第13話 初仕事
2階に降りると、数人の冒険者が掲示板を見ていたり、カウンターで依頼を受けたりと昨日よりは賑わっていた。
カウンターにはソフィアとミア。知らないギルド職員もいるが、皆忙しそうだ。
「今日は結構人いるな……」
ソフィアに声を掛けたかったが、どうやら他の冒険者の相手で忙しそうだったので、手が空くまで時間を潰そうと依頼掲示板を眺めていた。
鉱石の運搬、薬草の採取、倉庫の片付け、作物の収穫、などなど。
色々な依頼があるが、なんというか冒険者ギルドというより便利屋といった感じ。
どうやら右側に貼ってある依頼ほど新しい依頼で、左側にいくほど期限の迫っている依頼、という風に分けられているようだ。
掲示板の端には賞金首のリストも貼られていて、その似顔絵は賞金首というだけあって強面ばかりが並んでいる。
「お、にぃちゃん
掲示板を見ていた戦士風の中年男性は、1枚の依頼書を手に取り差し出した。
『ウルフの討伐、1体につき金貨2枚、良質な毛皮であれば、1枚に付き追加で金貨1枚。森に生息するウルフ種の間引き。難易度:D』と書いてある。
「あ、いや、俺は……」
急に話しかけられ、どうしていいかわからずあたふたしていると、それに気付いたソフィアがカウンターから声を上げる。
「あ、その人”専属”なのでパーティは組めませんよー?」
「ん? あぁそうか。にぃちゃんがあの新人か。……なるほど。確かに魔術系適性にしては筋肉ついてると思ったぜ」
男は何かを確認するように俺の体をベタベタと触るも、突然のことに驚いて一歩引いてしまう。
「ガハハ、そう脅えるなよ。悪かったな、がんばれよ"村付き"」
持っていた依頼書を掲示板に戻した男は、かわりに『王都スタッグまでの護衛』という依頼書を持ってカウンターへと行ってしまった。
その様子に唖然としていると、カイルがギルドへとやってくる。
一緒にいるのは知り合いの冒険者だろうか?
「おっす。早いじゃないか」
「おはようカイル。そんなに早いか?」
「あぁ、ウチら"村付き"に回ってくる仕事は一般の冒険者の依頼受付が終わった後だからな。新しい仕事は、朝一で貼り出される。だから冒険者は朝一に仕事を受けに来るんだ。その方が旨い仕事にありつける可能性が高いからな」
なるほど。だから昨日は誰もいなかったのか。
「そうだ、紹介するよ。コイツもウチらと同じ"村付き"のブルータスだ」
「よろしくお願いします」
「ああ……」
ブルータスと呼ばれた男は不愛想に挨拶を返す。
歳は俺より少し上だろうか。首から下げているプレートはブロンズ。
恰好は冒険者なのだが、一歩間違えるとその辺のゴロツキといわれても納得の強面だ。顔の傷がそれに拍車をかけている。
カイル曰く、数週間前に"村付き"として登録したらしい。別の町でも冒険者としてやっていたので、ベテランなのだそうだ。
さらに20分ほどが経つと、ギルドは俺達を残してもぬけの殻となった。
「そろそろかな……」
カイルがぼそりと呟くと、ソフィアがカウンターから顔を出し、俺達を呼んだ。
「おまたせしました。”専属”さん用のお仕事割り振りますので、こちらへどうぞ」
座っていた長椅子から立ち上がり、カウンターへと向かう。
「えーっと。では、カイルさんから。本日は、食堂からの依頼で『野ウサギの狩猟』をお願いします」
「了解。だが野ウサギはちょっと厳しいかもな。最近はウルフが増えて来ててな」
「あ、そうだ。ウルフの討伐でも構いませんよ? 今日から依頼が出てると思うので」
「わかった。じゃぁ今日はウサギとウルフで」
「はい、よろしくおねがいします。いってらっしゃい」
ソフィアはニコリと微笑むと、カイルは片手を上げて返事をし、階段を降りて行く。
「えーと、ブルータスさんは『門の修繕工事』をお願いします」
「東、西どっちだ?」
「あ、すいません。東側をお願いします」
「チッ……」
軽く舌打ちをすると階段を降りて行くブルータス。
最低限というか、少々粗暴なのではないかとも感じるやり取り。
「あと、九条さんにはですね……」
「カイルは村の外に行くみたいだが、担当は一緒にいかなくていいのか?」
「ええ。支部長の私はあまりギルドを離れられないので、基本的には信頼度の高い冒険者さんしか担当になれないんです。なので、村の外でも近ければ担当なしでも活動出来るんですよ?」
確かカイルはここの村の出身だと言ってた。
ずっとこの村で冒険者をやってきたのだろう。そう考えると信用度の高さには納得がいく。
「えっと、九条さんにやってもらう依頼は……。これです」
ソフィアがカウンターの上に置いたのは長方形の木製の箱。
その素振りから、結構な重量の物が入っているような雰囲気。
「開けてみても?」
「えぇ、どうぞ」
箱の蓋を開けると、中には年季の入ったトンカチと、お世辞にも綺麗とは言えないデコボコの釘が多数。ずばり工具箱だ。
「これで何をすれば?」
「昨日壊した、村の壁の修理が今日のお仕事です」
「あっ、はい……」
最初の仕事は、自分の尻ぬぐいである。
まぁ仕方がない。文句の言える立場ではないのは百も承知だ。
「では、村のはずれにある石材店から材料を受け取って、それで壁を直していただければ大丈夫です。石材店には話を通しているので、壁の修理でって言えばわかると思います」
「わかりました。えーっと、ミアは?」
「今回のお仕事は村から出ないので、担当は連れて行かなくて大丈夫ですよ? それに、まだミアは昨日のお仕事が残ってますので……」
終始笑顔で話していたソフィアだったが、最後は目が据わっていた。
昨日ミアが仕事をサボって風呂に入った事を、根に持っているようである。
「そ……そういえばそうでしたね……。じゃぁ、いってきます」
「はい。よろしくお願いします」
石材店までの地図を確認し、ギルドを後にする。
ガブリエルはミアからあまり離れるなと言っていたが、実際どれくらい離れるとまずいのだろうか。
村の外での依頼なら一緒にいることも可能だろうが、今回みたいに村の中の仕事となると一緒にいることは出来ない。
そんなことを考えながら歩いていると、昨日の武器屋が見えてくる。
裏の壁には俺が開けた穴が、ぽっかりと開いていた。
申し訳ないと思いながらもそそくさとそこを通り過ぎ、足早に石材店を目指す。
途中、後方から微かに聞こえる話声に気が付き振り返ると、そこには村の子供達がいた――ように見えた。
何故か民家の裏へと隠れてしまったのだ。
気にせず歩き出すと、またしてもこそこそと話声が聞こえ、振り返ると何処かへ隠れる。
気にはなるが、ひとまず与えられた仕事が優先だ。
そんな子供達とのやり取りを繰り返しながらも石材店へと辿り着くと、店主は外にある荷車にすべて用意してあると教えてくれた。
中には水が入っているであろう大きな革袋。セメントに角材や木の板。そして木製の桶に梯子だ。
荷車に材料が揃っているのを確認し、武器屋に向かって荷車を引く。
暫くすると、またしても先程の子供達の気配を感じた。
恐らくは、かくれんぼ的な遊びだろう。ほんの少しだけからかってやろうと思い、ギリギリまで気づかないフリをしてから、子供達との距離をダッシュで一気に詰めてみた。
「「わぁぁぁぁ! 破壊神が来たぁぁぁぁぁ!」」
逃げ惑う子供達に、ドン引きする俺。
そこまで本気で逃げなくても……。
「ていうか破壊神て……」
「ちょっとあんた! 子供達を怖がらせちゃダメじゃないか!」
「あっ、ハイ。すいません……」
畑仕事をしていたおばちゃんに怒られてしまった……。
怖がらせたかったわけじゃない。ちょっと遊んでやろうと思っただけなのだが、それにしても破壊神て……。
昨日の講習を見ていた子供達の誰かが名付けたに違いない。出来れば恥ずかしいので止めていただきたいが、相手は子供だ。その内飽きて忘れるだろう。
武器屋に着くと、裏庭に入る許可を得てから壁の修理作業に入る。
壁は3メートルほどで、丸太を縦に半分に割り、表裏交互に隙間なく並べて楔で繋ぎ止めてあるという感じだが、これで村全体を覆っているのだ。
重機のない世界で、これは相当な労力が必要だろう。
幸いこの手の作業は前の世界ではよくやっていたので、問題はなさそうである。
実家の寺も中々に古い建物なので、ちょくちょくDIYで補修作業をやらされていた。
両側から木の板で蓋をして、中に水とセメントを混ぜて作ったモルタルを流し込めば終了。
後は3日ほど待って、モルタルが固まったのを確認したら板を剥がして完成だ。
手慣れた作業だったので、1時間ほどで終わってしまった。
後は荷車を石材店に返却するだけなのだが、その途中にも子供達は俺を尾行するかのようについて来る。
もう1度脅かしてやろうかと機会を窺っていたのだが、こちらを見る村人の目が気になってしまい、結局それは未遂に終わったのだ。
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