 カガリに手紙を持たせて行ってもらうという方法も考えたが、カガリはネストに近づけないからな……。

 そもそもネストがこの提案を受け入れてくれるかもわからない。領主の娘とはいっても出来ないこともあるだろう。

 出来れば人に迷惑をかけないよう解決を図りたいが……。

 そんな事を考えながらギルドの階段を降りていくと、2人の男性とすれ違った。

 1人はこの村では見かけない冒険者。シルバープレートに革製品の鎧を身に着けた狩人風の男。歳は40代で無精髭が良く似合うワイルドなおっさんだ。

 もう1人は商人で隣の冒険者と同じくらいの歳。腰のベルトからは複数の革袋がぶら下げられ、肩にはケープ、頭にはバレット帽を被っていた。

 肩がぶつかりそうになるのを、ギリギリで躱す。

 考え事をしていた俺が悪いのだが、ぶつからずに済んで良かったと安堵していると、チラリと見えたその腕には緑色の腕章が巻かれていたのだ。

 そのままギルドへと入って行く2人。

 俺はこっそりギルドへと戻ると、一般冒険者のフリをして依頼掲示板の前に立ち、ソフィアとの会話に聞き耳を立てた。


「すいません。ここにプラチナプレートの冒険者が在籍していると聞いたのですが……」


「はい。在籍はしていますが、面会には領主様の許可が必要になります。許可証はお持ちではありませんか?」


「なんだと!? それは知らなかった……。どうするべきか……」


「ちなみに領主様は今どちらに?」


「えーっと。王都かノーピークス、どちらかに滞在されていると思いますが……」


 それを聞いた男達はカウンターを離れ、ヒソヒソとやり取りをする。


「どうします? 今更目標を変えるのも……」


「そうだな……さすがにここからだと遠すぎる……。しかし、洞窟から出て来ると思うか?」


「いえ、人間の匂いがすればウルフ達は警戒するはずです。出てこない確率の方が高いですね」


 やはりウルフを狩っているキャラバンというのは彼等で間違いないようだ。

 俺を探しに来たという事は、既に炭鉱にウルフ達がいることを知っている。

 恐らくは弓適性の索敵スキルを持ち合わせているのだろう。炭鉱の入場許可を求めに来たと考えるのが妥当だ。


「九条さんに用事でしたら、言伝であればお預かりすることは可能ですが……」


「え? あ……あぁ。ではお願いします。九条様の管理されている炭鉱跡がありますよね? そこの入場許可を頂きたいと……」


「いや、その必要はない」


 振り返る男達に真剣な表情を向ける。


「お前は?」


「俺が九条だ」


「おお、丁度良かった。今そなたの話をしていたところだが……。……本当にプラチナプレートなのか?」


 あ……忘れてた……。

 疑いの目を向ける商人に、ポケットの中から取り出したプレートを見せる。


「おお、これはまさしく。失礼致しました」


「ソフィアさん、応接室は空いてますか?」


「ええ、大丈夫です。……こちらへどうぞ」


「ここでは何ですので、応接室にてお話をお伺いしますよ?」


 ぎこちない笑みを浮かべる2人は安堵と同時に、若干の緊張も見せていた。

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