第17話 スキル
荷車に乗っていた全てのブロックを敷き詰め終わり、夕日に照らされた街道を慎重に進む。
「昼飯は半分しか食えなかったが、仕事も終わって街道も綺麗になったし、ウルフの討伐報酬も貰えて一石二鳥だな」
「一部、血だまりが出来てるけどね」
「うっ……」
全てのウルフを倒したはいいものの、運ぶには荷車に乗せなければならない。
だが、ウルフの死体からはどくどくと血が流れていて、そのまま乗せれば借り物の荷車を汚してしまう。
そこで、ウルフ達の血抜きをしたのだ。
それが皆同じ木に吊るしてやったもんだから、そこだけ血の池みたいになってしまっていた。
「まぁ、怒られたら謝ろう……」
「そういえばおにーちゃん。スキル使わなかったね」
「スキルってなんだ?」
「スキルはスキルだよ? 技って言えばいいのかな? プレートにその人が使えるスキルが登録されてて……。説明聞いてないの?」
「初耳だが……」
「えぇ……。プレート渡す時に教えないとダメなのにぃ」
ソフィアから聞いているはずだったらしい。
もしかしたら、スキルが使えればもっと楽にウルフ達を撃退出来たかもしれないとも思ったが、正直そこまで苦戦した訳でもなかったので、それほど気にしてはいなかった。
「じゃぁ、ここで教えてあげる。ちょっと端っこで止まって」
街道の端に荷車を寄せて止める。
「利き腕じゃない方でプレートを触って。そしたら目を瞑ってプレートに意識を集中して。そうすると頭の中に何か浮かんでこない?」
頭の中に浮かんできたのは2つのスキル。ロングレンジショットとマルチレンジショットだ。
「それが、今おにーちゃんが使えるスキルだよ。頭の中でスキルの名前を思い浮かべれば、どう動けばいいかわかるはずだけど……。……あ、試すならこっち向いてやらないでね」
言われた通り、頭の中で思い浮かべてみても、正直何もわからない。
名前からの推測であれば、長距離射撃のようなものであることはわかるのだが……。
「物は試しだ」
ミアと荷車、それと折角直した街道の床が壊れないように、森に向かって棒を構え、集中する。
「いくぞ」
ミアは両手で耳を塞いだ。戦闘講習を思い起こしたのだろう。
「…………」
九条の頬に、一筋の汗が流れる。
「おにーちゃん?」
「わからないんだが?」
およそ1分ほどだろうか。何度か頭の中で繰り返しても、スキルというものが出る気配はない。
「まじめにやって?」
真面目にやってるんですけど……。
「もう片方のやつでやってみる。いくぞ?」
……結果は先程と同じだった。
「おにーちゃん。怒るよ?」
「いや、待ってくれ。ホントに真面目にやってるんだがわからないんだ……。スキルを出す時にプレートを触ってないとダメとか、声に出さないとダメとかなんじゃないか?」
「そんなことないよ。プレートは登録の為だけで、なくてもスキルも魔法も使えるもん」
「でも、ソフィアさんもミアも魔法使う時はプレート触ってるよな?」
「それは履歴を残す為なの。冒険者さんと依頼を遂行した時に、どんな魔法を使ったのかとか、冒険者以外の人に魔法をかけた時にお金を貰ったりするから、その証拠を残しておく為に触るの」
なるほど、そんなシステムなのか。
ギルド職員の魔法やスキルの使用は、常に報告しているということのようだ。
「そんなことより、おにーちゃんだよ。スキルなんだったの?」
「ロングレンジショットと、マルチレンジショットだ」
「……あれ? おにーちゃんって遠隔系適性って持ってないよね?」
「遠隔系ってのがよくわからないが、言われたのは死霊術と鈍器だけだが……」
ミアは顎に手を当てると、不思議そうに首を傾げた。
ミアには少々似合わない真剣な面持ち。
「死霊術の方で使うスキルなのかな……。うーん。わかんないや……」
「ひょっとしたら、骨を投げるスキルなんじゃないか?」
「えー……。そんなのあるかなぁ……」
ミアの反応はあまり良くない。
死霊術と呼ばれるくらいなのだから、きっと魔法の一種なのだろう。
だが骨を投げるとなると、どう考えても物理方面な気がしないでもない。
「ウルフの死体いっぱいあるし、この骨でやってみる?」
さすがミアだ。ナイスアイデア――と思ったが、荷車に重なり合っているウルフの亡骸を見て、考えが変わった。
「いや、やめよう。査定に響く……」
今はスキルよりお金の方が大事なのである。
「じゃぁ裏口にいるから、報告してきてくれ」
「はーい」
ミアは元気よく返事をすると、報告の為ギルドへと戻って行く。
俺は昨日のように、ギルドの裏口に回って査定待ち――なのだが、昨日ほどは待たなかった。
ソフィアがすっ飛んで来たからである。
「ホントだ……。あっ、ケガとかないですか? 大丈夫ですか?」
「ええ。俺もミアもケガはないです」
「おにーちゃん強かったよ?」
「そーですか……。ひとまず無事でなによりです……」
安堵の表情を浮かべるソフィア。
「で、何匹相手にしたんですか? こんなに狩ってきたなら相当数に囲まれたと思うんですけど……」
「これで全部ですが?」
「え?」
「8匹に囲まれて、8匹倒したんですけど……」
「それはおかしくないですか? 普通は何匹か倒せば敵わないと思い、逃げて行くと思いますが……」
「そうなんですか? ウルフの習性は知りませんが、ホントに全部襲ってきたんですよ。最後の1匹まで……。なぁ、ミア?」
「うん」
「そうですか……。まぁ、でも2人とも無事で良かったです。このことはあとで少し調べてみますね」
昼間の街道でウルフが人を襲ったという話は、今回が初めての事らしい。
ギルド本部には一応報告を入れるとの事だが、正直そんなことはどうでもよかった。
早くウルフの査定をしてくれ!
結局、ウルフの査定は金貨20枚。もうちょいいくかと思ったが、仕方ない。
毛皮の状態を気にするほどの余裕はなかった。
ともかく、これでミアから借りていたお金を全額返済出来る。
もう少し時間が掛かるかと思っていたが、あっさりと返済出来たので、案外異世界での生活も慣れれば快適かもしれないと思い始めていた。
そして明日は、初めての休日。
というのも、ミアが休みの日には村の外に出る依頼を受けることが出来ない為、冒険者と担当の休みは、基本同じなのだ。
もちろん俺が望めば、担当の必要ない依頼は受けることが出来る。
ミアに返済したお金を除くと、残りは金貨2枚。明日はこれで買い物へと繰り出すのだ。
必要なのは服と靴。優先度から言えばまずは靴である。
それと時間があればギルドで地図を見せてもらい、ミアがよければ昨日出来なかった炭鉱の下見にでも行こうと思う。
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