第四十九髪 我が娘 そんなに泣くな 父はいる

 上から何か、熱いものが顔に降り注ぐのを感じて、慎太郎は目覚めた。


「む……、むむ」


 慎太郎の視界に入ってきたのは、泣きじゃくる莉々りりの顔だった。

 コスプレのメイクで、随分ずいぶんと雰囲気の違う顔つきにはなっているが、目元を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

 それも涙でぐちゃぐちゃになっており、ひどいことになっているが。


「パパ……、ううぅ……」


 視界のはしに映る景色を見て、慎太郎はのだと実感した。

 まだ、何とも言えぬ不快なれと不整脈のような気持ち悪さはある。

 が、それよりも、目の前の小さい頃と何も変わらない涙を浮かべる愛娘を落ち着かせようと、頭を撫でる。

 と、自身も少し若い頃、向けていたであろう笑顔を浮かべ、そっと声を掛ける。


「りーちゃん、大丈夫。パパはここにいるよ」

「ほんと? どこにも行かない? いっちゃやだよ」


 すがり付く娘を見て、申し訳なさで胸がめ付けられる感覚におちいる。

 そして、――道半ばで帰ってきてしまったことも、それをさらに増幅させる。

 ただ、今はこの極端な疲労感でまともに動かない身体を休めつつ、莉々のそばに居たい、とそう願う四十六歳アラフィフ父親パパであった。

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