第五十五髪 胸躍る 決戦兵器 お目見えだ

 最終ブリーフィングが終わり、慎太郎とマリーナは、東門から出てすぐ北のところに場所を移していた。

 その理由はもちろん、で、だ。

 現場に到着すると、布をかぶせられた巨大な鎮座ちんざしている。

 その中では、男たちのやけに威勢いせいのいい声が聞こえる。

 どうやらそれも最終段階だったようだ。

 前の会議で見たいかつい顔つきをした大工長だいくちょうの中年男が中から出てきて、いたずら坊主ぼうずのような、やけに満足げな笑顔を二人に見せる。


「終わりましたぜ」

「ああ、本当にありがとう。良く間に合わせてくれた」


 マリーナは深々と頭を下げると、慎太郎へ向き直り、彼女にしては珍しく大きな声を上げる。


「さあ、お披露目ひろめだ!」


 布が男達によって一斉に取り外される。


「おお……!」


 慎太郎から思わず感嘆かんたんの息がれ出る。

 そこにあったのは、この世界に似つかわしくないほどの、あまりに長大な砲身だ。

 白銀色はくぎんいろをしており、陽光が無い中でもその美しさは目を見張る。

 また、砲身のいたるところに幾何学的きかがくてき模様もようきざまれており、まるで超古代文明の遺産や、あるいは遠い未来の図式のようにも見える、不思議な魅力があった。


「スヴァローグ。これが、ボクの『つるぎ』だ」


 圧倒的あっとうてき威容いようを背景に、マリーナは今まで見せたことがない、はっきりとしたみをたたえ、目尻には少し涙がまっていた。

 砲身は大量の木の骨組みに支えられ、若干の角度をつけた状態で固定されており、その先端は、確実に黒き神を射程にとらえている。

 ただ、砲口は不思議な形をしていた。

 慎太郎がイメージする一般的なそれは、完全なる円形のものだ。

 そこから弾などが発射されるというイメージであるが、スヴァローグのそれは妙にひらたく、弾はおろか、レーザー的なものが出る雰囲気すらない。


「ああ、スヴァローグはちょっと特殊でね。『ぐ』んだ」

ぐ、とな」

「ほら、剣とかでもる、くみたいなのがあるだろう。スヴァローグもそんなイメージで対象を横薙よこなぎする。そして、それこそがあの黒き神を倒すために、最も重要な要素なんだ」


 確かに、以前の戦いにおいては大地神エルザビの地上と地下を別つ神剣しんけんにより、黒き神はその権能けんのうを失った、と本に書かれてあった。


「それと同じことを成そうというわけだ。スヴァローグの技術的な説明は慎太郎の時代では無理だから割愛かつあいするが、この子の力は人類が創り出した兵器の中で最強クラスだ。間違いなく結果を残してくれるはずだ」

「なるほどなあ」


 自信たっぷりのマリーナの話を聞く限り、実績もあるのだろう。

 安心して任せられそうだ。


「それで、この子はボクにしか扱えないから、ボクはここに待機だ。シンタロー、後は頼む」

「ああ。任せてくれ」


 四十六歳男アラフィフの味のある笑顔を見たマリーナは、そっと一歩近づき、抱きつく。


「必ず、生きて帰ってきてくれ」

「……ああ」


 温もりを身体に感じ、慎太郎の心にほのおがや宿る。

 この子のためにも、必ず成しげよう。

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