第五十髪 彼は知る それはまぎれも ない事実
そのまま
今週は変則的で、月曜日は平日だが、翌日火曜日はまた休日となる。
洗面台の鏡の前に立つと、目に見えて頭部が薄くなっているのを再確認し、思わず深いため息がつい出る。
改めて
やはり、あの一連の出来事はあったのだろう。
毛量の関係でセットもしようが無いので、
体力は完全に戻ってはいなさそうだが、本日は重要な会議があるため、休むに休めないし、会社に行かなければ
慎太郎は気を引き
「パパ。ママ、もしかして戻ってきてないのかなあ」
リビングに戻ると冷蔵庫の前にいる莉々は、少し困った表情で慎太郎を見る。
「どうした」
「作り置きがなくて」
「
例のごとく
慎太郎は端末のメッセージアプリを開き、妻とのやり取りの画面に
最後のメッセージは、「しんどいー、終わったらサーモンのお
「ママも頑張っている。そうだな、何か作ろうか」
「あ、じゃあ私サラダ作るから、パパは
「ああ」
早朝にベーコンと卵の焼ける
莉々は慣れた手つきでチルド室に入っていた
その
「ねえ、パパ」
「どうした」
「あの、昨日の……」
そこまで言って、うまく言葉にしづらいのか、口ごもる。
慎太郎は皿に半熟のベーコンエッグを盛り付け終わると、莉々へ気になっていたことを逆に尋ねてみた。
「パパは昨日、どうなっていた?」
「えっ、その……、変なこと言ってもいい? 笑わない?」
「
「うん。じゃあ、えっと、パパの身体が
莉々はその時のことを思い出す。
イベントが終わり、打ち上げという名のカラオケを皆でひとしきり楽しんだ後、莉々は自宅へと帰りついた。
予定より少し遅くなったため、
あまりの人気のなさに動悸が収まらない。不安に駆られ、急いで自室に荷物を置き、恐る恐る寝室を覗き込むと、そこでは信じられない光景が起こっていた。
「これ、前と同じ……! パパ!」
それは数日前の夜中にリビングで見た、あの現象の再来だった。慎太郎の身体は下に
慌てて
「えっ、なんで……どうして!」
触れることが出来ず、そのまますり抜けてしまう。
実体が、無いのだ。
震える手で何度も何度も触ろうと試みるが、何の感触も得られない。
莉々に出来ることはただ泣きじゃくりながら、父に呼びかけるだけであった。
「そうか……」
一連の話を聞き、慎太郎は確信した。
やはり、何らかの形で、私はあの世界に行った。
それはつまり、この世界での実体は希薄な存在になるということなのだろう。
莉々を見ると、その時のことを思い出したのか、少し
慎太郎は笑いながら莉々へと声をかけた。
「大丈夫だよ。パパはここに居る。さあ、時間もないし、食べようか」
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