第114話 モーガンの思惑
鬱蒼と生い茂る木々達には夕陽の光も敵わず、一足先に雰囲気は夜。そろそろ松明が必要だ。
炭鉱前へと辿り着いたモーガンとタイラーは愕然としていた。
そこに待機組の姿はなく、周りには大勢の人が踏み固めたであろう潰れた草木の痕跡が残されていただけだったのだ。
「だから言っただろ」
「そんな……」
「あいつ等……。勝手なことを……」
命令違反に憤り、ワナワナと打ち震えるモーガン。
「ミアとカガリはここで待っててくれ、俺は中の様子を見てくる」
「気を付けてね。おにーちゃん」
心配そうに俺を見つめるミア。その頭やさしく撫でると、心配ないと笑顔を向けた。
「九条。私も行こう」
「いや、大丈夫だ。俺に任せろ」
「いやいや、リーダーとして仲間達の危機を見過ごす訳にはいかない!」
言葉の通り仲間の為だと考えているのか、少しでも罪を軽くしようとしているのかは不明だが、俺にとっては邪魔な存在でしかない。
先行しているだろう14人よりも先に7層に到達しなければならないのだ。
リビングアーマーが倒されてしまえば、全てが水の泡である。
「死ぬかもしれないんだぞ!?」
「覚悟の上だ! 確かに私はシルバープレート。九条には敵わぬが、足手纏いになるようならその場で見捨ててもらっても構わない!」
もうここでグチグチ言ってる時点ですでに足手纏いであり、今すぐにでも見捨てたい。
しかし、怪しまれず断る理由は思いつかず、連れて行くしか道はない。その上で出来るだけ急げばいいと腹を括った。
「よし、わかった。遅れるなよ? まずは中の様子がどうなってるか教えてくれ」
言われてトラッキングスキルに意識を向けるタイラー。
「ウルフ達が……50以上……。それと……——ッ!?」
タイラーは急に眼を見開き、後退っていく。
「どうした?」
「九条! 中に凄まじい強さの魔物がいるぞ!?」
「……は?」
「いや、だからヤバイ魔物がいると言っているんだ!」
「知ってるけど……それが何か? さっき言っただろ?」
恐らくリビングアーマーの事を言っているのだろう事はわかるが、そんなにも驚愕する程だろうか?
時間がないと言っているのに、タイラーは何故か俺を見つめたまま喋らない。
仕方がないので松明を準備していると、ようやくタイラーが動き出した。
「……あっ……ああっ! きゅ……急にお腹が!! タハーッ!」
腹を抱えて身をよじるタイラー。
「どうした? 大丈夫か?」
「急に腹痛が……。昼に何か悪い物でも食べたかな……。イタタ……」
「ミア。治してやれ」
「うん、わかった」
「いや、大丈夫! 大丈夫だ! すぐに収まる! ただちょっと九条に同行するのは止めておこうかな……大事を取って……。うん、残念だが仕方ない。それがいい」
その場にいた全員が、タイラーを白い目で見ていたのは言うまでもない。
そんなバレバレな仮病であったが、俺にとっては丁度良かった。これで最速でダンジョンへと潜っていける。
「じゃぁ、行ってくる」
炭鉱を慎重に進んでいるように見せかけ、最初の角を曲がったところで、魔法書から1本の獣骨を取り出す。
「【
俺は召喚されたデスハウンドに跨ると、炭鉱を駆け抜けた。
ケツの痛みなど気にしてはいられない。悠長に進んでいる時間などないのだ。
――――――――――
九条を見送ったモーガンは地面に膝をつき、この世の終わりとでも言いたげな表情で項垂れていた。
冒険者達のしでかしたことは、キャラバンの責任者であるモーガンの信頼を裏切る行為。
たとえ彼らがウルフを狩り、無事に戻って来たとしても叱責は免れない。
しかし、そんなことよりも重要な問題にモーガンは頭を悩ませていた。
それは九条との友好関係を築けなかったこと。もう挽回出来る要素はないと言っていい。
不法侵入。文句なしに非があるのはキャラバン側。やっていることは泥棒や盗賊と同じである。
モーガンには冒険者の生死なぞ最初からどうでもよかった。憂慮すべきところはそこではないのだ。
モーガンは常に先を見ている。プラチナプレート冒険者と商人との関係、そこに商機があった。
有り体に言えばスポンサー契約。人気のある冒険者に武器や防具、アイテムなどを提供することにより、それを宣伝してもらうのだ。
それがプラチナプレート冒険者であれば、売り上げが倍増……いや、爆増するのは間違いない。その額は、ウルフ素材の末端価格なぞ軽く凌駕するだろう。
そういう理由もあったからこそ、モーガンは潔く炭鉱を諦めたのだ。
(キャラバンは解散し、冒険者達には違約金を払えばいい。そんな端金、九条とのスポンサー契約が取れるのであれば安いものだ)
今回はプラチナプレート冒険者との面識が出来ただけでも十分な成果であった。
九条との関係を深めていけば、カーゴ商会内での自分の地位も上がる。
モーガンはそこまで考えていたのだが、最早その計画は冒険者達の暴走により諦めざるを得ない状況になってしまっていたのだ。
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