第五十七髪 皆がため 恥をしのんで 大演出

 演説が無事終わり、一旦いったん大神官だいしんかん専用の控室ひかえしつに戻った慎太郎は、豪奢ごうしゃ椅子いすに半ば身を投げ出すような形ですわり、疲労困憊ひろうこんぱいの表情を浮かべていた。


「やりすぎましたな」


 となりにちょこんと座る二メートルサイズのルピカがぽつり、とつぶやく。


「ああ、自己嫌悪じこけんおだよ」


 慎太郎のめ息は止まらない。

 今、人々が目にしている現実は、暗い。

 すでに何日も空は暗く閉ざされ、定刻ていこくになれば黒き神が一歩を進めるほろびの地鳴じなりが都へと届く。

 ついにその姿は、はっきりと見えるところまでせまってきた。

 絶望のふちまで追い込まれた彼らには、明日が、夢が、希望が、勢いが必要だった。

 だから、演出をあえて行ったのだ。


「でも、我を使って雲にズドンと穴をあけ、さらに我のライトアップで目をくらませ、その瞬間にラーズをかぶるあの演出、我は実に好みですぞ」

「……自己嫌悪だよ」


 あんなに多くの人に頭部を見られたことは無い。

 今後の人生でも一度もないだろう。

 人の目力というのは、存外ぞんがいあなどれない。

 勿論もちろん、都の住まう彼らが、多かれ少なかれカピツル神の力を持つ特殊な一族であることも、何か増幅させているのかもしれない。

 もはや、視線で頭皮がチクチクするくらいであった。


「ふふ、慎太郎様。かっこよかったですよ」

「ええ。本当に」

「フモッ、フモーッ、フモーーーーッ!」


 大巫女だいみこ侍従長じじゅうちょう、そしてカプラも妙に満足している。

 素直にめてもらえるのも、それはそれで気恥きはずかしい。


「……さて」


 気を取り直す。

 すでに群衆は解散し、それぞれの役割を果たすために行動を起こしている。

 窓から見える大神殿のエントランスでは、いつもの天馬とクオーレが準備万端じゅんびばんたんで待っている。


「行こうか、世界を救いに」

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