第四十八髪 歪む視界 こぼれる記憶 遠ざかる
ルピカを見送った
その瞬間、足に力が入らなくなり、ふらりと体勢を
「慎太郎様!」
「ああ、……大丈夫だ。ちょっと休もうか」
エビネはやや標高の高い場所に位置するようで、この時期は一段と冷え込む時間帯もあるのだという。
隣に座る大巫女がゆっくりと身体を預けてくる。
「慎太郎様は、温かいですわね」
「……君も、な」
触れ合った部分はお互いのぬくもりで熱くなる。
普段から
すぐそばに大巫女の顔があり、
何とも言えない雰囲気に、気持ちが流れていきそうになる。
だが、一方で妙に冷静になる部分もあった。
「何というか、……すまない」
「うふふ、そんな。今度こそは、とほんの少し期待しましたけれど」
アプローチが失敗したというのに、なぜかその顔はとても嬉しそうだ。
こういう所が、この
慎太郎は自分が若く、まだ妻も娘もいなかったら、彼女に夢中だっただろうな、と、運命というものの奇妙を感じざるを得ない。
そんなことをぼんやりと考えていた時のことだった。
突然、
気づけば、
その目は
だがそれは
そして、
「
そう言って、ホタルブクロの淡い輝きを背に小首を
慎太郎は笑うしかない。
口周りがやけに温かく感じて、
と、その時だった。
強い
すんでのところで彼女に支えられ、地面に激突するのは避けられたが、ついさっきまで温かかったはずの身体が、今はとにかく冷たい。
冷たい海の中でもがいているかのように、熱が急速に奪われていく。
支えてもらっている身体の、ほんの少しの体温を頼りにその誰かにすがり付く。
視界は夜より一段と暗く、さっきまで楽しく話をしていたはずの温もりの主の名前すら、何故か出てこない。
怖い。
失うことが、思い出せないことが、奪われることが。
こんなにも絶対に君のことだけは忘れないと、
耳鳴りが強くなる。
あの子と違う声が聞こえてくる。
私は、貴方は、僕は、
キミは──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます