第五十八髪 いざ行かん 黒き神との 戦いへ

 一行を乗せた馬車は、大神殿だいしんでん前の大通りを勢いよくけ、そのまま空へのぼっていく。

 そのままみやこの上空をぐるりと一周旋回せんかいすると、城壁じょうへきえ、黒き神へとき進んでいく。

 距離きょりにして数キロ程度。

 都に到達とうたつするまで、あと一日らずといったところだろう。

 慎太郎は目を閉じ、精神せいしんを集中させる。

 全員、ここに至るまで出来る限りのことはやった。

 あとは状況に合わせ戦い抜くだけだ。さして難しいことではない。

 慎太郎は目を見開く。


「行くぞ!」


 その声にクオーレや大巫女だいみこ、ルピカもときの声を上げる。

 眼下がんかに見える地上ではすでに、激しい戦いがり広げられている。

 黒き神から次々と排出はいしゅつされる黒きけものは、今日はそのほとんどが東の城門じょうもんに向け突撃とつげきしていく。

 それに対して、兵士長へいしちょうルビンひきいる都の兵は三重さんじゅう防衛線ぼうえいせんまもく。

 黒き獣の突撃はすさまじく、なおかつ速い。

 なので、どうしても取りこぼしが発生する。

 だからこそ、二重にじゅう三重さんじゅうと防衛線を構築し、すり抜けられたら次のたいに任せ、自らはり返らず前の黒に集中するのだ。

 このようにして、最終的に一匹いっぴきの通過もゆるさない。

 ただ、いかんせん敵の数はもはや無尽蔵むじんぞうに近く、生み出されるスピードも徐々じょじょに上がってきているように見える。

 これは過去の伝承でんしょう通りであり、黒き神がこの距離まで近づくと、途端とたんに勢いが苛烈かれつさを増すということであった。

 タイミング的にギリギリであったのは、言うまでもない。

 いずれにしても奮戦ふんせんしている彼らに祈りをささげ、慎太郎は自分の成すべきことのために、前を向いた。

 黒き神とは目と鼻の先にまで迫っていた。


「来ますぞ」


 ルピカは小さくつぶやく。

 それを同時に、自らの身体を巨大化させ、五体に分身する。

 時、同じくして、黒き神がぶるり、とふるえると。

 はるか上にある「口」の部分から、まるで嘔吐おうとでもするかのように、ねばり気のある大量の黒いタールのような何かが真下へ落ちてくる。

 だがそれは胸のあたりまでくると、一気に小さく分かれ、真横に


「慎太郎様! 鳥ですわ!」

「ああ、わかっている!」


 クオーレの手綱たづなにより、天馬は一気に動きを変える。

 急旋回し、一気に上昇したかと思うと、今度は急降下する。

 それは、まるで安全性を無視したジェットコースターのようなあばれ具合だ。

 だが、それを黒き鳥のれが凄まじい勢いで追いすがる。

 慎太郎は荷台の最後部に立つと、りのある声でヤナギノクむ。


「やみはらう ひかりかがやく とうちょうぶ!」


 はだの色が随分多くなった頭部はひときわ強くかがやき、ヤナギノクから飛び出したおびただしい数の光弾は、鳥の群れを次々と打ち《くだ》砕いていく。

 さらにはルピカが横から猛然もうぜんみつき、光輝くブレスをいてき払い、あるいはせまりくる別の一団いちだんき飛ばす。

 すり抜けた個体は、大巫女の結界けっかいにより弾き飛ばす。

 激しい攻防の中、効率のいい連携れんけいで黒き鳥は確実に数を減らしていく。

 だが、黒き神は再び黒く巨大きょだいかたまりをいくつもき出すと、それらはつばさを生やした黒き巨人となり、馬車へ肉薄にくはくする。


「なんだと! あんなパターンは聞いてないぞ!」

「おお、今回の黒いのは芸達者げいたっしゃですな」


 体当たり一撃で黒き翼巨人つばさきょじん粉砕ふんさいしながら、ルピカは縁側えんがわでお茶でも飲んでいるようなのんきさだ。

 それもそのはずで、突進とっしんだけでまたたに数体をほうむり去る。

 さすがは、伝説でんせつに名をのこす白き神のつるぎ、といったところか。

 ここまでの戦況は、悪くない。

 あとは、――タイミング。

 マリーナの一撃いちげきを待つばかりだ。


 一瞬いっしゅん視界しかいに入った北西の砲撃位置ほうげきいちでは、赤い湯気ゆげのようなオーラが立ちめている。

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