第五十一髪 彼は訊く 本当にそう したいのかを
正午を少し過ぎた頃。
「それにしても、先程の会議はなかなかハードでしたね」
「ああ、もう一週間分は働いた気分だよ」
月に一度
今回
「そうだ、下北沢君。実は相談があるんだ」
「どうかされましたか。もしかして
「いや、それはそれで重要なんだが……、もう一つのほうだ。再びその、異世界転移……、というやつが起きてしまったんだ」
さすがに内容が内容だけに、顔をぐっと寄せて声をひそめる。
下北沢もそれに合わせてさらに顔を近づけるため、二人の距離はあと残り数センチというところだ。
またもや「キャー!」という女性が盛り上がる声と、複数の強い視線を感じるが、この話題が人の耳に入り、
「一度だけではなく二度ともなると、何らかの事象が起こっているのかもしれません」
下北沢は慎太郎から詳細を聞き出す。
一通り聞き終わった下北沢は顔を一旦離すと、腕を組み、右の人差し指で左の上腕部をトントンとリズムよく叩きながら、ふぅむ、と視線を上に向ける。
これは、彼が熟考を始める際、必ず行う
慎太郎は、下北沢が真剣に考えてくれること自体に感謝したくなった。
このようなことを彼以外に話そうものなら、
ひと度、間違いが起こりバズりでもすれば、一生笑いのネタにされるだろう。
慎太郎はふと先日、この世界はループしていると騒いだ有名人がSNS上で激しく炎上し、笑いものにされている一連の出来事を思い出し、頭皮にかいた汗がつるりと垂れ落ちるのを感じた。
「室長、確認させて下さい」
「な、なんだね、下北沢君」
再び顔をずずい、と近づけた下北沢の、やけに真剣な物言いに
彼は至って冷静に、慎太郎へこう質問した。
「室長は、本当に、その世界に戻りたいのですか?」
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